脅威の侵略者編 第二章
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放送の発信源は奈良鹿TVからであった。円堂たち雷門イレブンは再びエイリア学園と勝負をするため、SPフィクサーズはエイリア学園の人間を確保し、総理大臣の居場所を突き止めるために各々その場所へと向かった。
きっとこの世界でどうしてテレビ局の屋上にサッカーグラウンドがあるのかを問うのはとても野暮な事なのだろう。だが、都合の良いことに屋上にはサッカーグラウンドが広がっている。エイリア学園と試合をするのに移動する手間が省けて良い。
「勝負だ、レーゼ‼」
円堂が仲間たちと共に意気込み、エイリア学園ジェミニストームのキャプテン、レーゼに指を突きつける。だがレーゼは無表情に円堂を見つめてキッパリとこう言い切った。
「それはできない」
雷門イレブン内から動揺の声が上がる。
「どういうことだ⁉」
「お、怖気づいたんですね……‼」
土門の疑問提議と共に目金がエイリア学園に叫ぶ。すると相手チームキーパーのゴルレオが目金を睨んだ。巨体のゴルレオに睨まれて目金は怯む。そんな光景を尻目に、レーゼはどうしてエイリア学園が試合を受けないのか、理由を説明し始めた。
「言ったはずだ、我々はサッカーという秩序の元に置いて戦うと。十人しかいないお前たちに我々と戦う資格はない」
くっと悔しそうな表情をして円堂がチームメイトを振り返る。たしかに十人しかいない。このままみすみすエイリア学園を倒すチャンスを見逃さねばならないのか……。だが、円堂はハッと思い立ったように目を見開いた。
「月島! お前、出られないか?」
「!」
急に名指しで円堂に言葉を掛けられてぴくっと花織が反応する。円堂は素早く花織の元へ駆け寄った。そして花織の両肩を掴んで真摯な目で切実に訴えかける。
「さっきのお前のプレー凄かったからさ、お前が出てくれれば少しは勝てるチャンスもできると思うんだ!」
円堂が必死な口調で花織に言う。花織は円堂の剣幕に押されながらも首をこくこくと縦に振る。
「い、いいよ。もちろん、エイリア学園を倒すために私で良ければ喜んで戦力になる。……さっき瞳子監督にも必要があれば選手として使うから、って言われたし」
「ホントか⁉」
円堂が嬉しそうに顔を綻ばせる。上からジャージを羽織っているものの、花織はさっきの試合をしたままユニフォームを着用している。試合に出る準備は万全だから、すぐに試合を始められるだろう。
「よおし!じゃあ」
「駄目だ‼」
鋭い声が円堂の声に割って入る。その声の主は未だ花織の肩に手を置く円堂から、彼女の身体を引き離して花織の前に立った。
「俺は、花織を試合に出すことだけは反対だ。……危険が大きすぎる、さっきの試合とは状況が違うだろ」
「風丸……」
苦虫を噛み潰したような顔で円堂の前に立ちふさがったのは、花織の元恋人風丸だった。花織は驚いた様子で風丸の背中を凝視する。
「風丸! 月島が出ないとエイリア学園は勝負を受けねえんだぞ‼」
染岡が半ば呆れたような……、だが風丸を多少批判するような表情をして風丸に訴える。それを皮切りに他のメンバーも花織が出ることに対しての肯定の意見を呟き始める。とにかくチームの意向としては"花織が出れば試合はできるのに"ということらしかった。それでも風丸は俯き、皆の意見を聞きながらも険しい顔をして皆に訴えかける。
「俺だって、今エイリア学園を倒すことの重要性は分かってる。それをみすみす逃すなんて馬鹿がやることだ。……それでも、それでも俺は花織を試合には出したくない。花織を危険に晒したくないんだ」
「一郎太くん……」
花織は彼の言葉を受け止め、彼の心配を嬉しく思いながら彼の名を呟く。……彼は未だに私に対して心配をくれる。先刻のSPフィクサーズとの試合でもそうだった。いくらなんでも気が付くだろう、よほど鈍感であったとしてもだ。彼が未だに自分のことをとても大切に想ってくれていることを。
「俺も花織が試合に出ることは反対する」
風丸の意見に同調したのは鬼道だった。こちらも厳しい顔つきをして腕を組んでいる。
