脅威の侵略者編 第一章
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「俺たちは優勝したぞーっ‼」
「「優勝したぞー‼」」
キャプテン円堂の声と共にチームメイト達は握り拳をあげた。フットボールフロンティア決勝戦、世宇子中学との試合を制覇した雷門イレブン。彼らは今、インタビューや写真撮影を終え、雷門中学へ帰るべくバスに乗り込んでいた。
世宇子中学は神のアクアという、人間の運動能力を神の域にまでパワーアップさせてしまう飲み物を飲み、雷門イレブンたちとの試合に臨んでいた。まさに神のごときそのパワーやスピードの前に、前半は全く歯が立たなかったものの、雷門特有の粘り強さから何とか勝利をもぎ取った。世宇子中学のバックに付いていた影山の陰謀は再び阻止され、逮捕の運びとなった。
世宇子中学との死闘を繰り広げ、日本一となった雷門イレブンは皆晴れ晴れとした表情を浮かべている。それぞれがトロフィーを握り、各々が互いを讃えあった。今日この日が、雷門中学サッカー部にとって最も素晴らしい日であることは間違いないと思われていた。
「それで、これからの戦いは? 日本一になったら次に目指すものは何かしら?」
盛り上がる最中、夏未がキャプテン円堂に向けて言葉を掛ける。弱小チームから上りあがった雷門中、マネージャーである花織も彼らの目指すところに興味はあった。花織は隣の隣に座っている円堂の顔を覗く。円堂は夏未の問いかけにきょとんとしていた。
「次……?」
「次か、面白いじゃないか。きっとまだまだ強い奴は一杯いるからな」
円堂の代りに夏未の問いかけに答えた人物の声に、どきりと花織の胸が大きく高鳴った。彼女は慌てて隣の座席から目を逸らす。それは花織の隣に掛けている風丸の声だったからだ。
雷門中へ向かうバスの中、何の因果か二人は隣り合わせで座っていた。雷門中学の乗り込むマイクロバスは座席が少なく、秋と花織は補助席に座っている。花織と風丸は互いに目を合わせもしないし、話をすることもないが、とにかく隣り合わせで座っていた。しっかりと互いの声には耳を傾けて。
「一杯って、どこに?」
「世界だよ、もっともっと強い奴がいるはずだ」
半田の問いかけに風丸が答えた。花織は微かに髪を揺らす。花織は彼のこういうところが好きだった。何に置いても目的を見据えて、邁進する彼が。以前からずっと、大好きだった。盛り上がるバスの中で花織は風丸にちらと視線を寄せる。
現在、花織と風丸は別れたばかりの恋人という気まずい関係を築いている。
今年の四月、中学二年生になった花織は帝国学園から雷門中学へ転校してきた。転校早々風丸と出会い、陸上を通してふたりは恋に落ちた。だが、ふたりの恋は中々成就しなかった。花織にはずっと前から好きな人がいたからだ。元帝国学園のキャプテン、鬼道有人。たとえ酷く傷つけられても、花織はずっと鬼道に恋をしていた。
その後"鬼道を忘れさせる"という約束の元、風丸と花織は一度は恋人関係を結び、誰もが羨むような親密な仲となった。しかしふたりの関係は上手くいかなかった。花織の気持ちの揺れや花織を傷つけた鬼道の本心、風丸の花織を思う気持ち、様々な要因からふたりはすれ違ってしまったのだ。結局、ふたりは風丸から別れを告げる形で破局してしまった。
だが友人たちの力を借り、ふたりは徐々に歩み寄り始めていた。互いの想いは変わらないのだ。今は友人ほどの話もできないが、この後にふたりで話をするのだという約束がある。花織は早く学校に戻り、彼と話をしたいと思っていた。なにより花織は、彼におめでとうと声を掛けたかった。
「そういえば、一之瀬も土門もなんで急に飛び出して行ったんだ?」
「ん? 一之瀬と土門は木戸川清修に行ったんだ。木戸川の西垣から電話貰っててさ」
「そうそう、それでふたりとも報告に行ってくるって」
唐突に風丸が思い出したように呟く。風丸の質問には円堂と秋が答えた。木戸川清修にいる西垣守は一之瀬と土門のアメリカ時代からの友人同士で、おめでとうコールを貰ったからとふたりは優勝報告へ向かったのだった。ついでに言うと現在豪炎寺も、妹の友香の見舞いへ向かっている。
「そうか。……俺も陸上部のみんなに報告しないとな」
顔をあげ、納得したように風丸が呟いた。そしてふと、彼は花織の方へ視線を寄せる。花織は風丸の方へ視線を向けていた為、彼とばっちり目が合った。
