脅威の侵略者編 第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日の夜、夕食を済ませた花織は寒空の下で雪を眺めていた。
あの試合の後、染岡と吹雪の間に一悶着あったのだが、それでも吹雪が正式にイナズマキャラバンに参加することが決まった。染岡は納得がいかなかったようだが、円堂が何とか説得したらしい。一応夕食の時点では、吹雪を睨み付けてはいたものの特に文句を言いはしなかった。
吹雪はというと、あの試合の後すぐに出会った時と同じようなふわふわとした雰囲気に戻っていた。あの性格がいったい何なのかはわからないが、雷門イレブンはそれをあまり重要視していないようである。
花織は白い息を吐きながら深々と降る雪を両手に受けた。手に落ちた雪を街灯に照らせば、美しく手の中でそれは煌めいた。それにまた花織は息を吐く、やはり昼間に行った雪遊びもいいがこうやって静かに雪を眺めるのも花織はとても好きだと思う。
彼と一緒に眺められたら、花織はふとそう思った。そして校舎を振り返る、きっと彼は今雷門イレブンが食事を摂ったりする為に用意された教室にいるだろう。みんなと楽しく過ごしているかもしれない。そんな中彼をこんな寒いところまで呼び寄せるのには気が引けた。
でも……、彼に用があるのだとしたら。花織はそう思う、花織はずっと彼に伝えたいことがあるのだ。どうしてか告げようとするたびにそれは妨げられてしまうのだが……、そろそろ本当に彼と話したいと思う。このままの関係でいるのは花織にはもどかしくて仕方がない。
花織は決意を固めてコートのポケットから携帯電話を取り出した。ここで、とは言わないが彼と寒くなく、雪が見える場所で落ち合えたらと思う。雪が見える中で自分の想いを伝えられたら、なんとロマンティックだろうか。花織も年頃の女子であるからそういうシチュエーションには憧れる。
携帯電話に彼の番号を表示させる。気づいてくれるだろうか、寒さと緊張で少し手が震えたが大きく息を付いて心を落ち着かせる。
「花織、さん?」
今まさにボタンを押そうとしていた花織の名が、彼女の背後からよばれた。驚いて花織は振り返る、するとそこには少し怪訝そうな表情をした吹雪士郎が立っていた。どうやら校舎から出てきたらしい彼は、そこにいるのが花織であるかという自身がなかったようだが、花織であったことが認められると柔和な微笑を浮かべた。
「吹雪さん……?」
「やっぱり君だったんだ。校舎の窓から君の姿が見えたから気になったんだ」
雷門イレブンが泊まるからと白恋のメンバーも校舎に宿泊している。もっとも、彼も今日付けで雷門イレブンの一員になったのだから一緒に泊まること自体は何ら不思議ではないだろう。
「そうですか……」
「うん。こんなに寒いところで何してたの?」
花織は吹雪が印象として少し吹雪が苦手であった。悪い人ではないとは思うのだが、試合時の性格の変貌が何とも受け入れがたいものがあるし、何より吹雪の様な人物を今までに友人として持ったことがないからどういう風に接すればいいのかわからないのだ。
「雪を見ていたんです。街灯に照らされてすごく綺麗ですから……」
「東京ではあまり降らないんだってね。……君の言うとおり、雪はとても綺麗だよ。一つ一つ結晶になっていて、それもみんな形が違う。凄く綺麗だ」
花織は吹雪に視線を寄せた。奇遇だが、どうやら気は合うようである。吹雪は花織にふっと微笑みかけると少し視線を外して空を見上げた。心なしか、花織にはその彼の表情が寂しげに見えた。
「でも……、雪は綺麗なだけじゃない」
「……? どういうことですか?」
花織が吹雪の言葉に首を傾げて問いかける。吹雪は花織を見て何でもないよ、と首を振った。彼は何か口にしかけたようだが、それを花織に話す気はないらしい。柔らかな微笑でその場を誤魔化し、彼は別の話題を提示した。
「そういえば花織さん、サッカーするんだね。マネージャーだって言ってたから驚いたよ」
「今は人数が足りてないから私が一応。……元々、運動が好きですのでサッカーは少しくらいならできますし」
「少しなんてものじゃ無かったよ。凄く上手だった。あと……」
吹雪が花織の肩に積もった雪をさっと払いながら微笑む。
「君の走る姿、とても綺麗だった」
吹雪は花織の走る姿を試合中に見ていた。桃色の頬、真剣な目、揺れる髪、すらりとした肢体。試合中だというのに彼女に一瞬目を奪われた。キャラバンで自分を助けてくれた少女とはまるで別人のように思えた。そう見えたのは彼女が髪を結んでいたからかもしれない。だが、走る彼女を見惚れてしまうほどに彼女を美しいと思った。
そして今、雪の中でひとり佇む花織も、彼の心を震わせた。たったひとり、街灯の元で舞い落ちる雪を掌に受けるその様子がとても神秘的だった。吹雪は今まで感じたことの無い感情を花織に対して抱いていた。彼女と話をしているだけで妙に高揚した気分になる。いつもより心臓の鼓動を強く感じていた。これがなんなのかは定かではない、だが単純に花織をもっと知りたいと吹雪は思ったのだ。
「そう、ですか。……元陸上部ですし、そう言って頂けると嬉しいです」
走る姿を褒められることに関しては満更ではなかったようで、花織は少し頬を桃色に染めて横髪で顔を隠した。やはり元陸上部だからだろうか、フォームを褒められるというのは凄く嬉しいことだ。吹雪はそんな花織を見ながら柔らかく笑う。
「花織さんは可愛い人だね。……それにすごく優しい」
「……えっ?」
「ふふ。これからよろしく、花織さん。君とは仲良くしたいな」
微笑と共にすっと吹雪の白い手が花織の方へと差し出された。どうやら彼は花織に握手を求めているようだ。花織は彼の顔と手を交互に見比べる。……話してみた感じ、不思議なところはあるようだが、思うよりも接しにくい人ではないようだ。花織は吹雪の手に自らの手を重ねる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
花織はそう言って彼に笑い掛けた。