「すまない、我儘だとは思っている。だがそれでも花織の安全が保たれないならば、俺が花織を危険に晒す判断をしなければならないなら、……俺は現状で奴らに勝負を挑むことすらも賛成できかねる」
要は二人とも、花織が安全であるか否かが何より大切なようだ。二人とも花織に対して特別な感情を抱いている。チームメイトもそれを知っていて無理強いをするのはどうかという思いが広がり始めていた。そもそも、マネージャーの女の子を戦力として期待すること自体がとても微妙な事だからだ。
「一郎太くん、鬼道さん。私は……。私は試合に出たいです、監督許可も下りているんですよ。一郎太君が言ってた通り、入院してる皆のためにも私だって戦いたいです!みんなの力になりたいんです! エイリア学園に昨日の試合の雪辱を果たしたいから……‼」
お願いします、と花織が勢いよく頭を下げる。鬼道も風丸も奥歯を噛みしめ、花織から視線を逸らした。花織の意見がこうなのだ、もはや花織が出ることは決定して試合を行うことに決まったかのように思われた。待ちかねていたらしいレーゼはふうとため息をつき、円堂に答えを求める。
「決断したか?」
「待って‼」
女の子の声が響いて、皆そちらを振り返る。そこには雷門ユニフォームを着用したSPフィクサーズのキャプテン、財前塔子が立っていた。
「あたしが出るよ! ……その子の代りにあたしが出る。それなら問題ないでしょ」
雷門の選手たちはざわざわと塔子の登場に動揺の声を上げた。何故雷門のユニフォームを着ているのか、それは定かではなかったがここで重要視するところではないだろう。彼女は試合に出てくれるというのだから。
「パパを取り戻す、アンタたちを倒してね」
キッとレーゼらを睨み付け、塔子が言う。円堂はよし、と頷いてレーゼに向き直った。
「さあ、十一人揃ったぜ!」
漸く試合を開始できる。長々と時間が掛かったが、これでエイリア学園にとっても雷門にとってもすべてが丸く収まった形であるだろう。レーゼは目を伏せ、呆れた様子で円堂に吐き捨てた。
「われらも甘く見られたものだ……。いいだろう、二度と立ち上がれない様に叩き潰してやる」
開始まで長々と時間が掛かったが、なんとかエイリア学園ジェミニストームVS雷門イレブンの試合、第二回戦が行われることとなった。試合前のミーティングで鬼道の立てた作戦としては、エイリア学園ジェミニストームのスピードを警戒し、ロングパスは使わずショートパスで繋いでいくというものだった。
「あの、財前さん」
ピッチへ駆けだした選手の中、花織は雷門の一員として試合に出てくれることとなった塔子に声を掛ける。その表情には申し訳ないという様子が滲み出ていて、細い眉が顰められている。塔子は花織の声に振り返り、立ち止まった。
「ありがとうございます、試合に出てくれて……。あのままだったらきっと今の空気も最悪だっただろうから……。本当に、迷惑かけてごめんなさい」
花織は軽く塔子に頭を下げる。塔子は気にしないでよ、と笑って花織の肩をポンとたたいた。
「あたしが出たいんだから、パパを助けるためにもね。アンタ、……花織って言うんだっけ? アンタの分まであたしが頑張ってくるから」
「……ありがとう、財前さん」
頼もしい笑顔に花織は微笑む。塔子でいいよ、と彼女は言いつつ、少しだけ肩を竦めて塔子は花織を見た。
「それにしても……、鬼道と風丸だっけ? アイツら凄く花織に対して過保護なんだね、あたしのパパと変わんないや。パパもあたしにいっつも危ないことはするなっていうんだ。心配してくれてるのは分かってるんだけどね」
そんなことを言いながら塔子はピッチに掛けて行った。塔子の後姿を見守りながら花織もふっと苦笑を漏らす。過保護、か……、確かにそうかもしれないなと花織は彼らを見ながらそう思うのだった。
やはり、エイリア学園と雷門の実力差は歴然としている。前半も中盤に来たが、花織は心からそう思った。とてもじゃないが、現状でエイリア学園に勝てる気がしない。ゴールキーパーの円堂も奴らのシュートが全く見えていないようだ。
「……!」