何とも言えない空気が二人の間に漂う。気まずさから思わず花織は彼から目を逸らして俯いた。しかしそんな花織を見つめたまま、未だ盛り上がるバスの中で彼は小声でそっと花織に囁いた。
「……花織。その……、良かったら一緒に報告に行かないか」
「えっ……」
そう話を切り出した風丸の頬は微かに赤い。花織は驚いた様子で顔をあげ、風丸を見つめた。風丸は準々決勝の千羽山中学との試合後、花織に別れを告げてから碌に花織と話をしようとしなかったのだ。いくら決勝前に少し話をしたとはいえ、一時期は花織のことを完全無視していた時期もあったのだから、今花織と目が合ったことを絶対に良しとしないと思っていたのに。
「話をした後でいい。……きっとアイツらも花織のこと待ってるからさ」
「うん……。行きたい、……一郎太くんと一緒に」
風丸の提案に花織は微笑んだ。"すべてが終わったら陸上グラウンドのそばのベンチで"ふたりはそんな約束をしていた。花織はそこで風丸に改めて想いを伝える気であった。そして風丸もまた、花織に話があると言っていた。
「……一郎太くん」
「どうした?」
「優勝、おめでとう。一郎太くんのプレー、カッコよかったよ」
勢いに任せて言葉を口にした花織が、ふっと照れくさそうに笑う。風丸は一瞬きょとんとした様子だったが、我に返るとますます顔を赤く染めた。まるで恋人同士だった頃に戻ったかのようだ。こんなふうに言葉を交わしあえるなんて。
「ああ、ありがとう。花織……」
風丸が優しげな瞳で花織を見つめる、花織も同様に風丸を見つめていた。別れてからの互いが離れていた時間なんてなかったかのように。
「…………」
「…………」
今ここで言ってしまってはダメだろうか、風丸は目を細める。解散後を待っていられない、こんなふうに笑ってくれる花織の真意を知りたい。風丸はそう思った、何せ彼は数週間前まで花織の恋人だったのだから。そしてその気持ちは別れてからも一度も潰えたことは無いのだから。
「花織……、あのさ」
「ん……? 何だ、あれ?」
水を差すように呟かれた円堂の言葉に風丸も花織も振り返った。円堂は窓を見つめ、何かを凝視している。ふたりも、また円堂の声に気が付いた他の人間も窓の外へ目を向けた。
何かが宙に浮いている……、花織は目を凝らす。それはくるくると回転しながら地上へ徐々に落ちていく。いったいなんだろう、あんなものは見たことがない。花織がそんなことを思っていると刹那、まばゆい紫色の閃光が眼前に迸った。
「「…………っ‼」」
バス内に衝撃が走った。数秒遅れて凄まじい崩壊音が耳に届く、爆発だ。選手たちはあまりの衝撃に言葉も出ず、窓の外を凝視していた。正体不明の物体が落下していた方角から煙が舞い上がる。いったい何が起こったのか、誰にも理解できなかった。
空いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろう。雷門中の面々がバスを降りると、衝撃の光景が広がっていた。
学校がない……、それは何かの比喩ではなく文字通り学校が無くなっていた。学校の在った場所には瓦礫の山が積み上げられていて、とてもではないがここに学校があったことなど信じられない。空気は舞い上がる粉塵で淀み、空は爆発のためか真っ暗に曇っていた。
「何が起こったんだ……」
言葉を失っていた選手たちの中で、円堂が震え声で呟いた。他のメンバーも同じ事を思っていたに違いない。いったい何があったらこんなことになる?わけがわからない。ついさっき、ほんの数時間前にフットボールフロンティアで優勝して、トロフィーを勝ち取ったばかりなのに。花織は震える手をぎゅっと胸の前で握り締めた。
「キミたちなのか……⁉」
そのとき、瓦礫の方からひとりの大人がこちらへと向かってきた。彼らはその人の方へと視線を向ける。よろよろとよろめき、砂埃に塗れてはいたが見覚えのある人物だった。
「校長‼」
円堂が声を上げてその人の元へと歩み寄る。そう、この人は雷門中学の校長の火来だった。その表情は憔悴しきっているようだったが、円堂らサッカー部員の姿を見つけて少し安堵の色が見えたようにも思える。それでも何やら動揺が伺えた。
一体何があったのか、円堂が校長に答えを迫った。すると困惑したような校長の口からは信じがたい言葉が発せられた。
「う、宇宙人だ……! 宇宙人が攻めてきたんだよ……っ‼」