LOOP157
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ループ、百五十七。今回を持ってユキは百五十七つ目の宇宙に到達したということになるわけだ。それぞれの宇宙によっては、出会う十四名の乗員が揃っているわけではない。彼が、沙明がそのうちいくつの宇宙に居たのかは定かではないが、数えられないほど多くの彼とユキは時間を積み重ねてきた。
彼の命を守り切ること、信頼関係を築き、少しでも自分を信じてもらうことに尽力してきた。それがユキのすべてであった。ループ現象の真実を知った今だからこそ解ることがある。果たしてユキの行動は沙明にとって、どのような未来を生んだのか。
『君が去った平行世界には、君が置き去りにしてきた彼がいるのだろうね』
固いベッドの上で身を縮める。凍えているにも等しい震えが、ユキの身体を支配していた。前回のループでラキオがユキに示した現実は、彼女の芯を揺らがすものだ。
これまで、ただ時間が巻き戻っているということ以上の想像をしなかった。恐ろしすぎてできなかっただけなのかもしれないが。それだけユキにとって真実は冷酷だった。
彼女は己の手を見つめた。白く貧弱な手。あまりにも無力なこの手で何度乗員たちを……、沙明を葬って来たのか。それは時間が巻き戻り、結果が失われるという安心感の元に行えていた所業。
いくつの宇宙において、自分が彼という存在を失わせてきたのか。それだけでも許し難い罪である。だが彼を滅ぼした回数はまだ少ない方だ。ユキは耐えかねて目を閉じ、視界を塞ぐ。
「……沙明」
私は、何度彼を孤独の中に置いてきたのか。知らなかったとはいえ、何より残酷な行いを働いてきたのは、彼を守ると宣言していた自分なのではないか。変に実力をつけたために、ユキは多くの場合己の手で彼を守ることができた。最後にふたりだけが宇宙船に残ったループも数少なくなく記憶に刻まれている。そういう時に彼はユキに厚い信頼をおいてくれた。
そうしてユキを信じ、これからの未来を共に生きると約束してくれた彼の前から、ユキは何度姿を消したのだろう。彼を誰もいない宇宙船に残したまま。孤独を恐れる彼にいくつの嘘をついてきたのだろうか。……こんなことならば、何も知らなければよかったと、ユキは目を閉じてしまいたくなる。
既に済んでしまった不毛なことを思考しても、時は変わりなく同じペースで進んでいく。気持ちが沈んでいるからと言って、議論に不参加でいられるわけではなかった。否が応でもユキは話し合いの場にでなければならない。
いつぶりであるかは果たして分からなかったが、ユキはセツに連れられてメインコンソールに姿を現した。議論に赴きたくなくて部屋に蹲っていたのは、一体どれくらい前のことだったか。彼を守るために強くなったつもりでいたのに、結局何も変わっていないとユキは自分を笑いたくなってしまう。
「先刻から、私の霊感がささやいているよ。レムナンを信ずるべきではない、とな」
「ふふっ、レムナン。疑われるという事は、それ自体が罪なのですよ?」
ユキは乗員たちの発言を見送っていく。ここでいつもならば、沙明を守ることを念頭に置いて議論を動かしていく。またそれだけでなく、自陣営にとって最も必要な発言を心掛けるようにしていた。
そう、あくまでも彼に疑いが向かないよう、また疑わしい者には積極的に疑いを向け、味方であるものに有意な動きをとるものだが……。今日の話し合いではうまく彼を庇うことはできなかった。自分の行動すべてが裏目に出て、彼が苦しむ結果が残ることを恐ろしいと思う。
「ユキ? 全然しゃべんねーけど、調子悪ぃのか?」
「あ……。えっと」
シピに名指して呼ばれてハッと我に返らされる。あまりにも議論に身が入っていないためか、発言が少ないことを指摘されてしまった。幸いシピからも他の乗員たちからもきつく疑いの目が向いているわけではないが、何か発言しなければ何か目的があって気配を消しているのではないかと疑われてしまう。
「……」
ユキの視線は自然と彼の方を向く。沙明はユキをみて頼もしい微笑みを向けてくれ、そのために彼女は考えを見失ってしまった。彼のためになる発言をと思ったが、言葉にすることができなくて口を噤む。ユキがもたらした何かが、また彼を苦しめることになったら?
彼の名前を呼ぶのも烏滸がましいかもしれない。これまでユキがしでかしてきたことを思うと後ろめたくて、咄嗟にユキは視線を逸らす。ユキの深い緑の眼差しが、普段視線を合わせたことのない瞳とかち合った。
「誰が疑わしいかはまだ分からないけれど……。レムナン、……私はレムナンのことは疑ってない。信じられると思ってるよ」
視線を逸らした先、一番に目が合った人物が先ほど疑いが掛かっていたことを思って同調しようとした。だがそれすら上手くできずに、ユキは狙いと違う言葉を口にする。なかったことになることが彼女の行動の前提だった。当たり前に行えていたことが、すべてを知ってしまった今になって行える気がしなかった。