脅威の侵略者編 第四章
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遭難していた少年はもうしばらく走った何もない場所でキャラバンを降りて行った。円堂が本当にこんなところでいいのか、と念を押して聞いていたが、彼はすぐそこだからと歩いて行ってしまったらしい。きっと本人が大丈夫というのだから大丈夫なのだろう。きっとここらは彼の地元なのだろうから尚更だ。
雷門イレブンは半日以上の時間を掛けてようやく目的の地、白恋中学へとたどり着いた。レンガ造り風の建物で、正門を入ったすぐ真正面にはスケートリンクが広がっている。学校には必要なのかよくわからないが、雪国らしいと言えば雪国らしい。あたりに設置されている街灯がとてもお洒落だ。
「うわーっ! 本物の雷門中だ!」
「日本一のチームがここに居る!サイン頂戴!」
雷門イレブンを歓迎し、迎えてくれたのは白恋中サッカー部だった。彼らはフットボールフロンティアで優勝した円堂らのことを知っており、しかもファンであるようだ。彼ら全員が快く円堂らを校内へ招き入れてくれた。
「それで、吹雪士郎くんはどこかしら」
挨拶もそこそこに瞳子監督が本題を切り出す。瞳子の問いに白恋中イレブンは顔を見合わせた。そして彼ら各々が推測を述べ始める。
「今頃スキーじゃないかな?今年はジャンプで100メートル目指すって言ってたもん」
「いや、きっとスケートだよ。三回転半ジャンプができるようになったって言ってた」
「オイラはボブスレーだと思うな。時速100キロを超えたって言ってたよ」
……つまるところ、誰も吹雪の所在を知らないらしい。それでも雷門イレブンは彼らの話を聞いて感心していた。
「スキーにスケートにボブスレー、それで熊殺し?」
風丸が首を捻りながら呟く。あまりどういう人物なのかが想像できないらしい。それでも円堂はテンションが上がったらしく笑顔を浮かべている。
「そんなにスポーツができるなんて、凄い奴なんだな‼」
円堂が感心したような声を上げるとその音は同時だった。廊下の方から誰かが歩いてくる音、それと雪を払う音だろうか、よくわからないがそんな音が微かに聞こえてきた。それを聞いた白恋イレブンの一人、荒谷紺子が教室の戸をあけて外を覗き込む。
「吹雪くんだ!」
雷門イレブンの表情がハッとしたようなものになった。どうやらお目当ての吹雪士郎が帰ってきたらしい。
いったいどんな人物だろう、花織は今まであまり想像もしなかったが今になって想像を膨らませる。やはり、厳つい大男だろうか?それとも筋肉質のレスラータイプ……? 思い浮かぶのはとにかく巨体の男ばかりだ。
「早く早く! どこに行ってたの?お客さんが来てるんだよ!」
「お客さん?」
ふんわりとした、大男には似つかわしくない穏やかな声が響いた。えっ、と雷門イレブン全員が驚き声を上げる。聞いたことのある声だった。驚愕する中に姿を現したのは、先ほど遭難していた少年その人だった。
「あれ、君たち」
「さっきの……、吹雪士郎ってお前だったのか⁉」
円堂が思わず問いかける。少年……、吹雪士郎は穏やかな微笑を浮かべて頷いた。
「お前が熊殺しか⁉」
染岡が吃驚を隠しきれないといった表情で大声を上げる。他の皆も彼が口にしたと問いをそのまま尋ねたかったことだろう。何せ、目の前に立つ吹雪士郎は今まで想像してきたイメージとはかけ離れている。
「ああ……、実物見てがっかりさせちゃったかな。噂を聞いてきた人たちは僕を大男だと思っちゃうみたいで……」
現物の吹雪士郎はむしろ小柄な少年だった。背丈は150センチ程度……、花織よりも背は低いかもしれない。灰色に近い銀髪は左右にはねている。太い眉と垂れ目が特徴的な可愛らしい顔立ちだ。……きっと女受けは良い方だろう。首にはふわふわで温かそうな白いマフラーを巻いている。
「これが本当の吹雪士郎なんだ、よろしく」
吹雪が柔らかく笑みながら言葉を掛けた染岡へ手を差し出した。だが染岡はフン、とそっぽを向き教室を出て行ってしまった。吹雪をチームへ勧誘することをまだ良しとしていないのだろう。円堂が引き留めようと彼を呼んだが、彼は振り返りもしなかった。秋が円堂に自分にまかせるようにいい染岡の後を追う。
「あれ、なんか怒らせちゃったかな……?」
そんな意図など全く知らない吹雪は不思議そうな顔をしながら差し出した手を引く。
「ごめん。染岡は、本当は良い奴なんだ」
「気にしないで」
とても穏やかでのんびりとした人なのだろうか。染岡の無礼にも何も動じていない。この人が伝説のストライカー……、花織は釈然としない思いを感じながら首を傾げる。ふと、穏やかに微笑を浮かべる吹雪と目が合った。