脅威の侵略者編 第六章
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朝食の際、ほとんどのチームメイトに風丸と花織がよりを戻したことは知れ渡った。いや、知れ渡ったというよりも見ていて明白であったのだ。先日まで無理やり互いを避けていたふたりが仲睦まじく話をしていれば誰でもわかる。ふたりとも隠す気もないのか、別れる前と同様、いやそれ以上にべったりとくっついているような……周囲にはそんな気がしていた。
「花織ちゃん、風丸といつの間に仲直りしたんだよ」
朝食の片づけをしている花織に茶化すように土門が声を掛けた。表情にはにやにやとした笑みがこぼれている。傍らにいる一之瀬はにやにやこそしていないものの、安心したような笑顔を浮かべていた。
「ふふ、昨日の夜にちょっとね」
「ふたりで夜中にデートしてたのかよ。お熱いな~、相変わらず」
「やだ、そんなんじゃないのに」
からかうような口調の土門に花織はほんのりと頬を赤く染めて反論した。だがそんな言葉を返しつつも花織の表情に滲み出る幸せそうな様子は隠せていない。よほど風丸とよりを戻せたことが嬉しいのだろう。ちょっとした仕草や表情にそれが感じられるのは彼らが花織と親密な仲だからだろうか。
「よかったね。花織」
一之瀬が安堵したような、そんな微笑を浮かべて真っ直ぐに花織を見つめた。花織と土門は掛け合いを辞めて一之瀬の方を見る。優しげなその瞳に花織はどうしてか涙腺が刺激された。
「一之瀬くん……」
「今の花織は、俺が今まで見てきた花織の中で一番幸せそうだ。それは君が自分の想いを貫いたからこそ、あるものだよ」
一之瀬はただ友人として花織のことを心配していた。一之瀬が初めて花織と話した時、花織は風丸に別れを告げられたばかりで酷く落ち込んでいた。無理に元気を出そうとしているのが嫌でもわかった。悲しそうな目で風丸を見つめてばかりいた。一之瀬は二人の状況を知りはしなかったが、花織の瞳からよほど花織は風丸を好いているのだろうと感じていた。
「花織……、君の想いが届いてよかった」
「……ありがとう、一之瀬くん」
だからこそ嬉しい。今まで支えてきた友人の心が報われたという事実が。そしてそれは一之瀬だけにある感情ではない。
「ホント、一時はどうなるかと思ったけどな。……でも俺も一之瀬と同じだ」
土門も花織の気持ちを応援していたから、彼女の想いが叶ったことに対して心から良かったと感じていた。何せ初めは鬼道に肩入れしていて、彼らの中を引っ掻き回したのは自分であるとわかっていたから少しばかり心苦しかった。
だからこそ花織の想いが再び風丸に通じて良かったと思う反面、鬼道の想いが実らなかった事に対して虚しさの様なものを抱いている。土門は複雑な立場だった。風丸よりも一年も早くから花織に対して思いを募らせていた鬼道の気持ちも知っているのだから。
「風丸ともう喧嘩すんなよ?」
「うん」
花織の頭をポンポンと撫でながら、にっと土門が笑い掛けて見せる。その時、不意にこちらに寄せられている視線に気が付いた。鬼道……、土門は彼に視線を向ける。鬼道は花織を見つめていたようだが、土門の視線に気づくとふっと、困ったような仕方のないというような表情で眉を寄せた。
……アイツも了承してるんだな、一応。
どうやら知らない間に花織と鬼道の間にも決着はついていたらしい。
「花織、ちょっと来てくれないか?」
花織を呼ぶ声がして土門は再び花織に視線を戻す。するといつの間にか花織の背後には、彼女の恋人である風丸が立っていた。風丸は花織を見つめていたが、ちらりと土門に視線を寄越す。……余計なちょっかい掛けるなってわけか。土門は慌てて花織の頭から手を引いた。
「うん。それじゃあ土門くん一之瀬くん、また後でね」
軽く手を挙げ嬉しそうに笑いながら花織は風丸に付いて行った。土門は手を振りかえして彼らを見送る。教室を出ていく二人を見ていると仲の良さがよくわかる。風丸の表情も心なしか嬉しそうだ。土門の隣に居る一之瀬が呆れたように肩を竦める。
「花織が風丸の事を本当に好きなのは知ってたけど、風丸もよっぽど花織が好きだね」
「ていうか、寧ろ風丸の方が重症なんだよなあ……」
一之瀬の言葉に土門も苦笑する。それでも心から良かったと思える。花織が一番ショックを受けていた時のことを知っているからだろうか。だからこそ、思う。二人の間を裂くようなことがもう二度と無いようにと。