LOOP59
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近からずとも遠からず。今のユキと沙明の距離は、言い表すならばその程度が相応しい。結論を迎えるたび、時間が振り出しに戻る。そのため、たとえユキの中には想いが募っても、沙明の記憶やユキに対する感情はリセットされてしまった。
それが当たり前であるとかねてより認識があったはずなのに、ループ開始時に彼と顔を合わせると。どうしてかそのことを寂しいと思うようになった。ユキは時折、自分の思考が理解できなくなる。彼の思考や感情にいったい何を期待しているというのだろう。
「何フラフラしてんだユキ。襲われんぜ? 犬も歩けば棒でンーフーンーフー? つーだろ?」
この瞬間も突然声を掛けてきて、ニヤッと口の端を上げて笑う沙明をにユキはきゅっと胸が締め付けられた。妙な感覚だ、と彼女は胸をさする。彼の存在に気が付いたループの時に比べ、最近のユキはさほど心を病んではいない。この終わりのない事象の中で彼に会いたいという、ユキが生きるための小さな目標ができたからだ。
前ほど身体が震えたり、辛くて死んでしまいたいと思うことはない。メランコリックな感情は沙明のおかげで取り払われたにも等しい。
それなのに何故か、彼の傍にいるといつしか胸が締め付けられるように痛む。加えて時には息の止まるような思いがあった。原因を思考してみるが身体に特に変調はない。他に何か、変わるものがあっただろうか。巻き戻り、何もかもなかったことになる時間の中において変化など。
「ユキ、……ホント、お前ってハッ……。なんつーか、無防備だよなァ」
彼の手が伸びて気安くユキの髪をポンポンと撫でる。どうしてだろう、どのループにおいても彼はユキに対し優しい気がしていた。彼の優しさの理由が気にかかって、ユキは無意識のうちに彼の感情を考察している。
彼に、優しくするだけの価値があると判断してもらえているのか。それともやはり私が女であるからだろうか。それでも些細なことで彼がこうしてくれるならば、私は女に生まれてよかったとユキは思う。
ほんの些細なことだ。彼が優しくしてくれると、彼が勇気づけてくれたあのループを思い出す。