LOOP160
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ベッドに伏してからの展開は早い。この行為自体はこれまで何度も体験しているから、慣れていないというわけでもない。だが、自らの想いをきちんと告げて肌を重ねるのは今回が初めてのことだった。
溶けそうなほど熱い肌を重ね、彼を自分の中へ受け入れる。彼が懸命に自分を見つめて律動を繰り返すのを、愛しいばかりの気持ちで見つめた。永遠にこのままで、一つのままで居られるのなら離れることもないのか。
しょうもないことを考えても仕方がないのに。不意に切なくなってユキは、上へ手を伸ばす。指に引っかかった彼の眼鏡のブリッジを引いて、彼の瞳を遮る遮蔽物を外す。
「ハッ……、何すんだ見えねェじゃん」
黒髪が揺れるから、細い眉が顰められるのが普段よりはっきり見えた。何気に、まじまじと眼鏡をしていない彼の素顔を見るのは初めてかもしれない。これまで見てきた彼は、眠っているときも眼鏡をかけっぱなしか、あるいはこちらに顔をみせようとしなかった。
「沙明って綺麗な顔してる」
動きを止めた彼の頬に眼鏡を持つのとは反対の手を滑らせて呟く。すると彼は「ハァ? 顔で俺を選んだとかじゃねえよな? 男前なのは認めるますけど」とあからさまに顔を顰めた。そんなこと、あるわけがないのに。くすくすとユキが笑って彼の言葉を否定する。
「顔も、好きよ」
「……そーかよ。な、眼鏡返せって。ユキの可愛い顔が見えねぇじゃん」
目を凝らして彼はこちらを見ようとする。前から気が付いてはいたが、沙明は相当目が悪いようだ。彼の眼鏡を通すと、奥の景色が歪んでみえることがあった。眼鏡がなければ日常生活もおそらくままならないだろう。素直にユキは彼に眼鏡を戻す。そして先の何気ない発言に触れた。
「沙明は……、私の顔は嫌いじゃない?」
「は?」
「だって……、こういうことしてるから」
いつもは踏み込むことを恐れて、聞けないようなことをユキは彼に尋ねた。沙明は怪訝そうな顔をして、不意と顔を逸らした後に再び動き始める。……答えたくないのか。思考が追いやられる中、ユキが彼に答えを求めることを諦めようとすると彼が囁く。
「好きでもねェ女を抱くかよ。……なァ」
「しゃー、みっ……ぁっ」
「どうにかして、一緒に居られねェもんなんかな」
律動を繰り返しながら彼が囁く。決してストレートな言葉ではなかった。たとえそうだったとしても、彼が何を求めてくれているのかは分かった。ユキが望んでやまないことを自惚れでなければ、彼も望んでくれているのではないか。ユキは彼の首に腕を回し、彼に顔が見えないようにしがみついた。
「多分……っ、無理だよ」
もし可能であるなら、もう何十と時間を繰り返す前にきっとそうしていた。
「ここにいろよ。……なァ」
切なく囁きかける沙明の言葉に頷きたくても頷けなかった。ユキの意志に反して、彼女はここに留まっていられない。またしても彼をここに置いていなくなる。終わらなければいいのに、もう全部ひとつになってしまえばいいのに。そう思いながらユキは沙明の背中に爪を立てた。