脅威の侵略者編 第七章
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「え? イプシロンから襲撃予告?」
東北のとあるサービスエリアにて、瞳子監督からイプシロンがそんなものを出したということを知らされた。予告された先は京都にある漫遊寺中学というところらしい。
何でもその中学は心と体を鍛えることをモットーにしており、対抗試合はしないものの、フットボールフロンティアに出場していれば間違いなく優勝候補のひとつとなっていただろうと言われるらしい。鬼道曰く、帝国が表の優勝校であれば、漫遊寺は裏の優勝校だと言われていたのだそうだ。
そんな不思議な学校に期待を募らせ、京都漫遊寺中学へやってきたイナズマキャラバンメンバーであったが、襲撃予告があったにも関わらず、漫遊寺中学はゆったりとした雰囲気を醸していた。誰一人、焦っている様子の者はいない。
「なんか、のんびりしてるよな……」
「襲撃予告なんて全く気にしてない感じ」
風丸と塔子が思わずそう零す。それくらい、漫遊寺の生徒たちは気ままに過ごしている様に見えるのだ。普通ならばきっと慌てるだろうし、寧ろ休校になってもおかしくないと思うのだが。
「もしかして、生徒には知らされてないのかな」
花織がそんなことは無いだろうと思いつつも、そう風丸に聞く。風丸は首を傾げながらわからないなと花織に返した。
「知らされてないなら俺たちに情報が回ってこないと思うぞ。……どういうことなんだろうな」
このようなことを花織と風丸だけでなく、他の面々も各々が考える推測を口にした。だがきっとその中のどれにも正解はないだろう。
「とにかく、サッカー部を探そうぜ」
チームの中で湧き上がる憶測を諌めて、円堂が声を上げる。チームが誰かに道を尋ねるなりをしてサッカー部を目指して歩き始めようとした時だった。
「サッカー部なら奥の道場みたいだよ」
ふんわりとした声が彼らの背後から響く。選手たちが声の主を振り返ってみると、吹雪が両脇を女の子に囲まれどうもありがとう、と礼を言っている。女の子たちの頬は赤く、満更でもなさそうな感じだ。
「また何かあったらよろしくね」
「はーい!」
吹雪の言葉に快く返事をした女の子の言葉の語尾にはハートでも付きそうな勢いだった。他選手たちはあきれ返る。花織もその一人だった。彼に対しての以前感じた印象は当たりだったようだ。女の子にはきっとモテるのだろう。そういえばさっき、京都に着いたばかりの時も地元の女の子に絡まれていたような気がする。
「私、一郎太くんが彼氏でよかった……」
花織が風丸の隣で、周りに聞こえないような声の大きさで呟いた。風丸はえ? と言って花織の方を見る。花織は困った様子で笑い、その理由を口にした。
「だって、彼氏があんな風に知らない女の子にデレデレしてたら嫌だもの」
風丸はどちらかといえば女の子に対して奥手な方であるだろう。花織に対してのみが例外なだけで。だからこそ、吹雪のように他の女の子に声を掛けたりしないから嫉妬しなくていいと、彼女は言いたいようであった。
つまるところ、花織もヤキモチ焼きなので風丸には異性とあまり話してほしくないのである。だったら花織も自重すべきだ、と風丸は思ったりもするのだが、キャラバン内の男女比を考えると、そんなことを言うのは無謀だともう何度目になるかわからない言葉を喉の奥に引っ込めるのであった。
その後、一行はサッカー部の部室となっている道場を目指して漫遊寺の廊下を歩いていた。漫遊寺中は木造りのところが多く、歩くたびに床が軋むところがあったが、それだけ歴史が長いのだろうし、何と言ってもそんな木の音が楽しかったりもした。
「道場道場……」
円堂が呟きながら先陣を切っている。花織と風丸はメンバーたちの後方にいた。他愛もない話をしながら道場を目指す。まるで修学旅行で寺に来たみたいだ、などという話が主だった。中学校なのにも関わらず、漫遊寺はとてもそうは思えない造りをしている。
広い校舎を歩いてしばらく、ようやく"蹴球道場"と書かれた看板を一行は見つけることができた。そこまでは長い廊下が続いていたが、あともう少しだ。円堂がよし!行くぞ皆!と声を上げ、足を速めたその瞬間だった。
