脅威の侵略者編 第一章
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解散後、花織は支度のため自宅へと一度帰宅した。昨日は雷門中学の宇宙人襲撃をTVニュースで知り、帰宅していた父母は大層花織のことを心配していて、花織が帰宅するや安堵の表情をしていた。そして今日も、父母は家で学校から呼び出しを受けた花織の帰りを宅で待っていた。
花織は帰宅早々、父母にこれからしばらくサッカー部に着いて宇宙人を倒す旅に出ることを伝えた。両親は驚き、花織を引き留めようと説得したが花織は揺らぐことはなかった。結局数十分の押し問答の末、危ないことはしない、無理なことは絶対にしない、という条件の下でキャラバンに乗せてもらうことを許してもらった。
両親からの許可が下りると花織は急いで旅に出る支度を始めた。お金、必要な着替えと下着類、ヘアゴムや櫛などの身だしなみ用品。自分用のタオルやその他生活用品はもちろんのことテーピングなどのスポーツ用品、ソーイングセットなど。もしかして必要になるかも知れないものはできるだけ詰め込んだ。
荷物は肩掛けの旅行鞄ひとつ分に収まった。それを持って両親への挨拶もそこそこに家を飛び出す。花織は少し急いでいた。集合時間まではあと2時間ほどあるが、花織は寄り道しなければならない所があったのだ。
重い荷物に顔をしかめながらも、自慢の俊足で道を急ぐ。途中少し寄り道をして雷門中学を通り過ぎると、たどり着いたのは稲妻総合病院だった。先日まで、佐久間と源田が入院していた病院である。
宇宙人との戦いで傷ついた選手たちが入院している病院だ。花織は鞄の肩紐を握る。そして息を整え、静かに病院内へと歩を進めた。病院内はいつにもなく騒々しい。宇宙人の襲撃のせいで怪我人が後を絶たず、人が絶え間なく押し掛けているのだ。
「……」
酷い、心からそう思う。どうして宇宙人はサッカーで人を傷つけるのだろうか。花織は悲しい気持ちにならずにはいられなかった。サッカーはそんなスポーツではないはずなのに、宇宙人のサッカーは昔の帝国学園のサッカーが思い出されて胸が痛いのだ。
花織は受付で彼らが入院しているという病室の場所を聞き出し、病院の階段を上った。病棟に上がれば下のような喧噪はなく、病院独特の静けさが花織を包んだ。花織は足音を立てないように廊下を歩く。入院している選手達の名前を探し、花織は部屋番号下のネームプレートを見て回った。そしてようやく彼らの名前を見つけだすと軽く扉をノックをして部屋へ足を踏み入れる。
「こんにちは……、みんな」
恐る恐る声を掛ければ彼らはすぐに花織が見舞いに来たことに気がついたようだった。
「あ、月島先輩!」
「来てくれたんですね!」
一年生の少林、宍戸が嬉しそうに声を上げる。花織は彼らの様子を見てホッとした。思ったよりも彼らが元気そうだったからだ。病院に運ばれた時の彼らは話が出来ないほどに傷を負っていてとても心配だったのだ。
「うん……。調子はどうかなと思って。傷はやっぱり痛む……?」
「はい……。でも、キャプテンがゆっくり休めって言ってくれたんです。だからすぐにこんな怪我を治してエイリア学園と戦えるように頑張ります!」
「うん、早く怪我を治してチームに戻ってきてね。私はマネージャーだからサポートしか出来ないけど皆の分までちゃんと頑張るよ」
花織が笑って一年生たちに気合いをいれてみせる。そして目を細めて、安堵の息をついた。
「でも、本当に良かった……。皆元気そうで」
「はい、僕たちも先輩がお見舞いに来てくれて嬉しいです! ……でも、お時間は大丈夫なんですか?」
「さっきキャプテンから聞きましたよ、エイリア学園を倒す旅に出るんですよね?」
少林と宍戸が花織に質問を投げかける。どうやら円堂が花織よりも先に彼らの見舞いに来ていたらしい。そして、花織もイナズマキャラバンに乗ることを彼女が持っている荷物を見て察したようだ。
「少し、話があって。出発する前に言わなきゃいけないことだったから」
花織はそういうと一年生たちに持ってきた見舞い品、ドーナツの入った箱を彼らに渡した。一年生とそして影野がその見舞い品に喜んでいるのを見ながら彼女は振り返った。
じっと真正面のベッドに座っている人物に視線を向ける。彼ら……半田とマックスだ。特にマックスは花織が見舞いに来ても眉ひとつ動かしはしなかった。
「半田くん、マックスくん。話があるの、少しだけ時間いいかな」
「…………何? 僕らそんなに暇じゃないんだけど」
花織が下手に出るような態度で二人に声を掛けたが、マックスはここの所ずっと見せているツンとした態度を見せる。あからさまに花織から目を逸らした。それに対して半田はあきれた様子でマックスを見る。
「おいよせよ、何でそんな喧嘩腰なんだよ。……どうしたんだ花織、そんなに改まって」
半田は、花織の話を聞いてやれと風丸に説得する位なのだから、花織に対して苛立ちも何も感じていないのだろう。今も花織には笑顔を見せている、要はただの友達にしては花織に少し甘いのだ。だが、マックスは違った。
