脅威の侵略者編 第六章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日の朝、花織は少し遅れて練習に出ようとしていた。朝食の片づけが遅れてしまったのだ。急いで準備をしてグラウンドへと向かう。今日も今日とて外は寒い。今日はスノーボードではなく、グラウンドでの久々の練習だ。どの程度スピードがアップしているか、自身楽しみなところである。
花織は冷たい風の中を駆けた。こんなところではなくて、早くフィールドを走りたい。彼の隣を、走っていたいと思う。
「ねえ」
足早に道を急いでいると唐突に声を掛けられた。花織はその場に立ち止まって声の主を振り返る。見覚えの無い、同年代の男の子だった。
「?」
「君も、雷門イレブンのひとり?」
誰だろう、花織は顔を顰める。身長は風丸と同じくらいだろう。赤い髪に整った顔立ち、暖かそうなダウンジャケットを羽織っている。少し顔色が悪いような気もした。
「私は雷門イレブンのマネージャーです。…………、白恋中の方ですか?」
得体のしれない人物に花織は何となく警戒心を露わにしつつ、質問をした。いや、と少年は赤い髪を揺らして花織の質問に答える。
「違うよ。でも僕は円堂君と友達だから、君たちにも興味があってね」
「キャプテンの、ご友人……?」
花織はその少年を見つめた。白恋中の生徒ではない、ということは別の中学の生徒だろうか。円堂の友人だというのだから、この少年自身もサッカーをしている可能性が高いだろう。円堂の友人、というなら風丸はこの人のことを知っているだろうか。花織はそんなことを思考する。
「うん。……君は」
じり、と少年が花織の方へ歩み寄る。花織は反射的に少し身体を引いた。ふっと彼の形の良い唇が笑う。
「サッカーが好き?」
花織はぴくっと身体を揺らす。彼の言葉に何か含みのあるような気がした。花織は胸の下あたりで腕を組んで少年を見やる。冷たい北風が二人の髪を舞い上げた。
「好きですよ。……急にどうしてそんな」
「どうして?」
花織の言葉を遮るように少年は言葉を重ねてきた。落ち着いた声色だが、どうしてかそれは花織の不信感と得体のしれない恐怖心を煽る。彼の素性が全く知れないからだろうか。花織は彼に動揺を見せた。
「……私の大切な人が、サッカーが好きだから。彼がサッカーをするから私もサッカーをするし、サッカーを見ることが好き、です」
嘘偽りの無い答えを花織は口にした。少年は一瞬、驚いたように目を見開いて花織を見た。しかしすぐに表情を緩ませてへえ、と笑みを浮かべる。今度の微笑みは先ほどよりも親しみの様なものを感じた。
「奇遇だね、俺も父さんがサッカーを好きだったから始めたんだ。父さんがサッカーを好きだから俺はサッカーをする」
奇妙な一致だった、だがそれがいったいなんだというのだろう。花織は黙って彼の言葉を見守っていた。本当に、不思議で妙な人。できることならば早く解放してほしい。花織はそんな想いを内心抱く。
「円堂くんもそうだけど、君のことにも興味があるなあ。マネージャーさん、名前は?」
「月島、花織……」
相手は明らかに不審者、わかってはいるが勢いに気おされて名前を答えてしまった。ふうん、と少年は満足げに笑って花織を見据えた。
刹那、地響きと共に空に暗雲が立ち込める。周囲の空気が一瞬で悪くなるのが分かった。これは……、花織は驚いて目を瞑ってその場にしゃがみ込んでしまう。何が起こったのかを瞬時に悟った、きっとエイリア学園が来たのだ。そう思う花織の耳元にそっと少年の囁き声が聞こえる。
「……またね、月島さん」
少年の声と共に地響きは治まった。花織は恐る恐る目を開け、慌てて周囲を見渡した。少年の姿はもうどこにもなかった。