戦況は最悪かと思われていたその時、鬼道がジェミニストーム5番、ディフェンダーのカロンへと放たれたパスをカットした。花織は蒼髪から視線を逸らして鬼道へと目を向ける。鬼道は豪炎寺にすぐさまパスを送った。敵陣ディフェンダーもほとんど攻撃に上がっていた為、豪炎寺はフリーだった。
「ファイアトルネード‼」
豪炎寺が十八番の必殺技を放つ、だがそれはバーに当たってゴールとはならなかった。珍しいことだ、豪炎寺がシュートを外すなんて。花織は彼が気にかかって豪炎寺の方へと視線を向けた。険しい表情をしている。
再び鬼道がボールをカットし、今度は豪炎寺と風丸二人の名を呼んだ。炎の風見鶏だ、だがこれもゴールとはならないまま、十三対ゼロという得失点差で前半が終了してしまった。選手たちがベンチに戻ってくると、鬼道はすぐさまジェミニストームの攻撃パターンを見抜いたことを皆に説明を始めた。なるほど、彼が自分たちよりもスピードが上の宇宙人に対してボールをカットできたのはそのためらしい。
花織はそんな話を耳に挟みつつ、円陣から離れて険しい表情を浮かべている豪炎寺の元へと歩み寄った。豪炎寺はもしかして不調なのだろうか、怪我をしているのではないだろうか……、様々な可能性が花織の中で挙げられた。選手のプレーに何か問題があるのならば、ケアをするのはマネージャーの仕事だ。
「豪炎寺くん」
「……、」
豪炎寺は数秒間、花織に声を掛けられたことに気が付かなかったようだ。寸刻置いて驚いた様子で花織を見る。よほど深く考え込んでいたらしい。周りの声が聞こえないほどに。
「あんまり顔色が良くないみたい……。体調、悪いの?」
「……そういうわけじゃない、ただ……」
豪炎寺は視線の先に立ちはだかる男を、花織の頭越しにみた。何もいえるわけがない、言ってもこのマネージャーにどうこうできる問題では無いだろう。豪炎寺は無理に微笑んで見せた、何でも無いというふうに。
「気にするな、花織。……さっきはタイミングを外しただけだ」
「……そう?」
気にかからないわけではないが、豪炎寺がそう言うならと花織は頷いた。ほとんどそれと同時にチームの後半の作戦が決定する。どうやら、鬼道が気づいたジェミニストームの攻撃パターンの裏をかくという作戦で行くらしい。
「甘いわね」
だが、そこに厳しい表情で踏み込んできたのは監督の瞳子だった。
「確かに鬼道君の言うとおり、ジェミニストームの攻撃には一定のパターンがある。……でも、貴方たちは今、自分たちがどういう状況なのか分かっているの?」
「どういう状況?」
選手たちは互いの顔を見合わせ、お互いの様子を確認する。特に変わったところはないようだ。瞳子は言葉を続ける。
「今の貴方たちじゃ、相手のスピードには着いていけない。攻撃パターンが分かったくらいで倒せる相手じゃないのよ」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
円堂が率直に疑問を述べる。瞳子はふっと不適に微笑んだ。
「こちらのディフェンスをすべてフォワードの初期位置まで上げるわ。全員攻撃するのよ」
は? と花織は思わず声を漏らしてしまった。そのくらい、監督の言い始めたことは突拍子も無いことだったのだ。サッカーを始めたばかりの花織でも分かる、そんな作戦は無謀すぎるだろう。
「そんなに上げるんですか?」
「でもそれじゃ、ディフェンスがいないも同然。それこそ奴らに抜かれでもしたら、終わりじゃないですか!」
土門と風丸が抗議をする。しかし監督はそれを聞き入れる様子もなく、いつもの口調でさらりと言った。
「だったら抜かれないようにすることね」
それだけ言って監督はベンチに腰掛け、足を組み直す。なんなのあの監督‼ と新参者の塔子が監督の横暴さに叫んだ。花織も彼女と全く同意見だった。しかも例によってこの監督はこの戦略をとった理由を説明しないのだ。絶対に試合にはならない、守りがなくてサッカーは成立しない。花織は憤りを感じながら監督をにらみつけた。
そして後半は花織の想像通りとなった。一人抜かれるたびに得点へと直結する。円堂だけが集中攻撃を受け、何も出来ないままにエイリア学園ジェミニストームとの試合は、三十二対ゼロという前回よりも圧倒的な大敗にて幕を下ろしたのだった。