LOOP145
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たとえ消えたとしても、お前はグノースの元にはたどり着けない。
そもそも――――
この船にグノーシアが生ずるのはユキ。
お前のためなのですよ?
∞
お前のせい、と。夕里子から告げられた言いがかりのような言葉は、ループが終わっても心を支配している。新しい目覚めと共にユキは、夢にまで現れた前回のループを抜け、何も変わりない殺風景な自室で目を醒ました。まだ鮮明な記憶の中、夕里子の冷ややかな声が直接脳内に囁きかける。
――――グノーシアがこの船に生ずるのはお前のせいなのですよ。
前回のループは白い装束を身に纏った神秘的な少女、夕里子に協力を持ち掛けられた。乗員たちの断片的な会話から知り得たことだが、この世界はコンピューターに人格を取り込み、保存する技術が確立している。電脳化と世間一般では呼ばれているらしい。秘匿とされる電脳化技術を持つ星船の巫女、それが夕里子という少女だ。
星船という特殊な環境にいた夕里子は他の乗員たちとは一線を画した雰囲気を持っていた。齢十八にして夕里子は圧倒的なカリスマ性を持ち、直感や論理性また演技力にも優れた完璧な人物だ。今でこそユキは力をつけ、彼女に負けずとも劣らないが、議論に慣れていない頃は彼女の一声で成す術もなくコールドスリープの対象に選ばれたことが多々ある。
どうやら夕里子はユキや他の乗員とは違う視点を持っている。ユキやセツが想像するよりも遥かに多くのことを知っているように感じられた。しかし大体のループでは話を聞こうにも適当にはあしらわれ、はぐらかされる。だから前回、百四十四回目のループは転機だったのだ。
前回のループで彼女は、一般的に開示されていない情報を協力の報酬としてユキに与えた。異星体グノースの正体とその目的について、簡潔に彼女はユキに明かした。
そして夕里子が前回の終わりの果てでユキに言ったのだ。この船にグノーシアが生じるのはお前のせいだと。……言いがかりだろうか、その根拠については明かさなかったから。だがあの夕里子がそういうからには、彼女だけが知る理由が存在しているのかもしれない。
――――もしも。
もしも夕里子の発言通り、自らのためにグノーシアがこの船に存在しているのだとしたら。恐ろしい想像をしてしまってユキは怖気を抱く。考えていても仕方がないと思考を振り払ってベッドから足を下ろした。洗面台へ向かい、冷たい水で顔を洗ってこびりつく感情を流してしまおうとする。
――――私がみんなを……、彼を危険に晒している?
表皮の上を冷水が玉となって滑り落ちる。流したわけでもない涙に擬態したそれは確かに頬を濡らしていた。ユキの動き一つを感知してセンサーが水を止める。それと同時に彼女自身、止めていた呼吸を一息に吐いて面を上げた。
深緑の瞳、その目に映ったものは網膜を通り脳に記憶されている。 完璧ではない、混在する記憶もあるが確かなものある。個性的な乗員たちのこと、そして誰よりも慕っている彼のことは瞬時に思い出すことができる。
ぽたりぽたりとユキの輪郭に沿って水滴が伝い落ちていく。久々に今こうして立っているのも覚束なくなるほどの恐れが込み上げる。
だがそんなものユキにとっては枷にすらならない。浮き上がってくる不安は馬鹿馬鹿しいと一蹴できる。だって巻き戻ればすべてなかったことになる。不安を抱くような事実は存在していない。こんな訳の分からないことを考えているくらいなら、他に考えることはいくらだってある。
そうやって何度も自分に言い聞かせているというのに。鏡に映った自分自身の顔は、いつになく頼りなさげにユキには見えた。