FF編 第十二章
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フットボールフロンティア決勝戦当日。緊張の面持ちの選手たちが花織の目に映る、練習の成果の発揮どころだ。フットボールフロンティアのスタジアムから天空に浮かぶ世宇子スタジアムへと場所を移動し、試合開始を待つ。
雷門中は正直言って決勝戦前にも関わらず不安定だ。世宇子スタジアム到着と同時に、祖父の死に影山が関与している可能性を告げられた円堂。未だにマジン・ザ・ハンドも完成していない、今チームの中で一番不安定な人物だ。そして彼こそがチームの中心でみんなのすべてだ。
だからこそ、チームメイトそれぞれが円堂をバックアップしていかなければならない。そしてそのバックアップを花織が一番期待するのは、豪炎寺でも染岡でも、鬼道でもない。花織がサッカーのプレーで信頼するのは彼一人なのだから。
だからこそ、たとえ迷惑だと思っていてもエールを送りたい。花織はその思いで控え室に居た。もちろんこの試合が終わったら自分の気持ちを彼に伝えるつもりだ、でもそれでは遅い。今まで彼のプレーを見てきたのは自分だ。だからせめて自分が応援しているのだということだけは伝えたい。皆が控え室を出ていく。花織は決意を固めて彼の名を呼んだ。
「……一郎太くん」
彼の背中に声を掛けると彼のポニーテールが揺れた。花織はぎゅうと胸の辺りで手を握る。風丸は花織の声に足を止めた。だがしかし、彼は振り返ろうとはせず、その場に立ち尽くしている。すでに部屋からはふたりを除いた全員が退室していた。
「このままでいいから少しだけ私の話を聞いてほしい。……お願い」
花織の願いに風丸は返事をしなかった。風丸は迷っていたのだ、このまま花織の話を聞いてしまうとプレーに悪影響を及ぼすような感情が生まれるのではないだろうか。そんなことを思っていた。しかし彼の胸の内では半田に言われた言葉が反芻する。拒絶しないで花織の話を聞いてやってほしい、花織のことをまだ好きでいるなら。
「……」
風丸は何も言わなかったが、微かにポニーテールが揺れた。彼が首を縦に振ったからだ。ともかく話は聞いて貰えるようだ。そう判断した花織は大きく深呼吸をして静かな声で話を切り出した。
「この大会で優勝して、何もかもすべてが終わったら……。私、一郎太くんに話したいことがあるの。一郎太くんはもう私の話なんて聞きたくないかもしれないけれど、私が雷門へ来てから悩んできた、ずっと一郎太くんを振り回してきたこの気持ちの話……。今まで悩んでばかりで何も決められなかった私が出した答えを、最後でいいから一郎太くんに聞いてほしい」
控え室には静寂が佇んでいる。風丸はやはり何も答えようとはしない。どこからかくる胸苦しさから花織は大きく息を吸う。緊張で胸がドキドキと高鳴った。
「でも……、でも今は私の話なんて忘れてていいから、試合にだけ集中しててほしい。まず何よりも大事なのは、これまでの練習の成果が試されるこれからの決勝戦だから。……私、今までずっと一郎太くんの頑張りを見てきたよ。誰のプレーよりも一郎太くんのプレーを信じてる。だから……」
花織は凛とした声を控え室内に響かせる。
「私は何もできないけど、せめて応援してる。一郎太くんが全力を発揮できるように祈ってるから」
言い切ってしまうと控え室内がしんとした。花織は風丸の背中を見つめる。いつも通りの背番号二番のユニフォーム。見つめているだけで、どうしてか胸が痛くて痛くて仕方がない。今にも泣きそうなほど胸が痛い。
彼の隣にいられる身分だったなら、もっとマシな言葉があったかもしれない。今まで自分のせいで彼を迷わせ、苦しめてきた。こんな言葉を掛けるだけでも図々しいと思っている。だがそれでも、この言葉こそが花織が今までの中で出した答えだ。今花織にできる最善の策だ。
「……花織」
久しぶりに呼ばれた名に花織の瞼が揺れた。風丸はゆっくりとした動作で花織を振り返る。花織は息をするのも苦しいほどに胸が締め付けられるのを感じた。彼は優しげに笑っていた、まるで花織に想いを告げたあの時のように。
「守って守って守り抜く。奴らにシュートは決めさせない。花織が俺のプレーを信じくれるなら、やれると思う。……花織」
風丸が花織を向き直る。目を細めて彼は真っすぐに花織を見つめる。花織は俺にとってサッカーの原点だ。俺のサッカーは花織と共あった。嫌われていても、花織が鬼道を想っていても。花織のエールをしっかりと胸の中で受け止める。花織が俺のプレーを信じてくれているのならば、それに答えるまでだ。