LOOP107
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守るだなんてどの口が言っているのだろう。自身を情けなく思う気持ちでボタンを押し、ユキはコールドスリープ用のポッドのハッチを開けた。これまでに積み重ねた経験がある、話し合いではユキが沙明を確かに守ることはできたかもしれない。あくまでも話し合いに参加していればの話ではあるが。
あれからユキは、ただ沙明の心の安寧について考え、彼に寄り添い同じ時を過ごした。会議の時間が押しているから沙明を呼びに来たのだということも忘れて。気が付いた時にはとうに約束の三十分は過ぎ去り、何なら今は空間転移の時もそこまで迫る。
しかも誰もユキと沙明を呼びには来なかった。これにはユキがメインコンソールを抜けるときにSQが持ち出した話題も相まっていたようだ。ふたりが勝手によろしくやるつもりなら、仲良くコールドスリープしてもらおうという結果に落ち着いてしまったらしい。
「なァ、ユキ。こっちに来いよ。ひとりでおネンネは寂しいんじゃね?」
バン、とお構いなしに沙明がハッチを叩く。コールドスリープの確定が、彼の気分を害していないことが唯一の幸いか。ユキと同じくコールドスリープの準備を進める沙明が、手招きをしながら彼女に向かってニヤリと笑った。
「沙明様、それはできません。グノーシア対策規定により決まっておりますので」
そしてぴしゃりとLeViに叱責されて、ケチくせェな……と悪態をついている。先ほどのぎこちなさは一切見せず、沙明はすっかりいつもの調子だ。それを見ているとユキも自然と口元が緩む。
ユキとしては今回のループに後悔ない。彼を生き残らせることができていれば、なお満足いく結果ではあった。しかしこの一度のループで、彼の心にとって少なからず働きかけられたなら無駄ではなかったと。ユキはそう考える。
ただ一度に二人もグノーシアがコールドスリープしてしまうので、一人残してしまったシピには申し訳ない気分ではあるけれども。
刻々と今回の別れが近づいてくる。名残惜しいが、そろそろ眠らなければならない。どうせまた始まりへ戻って彼に会えるのだから寂しく思うこともない。そう思ってユキがポッドの中に入ろうとすると彼の声が呼ぶ。
「ユキ」
名を呼ばれユキはゆっくりと面を上げる。ユキの深緑の眼に彼が映った。少し照れくさそうな顔をした沙明がじっとユキのことを見つめている。視線が絡まり合って数秒、彼は何を思ったのか。それともユキの目の錯覚か。泣きそうに微笑んで口を開いた。
「サンキュ、ユキ。……目が覚めたらまたお前に会いたいわ」
彼の言葉に彼女は大きく目を見開く。これからふたりが向かうのは冷たい眠り。もう二度と目覚めることのない死にも等しい眠りの中だ。第三者の介入がなければまた会うことは叶わない。
……それでも。己の末路を知りつつも再びを願ってくれる彼の心はきっと、最後までユキを一人にはしない。ユキは彼の言葉を噛み締めて目を細める。柔らかで慈愛に満ちた微笑みを彼に向け、相応の返答を口にした。またすぐにでも彼には会えるのだ。
「……私も。目が覚めたら、沙明に会いに行くね」
たとえそれが、この世界の続きでなかったとしても。