彼は風丸と鬼道の間で揺れる花織に常々はっきりしろと言い続けてきた。そしていち早く花織の真意を悟り、風丸がサッカー部に入る以前から風丸と花織の恋を応援してきた。彼はどちらかというと心情的には花織よりも風丸寄りなのだろう。だからずっと早く答えを出せと花織を急かした。
そして結局花織は決めきれず、二人の関係は破綻となった。だからこそ、花織に対して少し怒っているのだ。優柔不断で自分の気持ちを大切に出来なかった彼女を、たとえ花織と鬼道がどんな関係であれ、落ち込んでいた花織を救ってくれた風丸の想いに迷いを見せていた花織を。
そんな彼らに対して花織はすっと頭を下げた。彼女は顔を上げると凛とした様子で、言葉を紡ぎ出す。
「……今まで、散々迷惑掛けてごめん。ずっと答えを先送りにして、バカみたいに半田くんやマックスくんたちを巻き込んでた。答えはわかってるのに、でもでもって選べないばかり……」
花織はさらりと髪を揺らした。マックスは未だそっぽを向いたままだ。花織は毅然とした様子ではっきりと自分の主張を述べていく。
「それでもやっと、やっと答えが出たよ。マックスくん、半田くん……。私、どうやったって一郎太くんが大好きだから」
「花織……」
今の一言でドーナツに夢中になっていた一年生たちが振り返る。と同時に半田がぽつりと花織の名前をこぼした。その表情には何となく安堵のようなものが見られた。実際そうだった、彼は二人の中をひたすらに心配していた一人なのだから。
「今まで、答えを出すのに長く掛かっちゃったけど……。もうはっきりしたから、悩んだり揺らいだりしないから。だから……」
「あのさあ、謝る相手が違うんじゃないの」
耐えかねたようにマックスが声を上げた。そしてようやく花織を視界に入れ、彼女の姿を見据えた。いつになく真剣な目をしている。
「僕らは君の友達なんだから、君の悩みはいくらでも受け止めるよ。でもさあ、花織が謝るのって僕らじゃないよね。僕らは花織に迷惑を掛けられた事なんてないんだから。そこのところ、わかってるの?」
マックスのその言葉に花織は大きく目を見開いた。そしてふっと彼の素直じゃない真意をくみ取って柔らかく微笑む。
「……ありがとう。もちろん、誰に謝らなくちゃいけないかは分かってるよ。……でも、まず先にはっきりさせておきたかったんだ。今度は私から想いを打ち明けるんだって……。だってマックスくんと半田くんは私にとって大切な友達だから。私の悩みをずっと聞いてくれたふたりにまずは私の答えを知ってもらいたかったの。自分自身の答えを揺らがせないためにも」
「……バカ」
大きくため息をついたマックスがあきれた様子で呟いた。彼女の答えに苛立ったのかどうかは定かではないが、彼は花織に対して非難の言葉を口にした。
「バカ、本当にバカだよ。何でそんなにバカ正直に答えちゃうわけ? 花織、君って天然とかじゃなくて本気で素直だからたちが悪いよ」
「……ごめん」
申し訳なさそうに、それでもマックスの様子が可笑しいのか花織が微苦笑を漏らしながら謝る。マックスはもういいよ、と再びツンとした様子を見せて花織から目を逸らした。
「ちゃんと、今度こそ自分で伝えるんなら……。もういいよ、何だってさ」
やはり彼は素直ではない。本当はもうとっくに花織を許しているくせに意地を張った態度をしている。そのくせ、花織と彼を心配するような口振りをする。
「伝えるよ、自分でちゃんと」
「……なら、いいんだ。半田がどうするかは知らないけど、僕はそれで」
「何でそこで俺を投げるんだよ」
今までマックスの剣幕に口を挟むことが出来なかった半田が思わず突っ込みを入れた。彼は呆れたように肩をすくめると花織を手招きして自分のベッドまで呼び寄せる。花織が彼の元へ歩み寄れば、彼はそっと左手を差し出した。彼は微笑んでいる、優しく何も無かったかのように。
「花織、これからいろいろあるだろうけど、がんばれよ。何かあったら俺たちを頼ってくれて構わないから。……俺は絶対花織の味方だから」
「……。ありがとう、半田くん」
差し出された手に花織は自分の手を重ねた。彼の言葉は嬉しい、だがこの彼は一緒にキャラバンで出発できないのだ。そう思うと寂しい気もしてしまう。彼の右肩に填められたギプスが痛々しく思える。
「よく言うよ、半端のくせに。僕のご機嫌取りのために一緒になって花織を避けてたのは君だろ」
「う……」
半田はマックスの言葉に気まずげな表情を見せた。マックスはしれっとした表情で呟きつつ、自分の足下に掛けている布団を片手で器用に整えていた。それはお前がすぐに機嫌が悪くなるから……!と言い訳を始めるがマックスはそれを後目に花織に手を差し出した。花織は一瞬戸惑ったが、すぐに彼に手を差し出す。そうして先ほどの怒りはどこへやら、何ともない態度で彼は花織と握手を交わした。
「報告よろしく。それだけ」
にやり、と彼は悪戯っぽい笑みを浮かべた。