脅威の侵略者編 第四章
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「花織ちゃん! 俺らのチームに入ってくれないか?」
グラウンドに降りて数分、吹雪を勧誘する為にと瞳子、円堂、春奈は場所を変えて話し合いを行っていた。その間、他の選手たちは自由時間を与えられ、普段触れることの無い雪に触れて遊んでいる。花織はひとりで雪を踏みしめる感覚を楽しんでいたのだが、すぐに土門から声がかかった。
「チームって、何の?」
「雪合戦だよ、雪合戦! ほら、こっちこっち」
「わわっ、ちょっと……」
珍しくテンションが高い土門に腕を掴まれて彼のチームに引っ張り込まれる。花織が彼の腕を引く勢いに転びそうになりながらも顔をあげると鬼道が心なしか楽しそうな表情で花織の前に立っていた。
「花織も俺たちのチームか」
「よろしく花織!」
鬼道と塔子が花織に声を掛ける。どうやらこちらのチームは鬼道、土門、塔子と白恋メンバーがいるらしい。そして相手チームには一之瀬、夏未、栗松、そして風丸と白恋メンバーが数名いるようだ。どういうチーム編成なのかは分からないがとても面白そうである。
「よ、よろしくお願いします。……何だか、こっちのチームは元帝国メンバーが多いね」
「おっ、ホントだな。じゃあ、元帝国の結束力を見せつけてやりますか! なっ、鬼道!」
土門が花織と鬼道の肩を叩く。鬼道はにやりと笑ってマントを翻した。彼もどうやらノリノリのようである。
「ああ、ゲームメイクは任せておけ!」
鬼道は中学生らしく声高にそういうと、土門に何やら指示を出した。するとすでに用意していたのか、土門が雪玉を相手チームに投げる。あ、と花織が声を漏らした。
「……んっ」
それは油断していた風丸の顔面に的中した。今のは酷い、不意打ちというのではないだろうか。だがこちらのチーム内では歓声が上がっている。
「戦略勝ちだな、もっと行け土門!」
「おうよ!」
腕を組む鬼道の周りを囲うは、雪玉を十分に準備した土門、塔子を筆頭としたメンバーだ。すでに相手チームに向けて臨戦態勢でいる。花織も苦笑しつつ雪玉を作り、構える。こうなればとことんやってやろう。
「まだまだ! 負けてられるか!」
「絶対に勝ちなさい! これは理事長の命令だと思って貰って構いませんっ‼」
相手チーム、夏未のその言葉を皮切りに熾烈な雪玉の投げ合いが開始された。人数も多いことから、非常に多くの雪玉が宙を飛び交う。花織も負けじと雪玉を投げる。雪合戦と呼ぶに相応しい戦いだ。当てて当たってと激しすぎる。
やはり白恋のメンバーは手練れというのだろうか、躱すのも上手ければ、投げるのも上手い。花織は自分のボールコントロールの無さに苦笑いしながら背を屈めた。そして鬼道、土門の足元で雪玉生成に精を出すことに決めた。こうしていればあまり雪玉は当たらないし、かつ時々雪玉を投げることで奇襲を掛けられる。
「疾風スノーボール‼」
「ツインスノーボール‼」
相手チーム、風丸が必殺技名を叫びながら雪玉を投げる。それに続いて鬼道と土門も必殺技名を叫びながら雪玉を投げる。花織はくす、と思わず笑ってしまった。いつもは大人びている彼らもそんな中学生らしい振る舞いをするのか、何となくそれが微笑ましい。
花織は雪玉を投げながら彼の様子を観察する、そして首を傾げた。彼は鬼道を狙っているのだろうか。鬼道を狙った雪玉が一番多い気がする。逆に鬼道も風丸への投球が一番多いようだ。彼らが互いに正面に立っているせいもあるだろうが。
それにしてもこんなふうにチームメイトと遊ぶのは何て楽しいのだろうか。花織は周りを見回しながら、そんなことを思う。この間の催しもそうだったが、練習ばかりじゃなくてこんなふうに遊べる場所がなければ、みんな疲れてしまう。
彼も……、ここの所どうしてか思いつめたような様子の彼も今はとても楽しそうだ。花織はそれだけで嬉しい。頬を掠める雪玉など気にならないほどそれだけがただ嬉しい。だからこそ自分も今この状況を十分に楽しみたい。
「マントはセーフだ!」
ひらりと雪玉を交わしながら花織の隣に立つ鬼道が言う。彼らしくないその言葉に花織は思わず吹き出してしまった。
楽しい遊びの時間もつかの間に過ぎてしまった。だがそれでも選手たちにとってはいいリフレッシュになったのではないだろうか。吹雪勧誘に参加していた円堂と春奈には申し訳ないことではあるが。
あれから約一時間、吹雪との話し合いは一段落したようでこれから雷門イレブンと白恋中学は練習試合をすることになった。この試合で吹雪の実力を確認したのちに、監督が吹雪を必要だと判断すればチームに加えるのだろう。相も変わらず染岡は不機嫌そうだが、吹雪を加えること自体は選手の人数が足りないのだから仕方のないことだと思う。
「花織ちゃんのユニフォーム姿、再びだな」
着替えて早々、土門が花織に言葉を掛ける。花織は髪の毛を結いながらうん、と頷いた。
「人数が足りないからね。足引っ張っちゃうと思うけど、よろしくお願いします」
「この間は十分動けてたじゃないか。まあ、それでもちゃんとフォローするから安心してプレーしなよ」
ぐっと親指を立て、ウインクをしながら一之瀬が花織に言う。それはとても花織には頼もしく見えた。実際、この二人のフォローはかなり頼もしい。他が頼りにならないというわけではないが、ポジション柄花織のプレーに積極的に干渉してくれるのがこの二人なのだ。
「話は変わるが、花織ちゃん。最近髪結ぶようになったな」
土門が腰に手を当てつつ、花織の髪を見ながら言った。花織はその指摘を聞いて自らの髪に手を触れる。花織は、横髪は残していながらも後ろ髪だけは縛るスタイルにしている。俗にいう一本結びというやつだ。花織はさほど髪が長くないからポニーテールにすることはできないのだ。
「うん、少し伸びてきちゃったから。動くときは長いと邪魔だしね」
「そういや前はもっと長かったよな。また伸ばしてるのか?」
帝国時代の花織を思い浮かべながら土門が言う。あの頃の花織とは鬼道のお気に入り、程度の関心しかなかったが、それでも髪が長かったということは覚えている。腰に届くのではと思うほどの長い黒髪……。今よりも取っ付きにくく見えたが、年相応ではない綺麗さがあった。
「うん、短い方が楽なんだけどね。それでも伸ばしたいの」
花織がくす、と笑って横髪を耳に掛けた。無論、花織が髪を伸ばしたいのは彼のためである。もっとも髪を伸ばすことが直接的に彼によい作用を及ぼすわけではないが、花織自身が彼への思いの丈を表すために伸ばしていたいのである。以前は彼への想いを断ちきるために切ってしまった自らの髪を。
「花織はどんな髪型でも似合うさ、俺が保証するよ。……よし、そろそろ行こう。皆そろそろピッチに向かってるからね」