第二章 怪談調査

「いよいよ俺たちの番だね。と言っても、俺たちの出る幕はなさそうだけど……。はあ、俺の華麗な活躍――」
「ハナヲの事は放っておけ。それより、無理すんじゃねぇぞ」


ザクロさんの手が優しく頭を撫でてくれます。
「はい」と頷いて答えれば、青い瞳が満足気に細められました。

ハナちゃんの居場所を探すため、香り袋に籠めた妖力を辿っていきます。
そのためには七霧学園に満ちる先輩方の妖力の中から自分の非力なそれを探さなければなりません。


「ごめん、力を借りるね」


私の言葉に反応してか、藤が瑞々しい葉を揺らします。

近くで揺れていた枝葉に手を添えると簡単に手折れました。
自慢ではないのですが、蔓のような藤の枝はそう簡単に手折れるものではありません。

この子なり彼女を心配しているのだと伝わってきます。


「絶対に見つけましょう」


そう話しかければ、藤は大きく葉を揺らしました。

中庭の藤棚の下で意識を集中させます。
探しているのはハナちゃんに渡した香り袋の妖力。

自分の僅かな妖力を辿ることが難しいのは百も承知。
だから悪足掻きにも似た思いで藤の木にも協力してもらっているのだから。

藤の枝葉を握る手に力が入ります。

どうか今だけは彼女の居場所を教えてほしいと乞い願う。


――どうか、どうか……!


「!?」 


八百万の大神たちが願いを聞き届けくれたのか、ふわりと一陣の風が藤棚を通り抜けた時でした。
微かな花の香りが横切っていきます。


「! 見つけました……!」
「さすが#フジヒメ#ちゃん! よくできたね!」
「ったく、ヒヤヒヤさせんじゃねぇ。さっきの風で怪我とかしてねぇか?」
「風? えーと……特には?」
「そうだ、#フジヒメ#ちゃん。妖力の跡、辿れそう?」
「はい……! 何とかですけど、こちらです!」


気合いを入れて咲かせた己が依り代の花の香り。
香りが纏った妖力の気配。

間違いない。
この気配の先に彼女がいるはず。

そう思っていたのに……。


「あれ?」
「#フジヒメ#ちゃん……? ――! 狐くん、あの子……!」
「あぁ。誰のでもねぇな」


辿っていた妖力は間違いなく私自身のものだったはずなのに、着いた先には一切の気配がありません。


「おい! そこの一年!」


ザクロさんの声にビクリと肩を震わせて振り向いたのは、ヒフミさんたちとの調査の時に出会ったあの少女でした。


「貴女は――」


私たちを見て、目を丸くした少女が慌てて背を向けます。

私は咄嗟に――。

――パチン――

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