LOOP107
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事もなげに装って、無理にハイテンションな言動をする。私がきっと貴方の信頼には足りないからそのような対応をされるのだろう。それでも私は、本音を誤魔化そうとする貴方の姿を何度見たことか。どれだけの笑顔を胸に収めたか。今更貴方の嘘を見抜けないなんてあるわけがない。
感情を堪えきれなくなったのは沙明ではなかった。茶化そうとする沙明の言葉を避けてユキは手を伸ばす。
考えるよりも先に。言葉を掛けるよりも、何よりも先に。ユキから逃れた手を取って彼を引き寄せる。彼の首に巻き付けたもう一方の腕で、ぎゅっと沙明を胸に抱きしめた。
「なッ……ユキ⁉ ちょっ、やわらけーのが当たってんですけど⁉」
腕の中で沙明がいっそう動揺していると分かる。こんなふうに取り乱しても普段のペースを崩さないのはさすがだと思った。ユキは慌てふためく沙明を覗き込んで目を細める。
沙明とグノーシアとして生きたループで、彼の演技に任せていてユキが困ったことはないのだ。自分を偽る術を持っている。彼は誰よりも軽々しいのに、心を易々とは明かしてくれない。そのくせ、人一倍大きな恐れを抱いている。
「大丈夫だよ」
他にユキが掛ける言葉はなかった。腕を緩めることなく、ユキはただひたすら彼の心の安らぎを祈る。ふわふわとした黒髪を撫でると、彼が腕の中で息を呑んだのが分かった。ユキを拒んでいた手から言葉なく力が抜けていく。
「……大丈夫」
根拠はない、何が大丈夫と保証できるだろう。沙明が何を恐れ、魘されていたかもユキは知らない。それでも過去の、彼の言葉から推測を導く。彼が恐れるもの、答えの分からないそれはユキが最も恐れたものと同じではと今でもそう思っている。
「沙明」
だから彼を抱きしめるのだ。温められたミルクのような甘さで、人並みの温かさで。何も言わずそうっとユキの腰に沙明の腕が回ってくる。
伝わるのは同じ温もり。グノーシアとして人間を消すための存在であるくせに、同胞の痛みを分かとうとする。人を真似て温もりを与えようというのも、得ようとするのも酷くおかしい気がした。
「アー……、ハァ……。ユキ」
沙明の声が聞こえる。彼女の名を呼ぶ声は何かを押し殺した声だった。その声に応えるべく、ユキは彼を抱きしめる。沙明が恐れるものを退けられるよう、自らが傍にいることを示すために。
「お前、さ……。人間じゃねェくせに温けェな……」
彼の言葉にユキは僅かに口元を緩める。今回に限ったことではない。彼も、ユキ自身もなんて身勝手で酷い奴らなのだろう。自分の心のままに行動を起こすのだから。
しかしそれが誤魔化しようもないくらい人間らしいのだと思う。繰り返しているユキは別にしてもだ。沙明は異星体グノースに汚染されても誰より人間らしい。
だからこそユキは、沙明を守りたいのだと思う。悪夢の中に手を伸ばすことはできないけれど。それでも目覚めた貴方の傍に、私がいてくれることを許してくれるなら。
――――守るよ、あらゆるものから。
留まることを知らない時の中で、二つの体温は性も何も関係なく。ただお互いの温もりだけを感じ身を寄せ合う。流れる時を気にも留めずに。