脅威の侵略者編 第四章
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グラウンドへ降りるために雷門、白恋イレブンは共に校舎の外へ出た。外は相変わらず身を切るように冷たく、身体がぶるぶると震える。皆そんな思いをしながら校舎脇のグラウンドへつながる階段をゆっくりと下ってゆく。
「寒いですね、凍っちゃいそうです」
はあっと春奈が白い息を吐きながら呟く。それを見ているだけでとても寒い。花織はこくこくと春奈の発言に頷きながら先日貰った雷門ジャージを擦りあわせた。マネージャーの皆はコートを着用しているが、ジャージを纏う花織にはそれは叶わない。こんな恰好では懐炉の温かさなど焼け石に水だ。
「本当に寒いね。……早く動きたいなあ」
そもそも花織がジャージを着ているのは現在雷門の選手の人数が十一人に満たないからだ。きっと吹雪加入までは一応選手要因として、瞳子監督は花織を扱うだろう。そのたびにいちいち制服からジャージに着替えてなどいられない。
「動いたら温まりますもんねー……、わあっ!」
つるっ、と階段が凍っていたのか春奈が足を滑らせた。咄嗟のことに花織は反応できずに春奈に手を伸ばし損ねる。だが春奈の身体は彼女の背後を歩いていた人物に受け止められた。
「気を付けて。階段は滑りやすいから」
穏やかな声色。春奈を助けたのは吹雪士郎のようだ。
「ありがとう、ございます……」
春奈が恥ずかしそうに頬を染めながら礼を言った。それに吹雪は微笑みかけようとしたが、ハッとした様子で階段脇の崖辺りに視線を向ける。ざああ、と何かが滑る音がするのだ。花織も吹雪の視線を追ってその方角へ視線を向けた。
どうやら屋根の雪が重たさに耐えかねたのか落ちたようだ。大したことは無いようで、崖側に押し出された雪がはらはらと階段の上に舞い落ちる。花織はふっと吹雪の方へ視線を戻す、そして顔を顰めた。吹雪が階段に小さくなって蹲っていたのだ。
彼の肩は微かに震えているようだ、まるで何かに怯えているみたいに。花織は怪訝そうに眉間に皺をよせ、ちらりと先ほど雪が落ちた屋根を振り返る。もしかして今の音に……?
「大丈夫だよ、吹雪くん。屋根の雪が落ちただけだから」
吹雪の近くにいた荒谷が吹雪に優しく言う。吹雪は不安そうな面持ちで顔をあげた。
「……なんだ、屋根の雪か」
実際に何もなかったこと、そして荒谷の言葉に安堵したのか吹雪が息をつく。吹雪よりも二段ほど階段の下に居た夏未がそれを見てか、腕を組み呆れたように呟いた。
「このくらいのことでこんなに驚くなんて……。意外と小心者ね」
「……夏未さん、いくら何でもそれはあんまりですよ」
夏未の言葉に花織が肩を竦めながら言う。そして吹雪に目線を合わせるように背を屈め、そっと左手を差し出した。
「立てますか?」
「えっ……?」
花織が差し出した手に吹雪が驚いた様子で花織を見上げた。何のことは無い、花織よりも小柄な荒谷では吹雪を引っ張り起こすことは難しいと思ったからだ。花織は吹雪の安心を促すように柔らかく微笑む。
「どうぞ、掴まってください」
「あ……、ありがとう」
吹雪は花織の手を借りて立ち上がった。円堂がどうかしたのかとこちらに向かって声を掛けたが、吹雪は笑って誤魔化す。どうやらもう大丈夫そうだ。花織は再びゆっくり階段を降りようと足を踏み出す。だが、すぐに花織の足は留められた。
「ねえ君」
とんとん、と背後から肩を叩かれる。花織はその場に立ち止まり振り返った。それと同時に花織の肩を叩いた人物が、花織の隣に立つ。彼、吹雪は先刻から時折見せているふんわりとした笑顔で花織を見た。
「さっきから君に助けられてばかりだね。君の名前、よかったら教えてくれないかな」
どうやら、吹雪は花織に対して良い感情を抱いているようだ。特に親切に振る舞ったわけではない、むしろマネージャーという立場がなければきっと気を配りはしなかったろう。だが彼を邪険にする理由もなくて花織は彼の質問に答える。
「月島花織です、雷門中サッカー部のマネージャーをしています」
「花織さん、か。……ありがとう、親切にしてくれて」
笑顔を絶やさない吹雪。きっと彼は女の子にモテるのだろうな、と花織は彼の微笑を見ながらそんなどうでもよいことを感じていた。