脅威の侵略者編 第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
北海道へ向かうべく、キャラバンは奈良からの道のりを進んでいる。二度もエイリア学園に負け続け、あまり順調ではない様に思える旅だが、それでも朗報があった。塔子の父、財前総理が国会議事堂の前で発見されたのだ。もちろん、ちゃんと生きている。拷問された様子もなく、心身共に健康状態は良いようだ。
その一件はよしとしよう。だが、監督への不信感はぬぐえないままだ。でなければこんな空気になっているはずがないだろう。バスに揺られているばかりでは体が鈍るからとトレーニングを提案した瞳子に対して円堂、塔子、鬼道を除いた他の選手はそっぽ向いたのだ。
ちょっとした駆け引きの末、結局選手たちは自然を相手に自主練をすることに決まった。瞳子のトレーニングメニューよりはマシだと思った結論らしい。だが、これも瞳子の策略であったことには選手たちは気づいていないようだ。
選手たちが自主トレをしている間、マネージャーたちと目金は飯盒でご飯を炊き、おにぎりを作ることになった。キャラバンにはフランス料理のフルコースも作れるようなキッチンが備え付けられている。なんでも自炊できるようにと理事長が取り付けてくれたのらしい。米を洗うという作業から夏未が米を流し台に流してしまうなど……。いろいろあったが、今は何とかご飯を火にかけることができている。
「そういえば、花織先輩は練習に行かなくてよかったんですか?」
火元から離れてぽんぽんとボールを蹴りあげ、リフティングをしている花織に春奈が首を傾げながら問いかけた。花織はリフティングを続けながら、春奈の問いに答える。もうボールにもかなり慣れているのだろう。彼女は声を掛けられてもバランスを崩すことは無かった。
「ふふ、私はマネージャーだもの。だからマネージャーの仕事を優先したいんだ。監督には選手としても動けるようにって言われてるけど、鬼道さんや一郎太くんはやっぱり反対するんだろうし」
花織は、極力練習には参加したいと本音では思っている。彼らの練習の厳しさを知っていないと何もアドバイスができないし、選手の気持ちも分からないと思うからだ。だが、マネージャーとして彼を、いや彼らを支えることも花織にとってはとても重要な事であり、優先すべくはそちらだと思うからこそ、花織は今ここにいるのだ。
「あー……、確かに過保護だもんね。鬼道くんも風丸くんも」
少々苦笑いをしながら、秋が思い出したように言う。確かに花織のことを彼らは好いているのだろうが、現在二人とも花織の恋人であるわけではないのだ。それなのに花織の出場に対してあれほど口を挟んでくるのはやはり彼らが心配性だからだといえる。
「でも月島さんは重要な戦力だと思うわ。まさかあんなに動けるなんて思わなかったもの」
「そうそう! 疾風ダッシュ、出来ちゃうんですもんね!恋の力って凄いんだって実感しました!」
この間のSPフィクサーズとの試合を思い出しながら夏未と春奈が言う。春奈の言葉には少し動揺してしまって、花織はボールを地面に落としてしまった。そして少し赤く頬を染めながら春奈の言葉にくすくす、と笑う。
「だって疾風ダッシュは、彼が練習してるのをずっと見てたんだもの。特訓のお手伝いもしたんだし……、できても不思議はないと思うな」
花織が彼と共に練習していた頃を思い出す。その言葉に聞き覚えがあったのか、秋があっと声を上げて花織に微笑みかけた。
「それ、風丸くんも言ってたよ。花織ちゃんと一緒に練習した技だからできても不思議じゃないって」
「えっ……?」
「あ、私も聞きました! それにあの時の風丸先輩、ずーっと花織先輩の事見てたんですよ。木野先輩と話してるのに花織先輩のこと目でずっと追ってるんですから」
彼が、あのプレーを見ていてくれたのか。そう思うと花織は堪らなく嬉しいような、だが恥ずかしいような気持ちにさせられた。頬が少し熱を持つのを感じた。やっぱりどう足掻いても自分は彼のことが大好きなのだと実感できる。
「そっか……」
花織は優しい微笑を浮かべて皆が練習する山の方へと視線を向ける。ずっと彼と話したいと思っていたのに、決勝戦前の約束を今まで忘れていたことを思いだした。いろいろ忙しかったから、仕方がないことなのかもしれない。だが、彼とやはり話がしたいと思った、たとえこんな状況に置かれていても。
「炊けましたよー‼」
ご飯が炊けたと花織らを呼ぶ目金の声にマネージャーたちは駆け寄る。花織は目を伏せ、決意を新たにした。あとで、彼に声を掛けてみよう。自分の気持ちを話せそうならば、話してしまおう。そんなふうに花織は思うのだった。