脅威の侵略者編 第二章
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再びエイリア学園に敗北し、キャラバンは鹿公園へと戻った。キャラバンの中ではエイリア学園のシュートを受け続けた円堂の手当が秋、春奈、夏未によって行われている。花織はむしろ人数が多くても邪魔だろうとキャラバンの外で選手たちの話を聞いていた。
円堂を心配し、己の力の無さを悔やむ選手たち……、だがその中で選手たちは思うことがあるようだった。それは花織も同じであり、チームにとってあまりよくない感情であった。
「納得いかないぜ……っ! 何なんだよ、監督のあの作戦は! ディフェンスをあんなところまで上げるなんて! どうぞ点取ってくださいって言ってるようなもんじゃねえか‼ せっかく鬼道が奴らの攻撃パターン見抜いたってのによ‼」
染岡が苛立ったように傍に在った木に向かってこぶしを放つ。元々監督に対して不満を抱いていた染岡だ、ますます監督に対しての不信感が募ったように思える。そんな染岡の言葉に同調するように目金も言葉を続けた。
「結果は三十二対ゼロで完敗。一回目の時よりも酷い負け方ですからね」
「SPフィクサーズのときは凄い監督だと思ったのにー……」
あの温厚な壁山ですらこの様子だ。きっと口にはしないが監督に対して不信感を抱いている者は多そうだ。染岡がそれを察したのか、耐えかねたように人の波を掻き分ける。
「理事長に連絡して、監督を変えてもらう‼」
「待て染岡!」
だがその歩みを止めたのは今や雷門の参謀となりつつある鬼道だ。染岡は眉間に皺を寄せたまま鬼道を振り返る。
「何だよ鬼道! まさかお前、監督の肩もつってのか⁉ あんなわけわかんない奴の!」
「そういうわけじゃない。だが、結論を出すのは監督の考えを知ってからでも遅くない」
鬼道が静かな声で呟いた。不思議なことに彼の言葉は監督への不満から興奮した様子のチームメイトの心を落ち着かせた。きっと彼自身が一番落ち着いて状況を推測しているからであろう。
「監督も言っていた通り、前半を終えた時点で俺たちの体力は限界に達していた。もし後半、俺の作戦で試合を続けていたらどうなっていた?」
「どうって……。っ、俺たちもマックスや半田たちみたいに病院行きか……!」
鬼道の問いかけに気づいた風丸が答えを出した。鬼道は頷き言葉を続ける。
「ああ、確実にな」
「じゃあ監督は、俺たちを守るために?」
一之瀬が続けて発言した言葉はチーム内に浸透していった。監督にそういう意図があったのか、そんなふうに波紋が広がっていく。少しだけ監督の意図が読めて今日の妙な作戦に納得したような表情をする者たちが現れ始めた。だが、少数の選手たちと花織は違った。
花織は鬼道の意見に納得がいかなかった。鬼道が言う監督の考えは、あくまでも鬼道の推論でしかなくて監督が実際何を思っているかなんてわからないからである。
もし監督が鬼道の言うとおり、監督がそのような事を考えているのならば、事前に説明しておくかあるいは試合自体を棄権するのが正当な判断であったのではないだろうか。そうすればこんなふうにチームに不穏な空気が漂うこともないのだし、何より選手を守れる。そう考えた花織はますます監督に対して不信感を募らせた。
「でも、本当にそれでよかったのか? どんな状況でも全力で戦う、それが俺たちのサッカーだろ⁉」
「土門の言うとおりだぜ! 円堂を犠牲にして俺たちだけ助かって……。そんなの雷門のサッカーじゃねえ」
花織とは違って監督の方針そのものに対して不満を持っているであろう土門と染岡が発現する。こちらの意見にも賛成しかねるが、どちらかと言われれば花織はこちらよりの意見だ。だがそこへそれは違うと声が響いた。一行は声の主へと視線を向ける。現れたのは怪我の手当てを終えた円堂だった。円堂を心配する声が次々に掛けられたが、染岡は先ほど言った自分の意見を否定するその根拠を円堂に求めた。
「で、どういうことなんだよ"それは違う"って」
「監督は、奴らを使って俺を特訓してくれたんだ」
つまりは、こういうことらしい。成長のためには実戦経験を積むのが一番である。そのため、ジェミニストームの選手たちにシュートを多く打たせることで円堂を奴らのシュートに慣れさせようとしたのだと。……彼は少しポジティブに考えすぎではないだろうか。
「監督は今日の試合を捨てて次の試合に勝つために僕たちの身を守り、円堂君にキーパーの練習をさせていたということですね!」
目金が総括して意見を述べる。そうだったのか……、という空気が最後まで監督の意見を認めようとしていなかった染岡までもを包み始める。それでも花織は監督に対しての不信感を拭えないでいた。それもすべて推論だ、監督が本当にそう思っているかそれが定かではない。
花織がそれを口にしないのは、"監督は凄い!"とまとまり始めているチームの雰囲気を壊したくなかったからだ。選手たちが納得できたのならば、それでいいと思う。花織はプレイヤーである前にマネージャーだ。花織は静かに鬼道の元へと歩み寄る。そして静かに鬼道に問いかけた。
「鬼道さんはそう、お思いなんですね?」
「ああ……。どうした? 花織」
「いいえ。ただ……、私にはそうは思えないと感じただけです」
小声ではあったが、花織の声は鬼道が聞いたことの無いほど冷え切っていた。鬼道は花織を振り返る。花織は澄ました様子で立っていたが、花織の真意は見て取れた。彼女は鬼道の推論に毛ほども納得していないのだろう。鬼道が花織の意見を貰おうと言葉を掛けようと肩を叩く。
「あ、監督……」
壁山が瞳子の姿を捕えて呟いた。現れた瞳子監督が音も立てずに静かに選手たちに歩み寄る。自分を見つめる尊敬のまなざしを無表情に見据えながら瞳子が立ち止まる。そして予想だにしない言葉をいつものように静かな口調で口にした。
「豪炎寺くん、貴方にはチームを離れてもらいます」
チームの雰囲気を壊したくない、そんな気遣いを彼女がするまでもなかった。