脅威の侵略者編 第六章
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スノーボードでの練習を続けて早二日、選手たちは完全にスノーボードをマスターし、四日前までは素人だったとは思えないほどの上達ぶりを見せている。花織もあの日一日だけの吹雪の指導を受け、何とか選手たちに追いついたようだ。風丸と一緒に滑る、という約束も何とか果たすことができている。それが彼女にとって何よりも満足であった。
「身体、大丈夫か?」
連日のスノーボードの練習のせいで身体の至るところに痛みを感じ、時折顔を顰めていた花織に隣を歩いていた風丸が声を掛けた。今日の練習はもう終わりで花織らは教室に戻る途中だった。本来ならば花織はマネージャーなのだから、夕食の準備をしなければならない。しかし秋の気遣いによってそれは免除されている。尤も免除というよりも食事以外の仕事の分配を花織に大目に割り振った、という答えが正しいだろうか。
練習後の片づけや、就寝前の寝袋の準備などが彼女の今の主な仕事だ。また、早朝に目が覚めることから洗濯もできるうちから行うようにして、なるべく練習に参加できる時間を増やすように心がけていた。
だからこそ、風丸は花織が無理をしているのではないかと感じ心配そうに声を掛けた。
「うん、このくらい平気。一郎太くんも大丈夫?最近キャプテンと染岡くんと朝練してるよね、無理してない?」
「無理なんかしてないよ。段々自分が風になってるのを感じる、それが実感できるからいくら練習しても足りないくらいだ」
花織が逆に問い返せば風丸はいつものように大人びた微笑を見せた。その微笑にはどこか嬉しそうなものが滲んでいるのを花織は悟った。それはきっと先刻目の前に展開された光景のせいでもあるだろう。
「さっきのストライカー対決で証明されたもんね。皆が成長してるんだってこと」
先刻、染岡が吹雪に一対一の対決を申込み、なんと勝負に勝ったのだ。先日まではまったく追いつけなかった、誰も寄せ付けない速さを持っていた吹雪とほぼ互角の勝負をし、そして勝った。きっと単純なスピードではまだ吹雪の方が速い。しかしそれでも徐々に速さに慣れ、追いつき始めている。
「ああ!俺たちディフェンスがボールを取って、吹雪や染岡に繋げなきゃいけないからな」
頼もしい横顔。先日、聞いた彼の不安は解消されただろうか。花織は彼を見つめてそんなことを思う。ずっと心配だった、あんなことを彼が言うなんて思っていなかったから。だが、練習の成果が出た為か彼はとても晴れ晴れしている。
「期待してるよ。一郎太くんの走りに」
花織はクス、と笑う。こういう掛け合い、前にもよくやった。そしてふと思い出した、自分があることを忘れていたことに。花織は抱えていた自分の荷物の中、コートのポケットから携帯電話を取り出す。
「一郎太くん、ちょっといい?」
「花織?」
突然携帯を取り出した花織に風丸が不思議そうに首を傾げる。花織はとある番号を選択するとすぐさま呼び出しをする。花織は携帯を耳に押し当てて相手が出るのを待った。コールが1回、2回……、五コール目で相手は出た。
「もしもし。……久しぶり、今時間ある? 報告したいことがあるんだけど……。え? うん分かった」
花織は携帯を耳から離し、携帯のボタンを操作する。風丸には今の状況が全くつかめなかった。困惑した様子で花織の動作を見守っていると花織の携帯から音楽が流れた。聞いたことのあるクラシック曲だ、携帯の保留音か?
「相手は誰なんだ?」
「あ、ごめんね。……マックスくんと半田くん。あのね、私がちゃんと一郎太くんに話ができたら連絡するって約束してたんだ」
「マックスと半田?」
キャラバンでエイリア学園を倒すたびに出る数時間前、確かに花織は彼らと話して約束をした。ここの所、忙しくて連絡を約束していたことをすっかり忘れていたのだ。風丸はきょとんとした様子で花織を見ていたが、彼を現実へ引き戻したのは携帯から聞こえた声だった。
「花織、遅いよ! 僕もう、待ちくたびれてたんだからね」
「おいマックス、落ち着けよ」
電話の奥からがやがやと声が聞こえる、だけでなく画面には病衣姿のマックスと半田が映っている。どうやら花織は先ほどの操作でビデオ通話にしたようだ。彼女の手の中にある携帯を風丸は覗き込む 。彼らは思ったより元気そうだった。
「ごめん、中々一郎太くんと話す機会がなくて……。でもちゃんと話せたから、って報告」
「みたいだね、ちゃんと風丸が映ってるし。風丸久しぶり、やっと花織とよりを戻したんだね」
マックスが風丸に声を掛ける。
「あ、ああ」
「キミもキミだよ。いつまで花織と喧嘩したままでいるつもりだったのさ? キャラバンが出発してから二週間以上たつのに今まで何もなかったわけ?」
「マックス、あんまり興奮するなって! 注目されてるぞ!」
画面の中のマックスと半田が揺れる。どうやら携帯を持つマックスの肩を半田が揺らしたためのようだ。風丸はそっと花織の身体を寄せる。そしていつもの花織が頼りになると感じている微笑で告げた。
「……何も無くはないだろ? こうやって仲直りできたんだから。……花織が俺を選んでくれたからな」
風丸が花織に笑い掛ければ花織は嬉しそうに彼の胸に身体を預けた。すなわち、寄り添っている様に半田たちには映るだろう。
「うわー、リア充。また前みたいにイチャイチャしてるんだろうね。目に浮かぶよ」
「お前、花織たちにどうしてほしいんだよ……」
半田があきれ返った声を上げている。でもどこか嬉しそうだった、花織と風丸が仲直りしたということで自分の気持ちも報われたようなものだからだろうか。ふたりを見て少し嬉しそうな表情を見せているのはそのせいかもしれない。
「じゃー、僕らそろそろご飯だから。早いとこエイリア学園倒して、戻っておいでよ。じゃねー」
「あ、おいマックス!」
画面がぶつりと切れてテレビ電話から通常通話に戻る。花織が再び携帯を耳に押し当てた。どうやら今話しているのは半田らしい。短く別れの言葉を交わすと、花織は風丸に携帯を差し出した。
「半田くんが一郎太くんと話したいことがあるみたい。代ってくれって」
「? ああ」
花織の携帯を風丸は受け取る。風丸が携帯を耳に当てると同時に、遠くから花織を呼ぶ秋の声が聞こえた。きっと夕食の準備ができて、手伝いの為に花織を探しているのだろう。花織は先に戻るね、と言って風丸の元から離れて行った。携帯から半田の声が聞こえる。
「半田」
「……よかったな、風丸」
静かな、先ほどよりも落ち着きを払った声。風丸は目を伏せる、半田の気持ちを何と推し量ればいいかわからなかった。前もこうやって背中を押してくれた友人、……かつてのライバル。
「ありがとう、半田」
半田に対して言える言葉はこれだけだ。