脅威の侵略者編 第六章
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監督の指示通り吹雪をセンターバック、花織をサイドバックに置いて試合がスタートした。風丸はホイッスルと同時に駆けだす。脳裏には先ほど鬼道が試合前に掛けてきた言葉が反芻していた。
"俺も花織を出すことには本当は反対したい。……だが、花織が戦力になることも事実だ。大丈夫だと信じるしかない、アイツは俺たちの練習についてこられるだろう"
大丈夫、本当に気休めにしかならないが信じるしかない。風丸はそう思いながら試合に挑んだ。
だが、彼らにはいい意味で誤算があった。あのスノーボードによる特訓をしたからだろうか、ジェミニストームの選手たちの動きがはっきりと見えた。それは風丸たち選手にだけではなく、花織にも当てはまることであった。
まともな試合が行えている、花織もチームの一部として機能していた。エイリア学園との力量もさほど離れていないように思えた。シュートを受けるキーパーならともかく、フィールドプレイヤーと対なら問題ないかもしれない。
「疾風ダッシュ‼」
花織が彼の必殺技を叫んで走る。彼女から繋がれたボールが自分のところへ回ってくる。スピードが奴らに追いつけているからだろうか、心に少し余裕がある。花織と同じフィールドで、仲間として戦うのは初めてかもしれない。でもどんなところにいたとしても、彼女の走る姿は綺麗で目を奪われる。……心からそう思った。
以前よりも早くなっているスピード。花織もきっとかなりの練習を陰ながら積んでいた事だろう。恐らく、風丸を目標にして。だから風丸は誰よりも速い存在でありたかった。いつまでも花織の尊敬に値するスピードを己だけが持ち続けていたかった。
しかし今、自分の自慢のスピードは霞んでしまっている。エイリア学園や新参の吹雪士郎のスピードで。
それを悔しく思いながらも上辺には出さず、彼はパスを送った。
❀
冷たい空気の中にホイッスルの音が響き渡った。
エイリア学園、ジェミニストームとの試合は三戦目にしてようやく雷門中が勝利を得た。決勝点は染岡のアシストから放たれた吹雪のエターナルブリザードであった。この二人は先日まであれほど仲が悪かったにも関わらず、土壇場で互いに合わせることができていたようだった。
ホイッスルの音は両チームの選手たち、そして観客たちに衝撃を走らせた。勝利したのだ、宇宙人に彼ら雷門レギュラーが。
「やったぞおおおっ‼」
拳を突き上げた円堂の声がフィールドに響き渡る。同時に雷門イレブンの中にも勝利の喜びが広がって行った。人類が勝った、これで脅威は終わるはずなのだ。もうサッカーによる破壊は行われない。そう思えば思うほど、選手たち観客たちは喜びにあふれる。きっとそれはテレビで中継されていた先の者たちにも広がっているはずだ。
「半田、マックス、みんな……。俺たち勝ったぜ……!」
空を見上げ、嬉しそうに風丸が呟く。花織は彼の元へ駆け寄った。そうすると彼は花織の方へと視線を寄せてくれる。花織は笑顔で彼に声を掛けた。
「一郎太くん!」
「花織」
抱きつかん勢いで花織が彼の元に飛び込む。風丸はそんな花織の身体を支え、そこに止まらせた。花織の表情は喜びの余り、今にも泣きだしそうだ。それでもしっかりと笑顔を浮かべ、風丸を見つめている。
「勝った……、勝ったね!」
「ああ!」
どちらともなく手を取って、監督の元へと駆けだす。円堂が号令を掛けるまでもなく、選手たちは監督の元へと集まり始めていた。そして一同が集まったところで円堂が監督に頭を下げた。
「監督、俺たち勝ちました!ありがとうございます!」
円堂の言葉につられて花織も頭を下げる。……気に食わないと思ってはいたが、それでも瞳子は雷門イレブンを勝利に導いた監督であることに間違いはない。彼女の采配が今日の雷門イレブンの勝利を導いたと言っても過言ではないからだ。
「おめでとう」
いつもならば考えられない微笑を浮かべて瞳子が頷く。誰もがこの勝利ですべてが終わったのだと思った。
「……お前たちは知らないんだ。本当のエイリア学園の恐ろしさを」
呻くような声でレーゼが吐き捨てた。その表情には悔しさ、困惑……そして何より恐怖の様なものが察せられる。円堂ら雷門イレブンはそのレーゼの言葉を怪訝に思い、彼の方を見やる。
「我々はセカンドランクに過ぎない。我々の力など、イプシロンに比べれば……!」
イプシロン? セカンドランク……? 花織は眉を顰める。レーゼの放った言葉の意図を察することが怖かった。その意図を推測してみると、彼女は一つの答えを見つけてしまう。まだ脅威は終わっていないこと……。エイリア学園にはまだ上位チームが存在するということを。
「無様だぞ、レーゼ」
どこからともなく響いた声。それと共にフィールドには黒い霧とも煙ともいえないものが立ち込める。隣に立っていた風丸が花織の手を引き、花織の身体を自分の近くへと引き寄せた。花織が彼の苦々しい表情を見たと同時に、辺りは紫色の閃光に包まれた。
「デザーム様……‼」
レーゼが恐れ、戦いたような声色で何者かの名前を呼ぶ。レーゼの視線の先には11人、ジェミニストームとどこか似た形のユニフォームを着用した者たちが嫌らしい笑みを浮かべて立っていた。そのうちの一人、ゴールキーパーであり、チームの中心であると思しき人物が抱えていた黒いサッカーボールを掲げた。
「覚悟は出来ているな、レーゼ。お前たちを追放する」
「……デザーム様」
レーゼが膝から地面に崩れ落ちる。雷門イレブンは完全に蚊帳の外であった。デザームと呼ばれたその人物は黒いサッカーボールをジェミニストームの選手たちに向かって蹴りつける。
「‼」
そのボールから放出される光はジェミニストームの選手たちを包み込む。たった一瞬のうちに、光に飲み込まれた彼らはその場から忽然と姿を消してしまった。チームの誰もが、嫌というほど現状を理解できた。その真実に身体は震え、瞳は動揺に揺れる。
「我らはエイリア学園ファーストランクチーム、イプシロン!地球の民たちはやがてエイリア学園の真の力を知るだろう」
エイリア学園の脅威は、まだ終わってなどいないのだ。