LOOP180
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目の前に立つ女には、いつしかユキという名がしっくりと当てはまるようになっていた。女はこのストレートロングの銀髪が映え、嘘のように白い滑らかな肌をしている。
長い睫毛に縁どられて覗くその眼差しは、重ねられる時間の重みの分だけ深みを増した。落ちぶれてなどおらず、儚くとも美しい輝きを持つ。何千、何万と見たはずのこの顔は、まだユキという確信が持てなかった頃に比べると明らかに顔つきが変わった。
いつも何かに怯え、びくついていた少女の面影はどこにもない。今、真実を反射する鏡の前には固い信念のもとに光を灯す、凛然とした眼差しの女が立っている。
彼女の眼差しには柔軟さも兼ね備えているように思えたが、どこか物悲しさも孕んでいるような。見る者によっては違う印象を感じさせる目をしていた。長い時を経て、彼女の中には多くの経験が積まれている。その経験から編み出された感情が今のユキを彩り、形作っている。今ならば彼女は、自分自身が鏡の前に表出する感情の意味もきちんと理解できるだろう。
ここは、グノーシアのいない唯一の宇宙。前回のループで銀の鍵の情報が満たされ、次元の扉を開く準備が整った。すなわちループを終わらせる時がいよいよやってきたということである。あんなにも祈り、願ったループの終わりがすぐそこまで差し迫っていて、本当に未練がないかと問われれば嘘になる。想いが捨てられないからこそ胸が締めあげられるようにきつい。ただ、迷いはない。その感情に身を委ねて考えを曲げることは在り得ない。
指先を持ち上げて横髪を左耳に掛けた。そこにはいつもユキの身に着けている金のフープピアスが飾られている。期待しないつもりでいた癖に、わずかでも希望を持っていたようだ。シルバーの輝きが見えないことに、目を覚ました時はやはり落胆した。物質は持っていけないと分かり切っていて、実際現実を目の当たりにすると寂しさに身をつまされる。そのとき、部屋の扉の奥から声が聞こえた。
「ユキ、いるなら返事をしてくれないか」
随分と懐かしい台詞が聞こえて、ユキは躊躇いなく鏡の前から踵を返して扉へと向かう。この言葉を何度も聞いたことがある気がするのに、それはもう遠く彼方昔の話に思えた。恐らくはそれだけの時を積み重ねてきた。今はもう、畏れなく扉を開くことができる。
「ああ、やっぱり部屋に戻っていたんだね」
開いた扉の前に立っていたのはセツだった。セツはユキを見ると穏やかに表情を綻ばせた。記憶とは違う展開、それはこれから起こる何かが、これまでと違うことを意味するのかもしれない。
「そろそろ行こう、ユキ。銀の鍵で扉を開くんだ」
「……うん」
全くの未知を求めて歩き始めた。この決断が沙明にも、セツにもそしてユキ自身にも希望があるものだと信じて前進する。明確な変化を手にしてようやく終わりへ向かっていく。長い長い夢から醒め、ひとつの舞台に幕を下ろすために。