脅威の侵略者編 第一章
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いつの間にか、宇宙人は忽然と姿を消していた。後には宇宙人の残した破壊の爪痕が残っているだけだ。彼らは絶望を表情に浮かべながら、部室が立っていた場所へと自然と集まった。
部室は元々古く、ぼろぼろであったがもう今では見る影もなく、瓦礫となって朽ち果てている。あたりには部室の中にあった円堂大介のノートやその他備品が転がっている。唯一無事で済んだサッカー部の看板が、この瓦礫の山が確かに部室であったことを裏付けていた。
「恐ろしいシュートだった。スピードもパワーもあんなの見たことない」
「ああ……。世宇子でさえ、さっきのシュートに比べたら……」
鬼道が呟いた言葉に風丸が同調した。妙な事だろうが、想い人が一緒であり互いに取り合う関係にある二人の仲は意外にも悪くない。むしろ年齢の割には落ち着いた面などから、鬼道と風丸は互いに気が合うようだ。殊に、花織を心配するという点では互い以上に共感できるものはいない。
「マジン・ザ・ハンドでも止められないなんて……」
「いや、技を出す間もなかった。……そうだろう、円堂」
ああ、と円堂が力なく呟く。その声を聴く風丸の傍で、微かに声がした。その声は鬼道にも聞こえたようで、ふたりはすぐさま声の主を振り返る。花織だった。
「酷い……」
花織は両手で口元を覆って呟く。悲しげに細い眉が寄せられるのを、もちろん彼らは例外なく見ていた。花織は特別部の誰より部室に思い入れがある、というわけではない。だがそれでも、この瓦礫の山を目にすると目頭が熱くなるほどには悲しかった。悲壮感を漂わせる花織に彼は堪えられず、言葉を掛ける。
「花織……」
花織は唐突なことにどきりと心臓が音を立てるのを感じ、驚いて振り返る。声を掛けた彼、風丸一郎太はハッと我に返り、しまったというような表情をして花織から視線を逸らした。本当は声を掛けるつもりなど無かったのだ。彼らはバスの中では仲良くしていたとはいえ、現在気まずい関係にあるのだから。
ただ……、彼は悲しそうな花織を放って置くことができなかった。彼女の背後では仲間は絶望し、秋や夏未が忙しく現在の状況を得るために電話をしている。そんな状況が自分にとってどこか遠くにあるかのように風丸は今、花織しか見ていなかった。きっともう数秒もすれば、先に鬼道が花織に声を掛けていただろう。それが何となく、というか堪らなく嫌だったのだ。
「え、っと……」
言葉を見失って風丸は焦った。付き合っていた頃、彼女に片思いをしていた頃は何も考えずとも口を付いて出ていた彼女を心配する言葉が、中々出てこなかった。
「その……、大丈夫か? 辛そう、だから」
風丸はそう言って何を言ってるんだ、と自分を諌め口を噤む。今辛そうな顔をしているのは他の皆だって同じだ。自分自身だって部室や学校を破壊され、宇宙人に対する怒りや力の次元の違いを震えるほど感じている。花織だけが辛いわけじゃないのにこんな言葉を掛けてしまうのは、きっと風丸もこの事態に動揺しているからだろう。
「私は大丈夫。……でも、なんだかやるせなくて。この部室は40年間もサッカー部を見守ってきた、ずっと。それなのに……、フットボールフロンティアで優勝したその日に壊れてしまうなんて」
花織は部室から目を逸らさずに自分の気持ちを吐露した。静かにはっきりと、だが風丸にはその声は一言も漏れずに届く。
「全国優勝のトロフィー、飾ってあげたかった」
つう、と花織の瞳から涙が零れ落ちる。刹那、風丸は思い出した、"部室に全国優勝のトロフィー、飾ってやろうぜ!"そういったのは確かに自分であったこと。そして当時は分からなかったが、その言葉に対して花織が嬉しそうに言葉を掛けてくれたこと。今になって分かった、自分が何気なく言った言葉を彼女がどれだけ大切にしてくれていたのか。