つるん、っと効果音が付きそうな勢いで円堂が転倒する。それに続けて足を速めたメンバーたちが次々に円堂に躓きすっ転んだ。花織も隣に居た風丸もバランスを崩して前のめりになる。
「わ、きゃっ」
「危ない!」
このままでは転んでしまう、そう思い、悲鳴を上げそうになった花織の手を誰かが掴んだ。その手に引き留められ、花織はぐんとその場に留められたのを察する。どうやら転ばずに済んだらしい。恐る恐る目を開けて、助けてくれた人物を振り返ってみれば、心配そうな様子の吹雪が花織の顔を見つめていた。
「花織さん、大丈夫かい?」
柔らかな声と同時に心配そうに肩を掴まれ、花織は動揺した。ただとにかく、吹雪に助けられたおかげで転ばずに済んだのだということは分かった。花織は何とか頷いて吹雪の問いに答えを返す。
「うん、お陰様で……。ありがとう、吹雪くん」
まだ転びそうになった衝撃にバクバクとする心臓を撫でつける。そしてあることを疑問に思った。……隣に居た彼はどうなった?ハッとして花織は後ろを振り返る。そこには無残にも転んだ選手たちが山積みになり、その一番上に彼がぐったりと乗っかっていた。
「い、一郎太くん……!」
慌てて花織が吹雪から離れ、今度は転ばぬよう用心しながら風丸の元へと駆けよる。そして壁山の上に伏せている彼の肩を揺すぶり、急いで助け起こした。
「大丈夫? 怪我してない?」
「……ああ、俺は大丈夫だ」
今度は自分が心配そうに彼の顔を覗きこみ、焦った様子で問いかける。風丸は柵に手を置きつつ、花織の髪を撫でた。
「花織は、怪我してないか?」
「うん、吹雪くんが助けてくれて……」
「……そうか」
心なしか低い声で返答し、風丸がちらりと吹雪を見やる。吹雪は少し眉根を寄せて花織の後姿を見つめていたようだが、風丸に気が付くといつもの微笑を浮かべて怪我がなくてよかったよ、と人の良いことを言った。
風丸はムッと眉間に皺を寄せてしまう。吹雪が花織を助けたことも、今一瞬見せた一連の行動も気に入らない。……まるで花織に対して吹雪が特別な感情を抱いているかのように錯覚してしまう。正直、吹雪がそういう意味でのライバルになってしまうと自分では適わないような気がした。
「一郎太くん、大丈夫?」
「えっ……」
「ぼうっとしてる。……本当はどこか怪我してるんじゃない?」
花織が風丸の肩に触れ、再び心配そうに風丸の顔を覗きこむ。風丸は大丈夫だと返しながら、立ち上がった。花織が今、これほどまでに自分の傍にいてくれているのに他の奴らを気にしていても仕方がないだろう。胸の中で何か燻るものを感じながらも風丸は自分の中に湧く妙な感情を振り切った。
みんなが廊下で転倒するという大事故は、床の一部にだけ塗られたワックスのせいだったようだ。ほとんどの選手たちに怪我はなかったが、目金が壁山に押しつぶされたせいで足を捻ったと言い張った。
「なんでここだけツルツルするんだよー……」
塔子がムッとした様子で呟く。すると廊下脇の垣根の陰から声がした。
「ウッシッシ、ざまあみろ!フットボールフロンティアで優勝したからっていい気になって」
ツルピカールという商品名のワックスを片手に意地悪そうに笑ったのは、小さな青髪の男の子だった。どうやら漫遊寺の生徒の様であるが、こんなところで何をしているのだろう。だがそんなことよりも、彼の言葉に苛立ったのか塔子が苛立ちを表情に浮かべ、柵に手を掛けた。
「お前、よくもやったな!」
塔子の言葉に男の子が背を向け、逃げ去ろうとする姿勢を見せる。塔子は素早く柵を越えると彼を追いかけようとした。だが、追いかけるよりも早く彼女の悲鳴とドスンという大きな音が響く。他の面々が下を覗き込むと塔子は浅い穴の中で土塗れになっていた。どうやら、落とし穴に落ちたらしい。
「引っかかってやんの~、ウッシッシ」
そう言いながら穴をしかけた張本人らしき男の子は穴の中の塔子に向かって尻を振った。完全に挑発、というか子供じみた悪戯だ。何なんだアイツ……、と若干引いた様子で風丸が零す。他のメンバーも同じような反応だった。
「木暮ー‼」
どこからともなく怒号が響く。男の子はその声にヤバい、と言いたげな表情を見せると身軽な動きでどこかに行ってしまった。