脅威の侵略者編 第五章
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「……」
深々と雪が降り積もっていた。わいわいと賑わう円堂たちの声が、部屋の中から聞こえてくる。風丸一郎太は教室の外、ベランダに出て自分の階下にいる一人の人物を眺めていた。吐く息が視界を覆い隠そうとする。だが凍てつくような空気のせいか、はたまた幻想的な街灯のせいか、下での光景は風丸の目にはっきりと映った。
どうして、花織と吹雪が一緒に居るんだ。
今日からイナズマキャラバンに参加することになった吹雪士郎。別に風丸は染岡のように吹雪に対して反感を持っているわけではない。だが、今時分の目に映る光景は全く持って気に入らない。外に花織の姿が目に映ったからベランダへ出てみた。何故二人で一緒に外に出ているのだろう。
楽しげに話をしている様に見えるその光景が、風丸の眉間に皺を刻んだ。別に花織の恋人ではないのだから花織が誰と話をしようが勝手だろう。風丸が腹を立てる義理なんてない。それでも無性に気にかかって、気持ちが苛立った。
アイツらは今日知り合ったばかりのはずだ、なのにどうして、二人でこの場を抜け出している? 何故あんなに吹雪は親しげに花織の肩に手を触れている? 出会ったばかりなのに。
「機嫌が悪そうだな、風丸」
半ば睨み付けるような視線で風丸が階下にいる花織らに視線を向けていると不意に背後から声が掛かった。風丸は振り返る、そして声を掛けてきた人物の名前を呟いた。
「鬼道……」
風丸の眉間にますます皺が寄る。何と言っても鬼道は恋のライバルだ、どうしてこの複雑な気持ちの最中にいる時に彼は声を掛けてくるのだろう。風丸はため息を殺して平然さを取り繕う。
「どうしたんだ、ベランダに出てくるなんて。気温が低いから風邪を引くぞ」
「その言葉、お前にそっくり返すぞ。…………なるほど、花織と吹雪が一緒に居るのか、お前の機嫌が悪いわけだな」
鬼道はふっと肩を竦めて笑いながら風丸の隣に立つ。風丸は鬼道の余裕な表情にますます不服そうに顔を顰める。コイツは花織が、好きな人が他の男と居ても平気なのか。ただただどこまでも自分の周囲が不快に見えた。
「吹雪は妙に花織を気に掛けていると思うぞ。早く正直にならないと、花織をアイツに掻っ攫われるんじゃないか」
「俺もその言葉をお前に返すよ。……お前こそどうなんだ、花織が他の男と一緒に居て平気なのか?」
鬼道の達観した言葉が癇に障って風丸は鬼道を睨みながら吐き捨てる。鬼道は肩を竦め、眉根を寄せながら呟くように言った。
「平気ではない、だが俺にはどうしようもないだろう? ほんの先日前、アイツに振られたばかりなんだ」
「は?」
予想だにしなかった言葉に風丸は思わず問い返した。目を大きく見開き、鬼道を凝視している。鬼道は風丸の驚きようを可笑しそうに見ながら言葉を続ける。その口調は毅然としたものだったが、風丸にはどこか切なさが滲んでいる様に、そんなふうに思えた。
「豪炎寺がキャラバンを降りたすぐ後だ。花織自身に俺の気持ちには答えられないと言われた。誰かさんが好きだから、とはっきり宣告されたな」
「……」
「それでもせめて友人として傍にいさせてくれと頼んだんだ。その選択がどれだけ俺を苦しめようと、ただアイツを眺めることしかできないよりはマシだと踏んだ」
風丸は唐突な鬼道の告白に呆気に取られていた。いつの間に決着がついていたんだ、上辺には微塵もそれを出さないで。きっと二人の関係の終結が欠片も表に出ないのは鬼道の精神力が強いからだろうが、よくそれほど平然としていられるものだと思う。でも理由はよくわかった。
それだけ本気で鬼道は花織の幸せを願っているのだ。きっと花織を振った時の風丸と同じだ。あの時の風丸も怖い位穏やかで落ち着いていた。きっと今の鬼道の状態はその時の風丸に近いのだ。
「風丸」
「なんだ?」
鬼道の複雑であろう思いに思案しながら風丸が返答をすると、鬼道は渋い顔をして風丸を見る。その表情からよくわかる、鬼道がまだ花織をあきらめたわけではないことが。
「もしも花織を泣かせる様な事をしてみろ。すぐに俺がアイツを奪い返す」
それはエールのようで、敗北宣言のようで、それでも宣戦布告であった。