半田からの説得を受けたからだろうか、花織の好意を素直に受け止めることができる。
「悔しい……、すごく。サッカー部の歴史を意味の分からない宇宙人なんかに壊されて」
風丸が受け止める花織の言葉は、花織が思うそのままだった。花織は今でこそサッカー部に愛着があるものの、以前まではサッカーにすら彼女は興味を持てなかった。鬼道が好きなサッカーを花織は嫌っていたからだ。だが、風丸と出会ってそれは変わった。
花織にとって陸上の始まりが鬼道であるならば、サッカーの始まりは風丸なのだ。
彼女がサッカーに置いて喜び、悲しみ、そして悔やむすべては風丸が基盤にあった。その真意を知るのは、彼女自身のほかはないだろう。あの言葉も、風丸の言葉だったから大切にしていたのだ。
「花織……」
心底悔しそうに嫌いだったはずのサッカーの為に涙を流す花織。風丸は花織の悔しさに共感し、彼女を慰めようと手を伸ばす。彼女のその心を自分が晴らしたいと思ったのだ。別れていたってそんなことは関係ないだろう、風丸はそう思った。
だがそれは、すぐさま円堂の声に留められた。これから行くべき場所が決まったのだ。傘美野中学……、現在そこに宇宙人が現れ、勝負を申し込んでいるのらしい。これから全員で傘美野の助っ人に行くのだ。
「……」
風丸は花織を見つつ、伸ばしかけた手をそっと元に戻した。今はそんな場合ではない、彼女と十分に話し合うのは宇宙人を倒してからでも遅くないだろう。
雷門イレブンはすぐさま隣町にある傘美野中学へと向かった。宇宙人が傘美野中学に現れた。これは夏未の父である理事長から受け取った情報だが、どうしてこの情報を理事長が有していたのかは不明であった。だが今は、そんなことについてごちゃごちゃ言っている暇はない。彼らは一刻も早くと急いで傘美野中学へと向かった。
傘美野中学サッカー部は、フットボールフロンティアには参加していない。何故なら先日まで彼らはサッカー同好会として活動しており、先日まで正式な部として認められていなかったからだ。そんな彼らは到底、宇宙人と戦えるような実力を持っているわけなどなく、試合を棄権しようとした。だが、宇宙人に校舎が破壊される寸前に雷門中学がその試合を代わりに引き受け、現在に至る。
「豪炎寺くん、一之瀬くん、土門くんもいないのよ。現状では染岡くんのワントップになるわ。大丈夫なの?」
「問題ねえよ」
豪炎寺は妹の病院に行ったままであり、一之瀬、土門は木戸川清修に行っている。しかも、木戸川清修もすでに宇宙人の襲撃を受けているとの報告があったため、この二人はきっと試合には間に合わないだろう。それでも夏未の問いに染岡が事もなげに返答をした。流石、雷門の点取り屋だけのことはある。その答えには言いようのない頼もしさがある。
「ああ、バックアップは任せろ」
鬼道が笑みを浮かべながら染岡に言った。全員やる気十分のようだ。表情にはやはりフットボールフロンティアで優勝したのだからという自信で満ちている。宇宙人がどんなサッカーをしようが、諦めなければ絶対に勝てるはずだという思いがあるのだろう。彼らは神のアクアを用いた世宇子中にだって勝ったのだから。
「よし、頼むぞ。みんな‼」
円堂の言葉で選手たちはピッチに整列した。センターラインにボールを置き、宇宙人と睨みあう。数時間前、世宇子中学に勝利したばかり、しかもレギュラーが3名も欠けている。唯でさえ劣性であるのに、さらに大きなハンディキャップだった。
「お前たちの名を聞こうか。俺たちは雷門中サッカー部、俺はキャプテンの円堂守!」
「……お前たちの次元であえて名乗るとすれば、エイリア学園とでも呼んでもらおうか。そして、我がチームはジェミニストーム」
円堂の問いかけにリーダーらしき、ソフトクリームシルエットの男が答える。
「わが名はレーゼ。さあ、始めようか」