脅威の侵略者編 第二章
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壁山が見つけたのはエイリア学園が使用している黒いサッカーボールだった。唯の黒いボールかと思いきや、何とそれは円堂が両手で持ち上げきれないほどの重さのものであった。エイリア学園の宇宙人たちはそんなものを軽々と蹴っていたのか、と思うとチーム全員が沈黙の中に陥ってしまった。どれだけ力量の差があるのだろうか、想像するだけでも怖い。
「全員動くなあ‼」
刹那、その沈黙を裂くように野太い大人の声が響く。弾かれたように雷門イレブンは声のした方に視線を向ける。そこには黒いスーツを着た集団が、明らかに敵意を持った視線をこちらに投げかけていた。
「もう逃がさんぞ、エイリア学園の宇宙人‼」
「え?」
「俺たちのことか……?」
円堂と風丸が思わず言葉を漏らす。チーム全員が何を言っているんだ、というような表情になった。どうして自分たちが宇宙人に見えるだろう。まずそこが理解できなかったのだ。加えて、黒いスーツの奇妙な軍団が自分たちを取り囲もうとしている異常事態に付いていけていなかった。
「え、あの……」
「黙れ! その黒いサッカーボールが何よりの証拠だ‼」
花織はちらりとその黒いサッカーボールを振り返る。これを持っているから、エイリア学園だとでもいいたいのだろうか。……酷い濡れ衣である。そもそも夏未の父が警察に話を通してくれたのではなかったのだろうか。
鬼道も花織同様、そのことが気にかかったようで、いつの間にやら花織から離れ、夏未にその旨を確認しに行っている。
「我々は総理大臣警護のSPだ!」
「だからっていきなり宇宙人呼ばわりするなんて、失礼じゃありませんか!」
黒服集団に風丸が苛立ったように言った。花織は、今度はそちらへと視線を向ける。どうしてだろう……、花織は首を傾げた。彼が何となく、気が立っている様に思えたのだ。思うと同時に彼と目が合う、だがすぐにその視線は逸らされてしまった。
「宇宙人はどこだ‼」
また誰か来た、女の子の声だ。叫び声と共に橋の上に姿を現したのは、同世代の女の子だった。SPたちと同じスーツを身に纏っている。桃色の髪で可愛らしい顔立ちの女の子だ。身長は花織と同じくらいだろうか。花織は中学女子の平均身長に届かないぐらいなので、背は高くないほうだろう。
「だから、俺たちは宇宙人じゃない‼」
彼らに向かって円堂が声を荒げれば、選手たちが一斉に彼女に向かって抗議の声を上げた。だが、彼女はつんとした様子で彼らが黙るまで待ち、勝気に微笑む。
「証拠があるにも関わらず往生際の悪い宇宙人だね。……それに、そうやってムキになって否定するところがますます怪しい」
「宇宙人じゃないったら、宇宙人じゃない‼」
「いーや、宇宙人だ‼」
円堂とSPの女の子が互いの意見を主張し合いながら睨みあう。ここまで来るともはや水掛け論だ。この問答はしばらく続くものかと思われたが、意外にも少女の提案によって終結した。
「そこまで言うなら証明してもらおうか」
「よし、望むところだ‼」
絶対に証明してみせる、雷門イレブンはそんなふうに意気込んで見せた。
❀
「……で、何でサッカーなのよ」
ぽつりと夏未が呟いた。場所を移し、鹿公園のすぐ近くのサッカーグラウンド。そこでサッカーの試合をすることになった。何でも彼らに勝てば宇宙人でないことを信じてくれるのらしい。……正直、宇宙人ならば楽々彼らにも勝てるだろうと思うのは気のせいだろうか。
「さあ、でもやって損はないわ。大人相手に彼らがどこまで戦えるのか、見てみたいの」
夏未の傍にいた監督が答えた。そういえば今回は、瞳子監督が指揮する初めての試合だ。いったいどんな戦略を立てて大人との試合をするのだろう。
「向こうが大人だからって怯むな、ピッチに立ったら同じサッカー選手だ!」
円堂の言葉を筆頭に選手たちが作戦を立て始める。体力差があるため、ペース配分に注意しなければならないことなどだ。そして何よりも、重大なハンディがこちらにはあった。核心の言葉を土門が口にする。
「でも、こっちは一人足りないしな」
そう、元々の人数が足りないのだ。前回のエイリア学園との試合で多数の負傷者が出てしまった。そのため、選手は現在十人しかいない。大人相手にこれは大きな痛手だ。しかも相手は何でもSPフィクサーズというチームらしい。……はっきり言って状況はかなり悪いだろう。
「監督、何かアドバイスをお願いするッス」
壁山が頼るように監督に指示を乞うた。全員の視線が瞳子監督に寄せられる、大人相手にどう戦うべきか……、監督の采配に勝利はかかっているといってもいいだろう。
「とりあえず、君たちの思うようにやってみて」
だが、監督の言葉は素っ気なかった。それだけ言うと身を翻してベンチの方へと向かってしまった。花織はそんな監督の態度に眉を顰める。監督なのに、そんなのってあるだろうか。響木監督の後任なのだから、それなりに実力ある監督なのだろう。なのに選手に掛ける言葉はそれだけか、花織はサッカーに詳しくないが酷くそれを疑問に思った。
「あの人は俺たちのサッカーがどんなものか見たいんだろう」
「ああ、初めて指揮する試合だからな」
瞳子の言動にぽかんとする選手たちに向かって、鬼道が推測を述べる。さらに豪炎寺もさらにその意見を推した。確かにその考えならば一理あった、瞳子監督はこの試合が初めてだ。雷門イレブンの実力をもしかして知らないのかもしれない。だとすれば、この判断は間違いではないのだろう。鬼道の言葉に花織は多少なりと納得した。
「それじゃ、十人でのフォーメーションはどうする?」
一之瀬がチームに問いかけた。そう、今回は一人足りないのだ。
「MFに風丸と土門を上げてオフェンスを強化する」
「……」
鬼道がすぐに意見を出した、花織は慌てて口を噤む。本当は提案したいことがあったのだが、鬼道がすぐに作戦を提示してしまったためだ。十人で戦う作戦としてそれは理に適っていた、円堂は日本一のキーパーだろうし、それならば攻撃に選手を回した方が効率がいい。こういう時は先取点をとったほうがいいのだから。
「よーし、みんな‼ 行くぞ!!」
「「おう‼」」
選手たちが円陣を組み、声を合わせる。花織が秋たちと一緒にベンチに戻ろうとすれば、鬼道にすぐさま呼び止められた。他の皆はすでに整列し始めている。それでも彼は気にも留めず、花織へと声を掛けた。
「どうしました、鬼道さん?」
「お前、さっき何か言い掛けなかったか?」
流石鬼道だ、花織の動揺にちゃんと気が付いていたらしい。そして多少自分が花織の言葉を遮ったことを気にしてくれていたようだ。だが、花織は何事もなかったように笑って顔の前で手を振る。
「いいえ、何でも。……頑張ってくださいね、応援してます!」
「ああ」
今更、言うことなんて出来ないだろう。私でよければ試合に出たいです、なんて。