LOOP164
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前々回の終わりから、小休止を挟んで今現在。ユキの頭の中はそのときの事象を、きちんと整理して収納している。また一歩、核心へと近づいたと言えるだろう。
事の全貌は徐々に見えつつある、だが逆に謎が深まる部分もあった。己が消えた存在であり、今ここにユキが存在する原理についてだ。ユキは一日目、すなわちグノーシアによって何者かが既に消滅させられた後の記憶しか有しない。
他の乗員と違って、乗船前のことなど全くもって覚えていないのだ。それはどうしてだろう、自分自身がヒトではなく完全に異物だからだろうか。
ひとつ前のループでセツに“ユキが既に消えた人間であることを知っているか”と聞いてみたがセツ曰くそんな事実は知らないとのことであった。この部分にもしかすると何か重大な事実が隠されているのかもしれない。
「ここは……」
大抵の場合は自室で目が覚めるものだが、珍しく廊下で意識を取り戻す。何度か瞬きを繰り返すと徐々に視界が鮮明になった。覚醒したユキの前に一人の人物が立っている。セツだ。
「グノースの手が及んでいない宇宙。船内に汚染者が一人もいない、恐らく唯一の宇宙だ」
「……セツ」
グノーシア数、『0』。ユキの記憶の中で鍵の表示がフラッシュバックする。以前にも、こういう世界に来なかっただろうか。銀の鍵に表示されたグノーシア数、そして。あの悪夢だと解釈した、ユキに対する強い拒絶を滲ませた彼を見た宇宙。――――あれは。
「やはりユキも、ここにたどり着いたんだね。この――――昨日の世界に」
「……昨日の?」
「そう。このループは、いつもの開始時点より一日早いんだ。何故かは分からないけれど」
あれは夢じゃなかったのか? キュッと臓腑を鷲掴みにされたような感覚が走る。足裏の感覚がなくてバランスが取れなくなりそうになる。ユキの恐れを知らないセツは、彼女が未知に対しての不安を抱いているのだと解釈したようだった。さあ、とユキを急かし先へ進もうとする。
「これから何が起こるのか……確かめてみようか」
きっと大丈夫に違いない、ユキは衣服の胸元を強く握りしめる。あの時の宇宙がここだった確証なんて何ひとつないのだから。それに行けば、真実が分かるに違いない。
乗員たちは現在、食堂に集まっているようだった。普段夜時間であっても滅多に集まらない乗員たちの大半がここにいる。いつものループではグノーシアが潜むということもあって、お互いに疑心を持っている。
そのため中々一同を介して集まることはなかった。まるでこれからパーティーでもするのかと言わんばかりに、テーブルには雑多な料理がたくさん並べられていた。
ユキは呆気に取られて食堂を見渡す。それはセツも同様のようだった。セツもこの光景には驚きを隠せずにいる。
また乗員たちはいつもよりも気楽にこちらへと声を掛けてきた。しげみちを筆頭にセツに対して口々に礼を述べていく。ルゥアンでのグノーシア騒動、あのときに乗員たちをこの船に誘導したのはセツだった。最もユキにその時の記憶はなく、後からループするうちに知り得た話ではあるが。
セツに掛けられている言葉を聞きながらユキは彼の姿を目で探す。彼、沙明もセツに礼を言うために傍へと歩いてきて、セツに対しての軽口を吐く。ユキはその沙明の発言の品の無さよりもただ、彼が一切こちらへ視線を寄こさないことの方が気に掛かっていた。
「……ユキ、もう怪我は平気?」
ぼんやりとユキが沙明のことを見つめていると、横からジナが声を掛けてきた。――――怪我? 覚えのない、そして既視感のある問いかけにユキは答えあぐねる。
「ああ、そう言やユキ、結構な大怪我してたっけな」
「うん、モノ凄いことになってたよね。全身血まみれでさ、もう助からないんじゃないかって」
ジナの発言にシピとコメットが続いた。何か知っているか聞くため、セツの方をちらと見るがセツは首を横に振る。どうやらセツはユキの怪我については知らないらしい。
怪我をしたか――――。以前にも、そう聞かれたことはなかったか。あの悪夢とユキが記憶している宇宙にて。ユキは今一度沙明に視線を移す。
この宇宙で初めて彼と視線が合った。見知った、今となってはいくらか感情を読み取れるようになった沙明の瞳。セツに軽口を叩いていた時に比べ、幾分顔が青ざめているような気もした。
「沙明……」
勇気を振り絞って彼の名を呼ぼうとする。だが、彼はユキの呼びかけに対して意図的に耳を傾ける気がないようだった。その瞳はユキに対して、他の乗員とは違う他人行儀さを映してさっとユキから目を逸らされる。
――――夢ではない、あれは。
紛れもなく現実であることを悟る。眼前にはグノーシア汚染被害のない理想の宇宙が広がっていたが、ユキの身体は冷たく凍り付くかのようだった。言い様のない恐ろしさに肌が粟立つ。ユキは彼の態度に臆して、身体が微かに震えるのを感じる。セツの視線が目敏くこちらを見ているのが分かった。それでもユキは動揺を抑えることはできないでいた。