第二章 怪談調査

ハナヲの図書室から見上げた空は今日もどんよりと厚い雲で覆われていた。


「無理に泣き止もうとは思わなくていい。気が済むまで泣きなよ」


ウタシロの手の上で、すがり付くように涙を流す淡い紫。


「にゃー……。ボク、#フジヒメ#のあんな声、初めて聞いたよ……」


まだ授業中だというのに突如として響いた#フジヒメ#の声。
旧校舎にも届いたその声は震えていて、聞いたことの無い程に悲痛さを帯びていた。


――先輩、助けてください……!


その声に慌てて駆けつけてみれば、昇降口に木霊する静かな泣き声が胸を締め付けた。

きっと他の妖怪たちもそうだ。
ウタシロを囲いながらその手に収まっている後輩を心配そうに覗いている。


「はい。お兄さん特製のカモミールティーだよ」
「……美味しいです」
「良かった。おかわりもあるからね」


ハナヲに頭を撫でられる#フジヒメ#の目はまだ少し赤い。


「ハナちゃんが居なくなってしまいました」
「居なくなった……?」
「ハナちゃんって昨日の女子生徒だろ?」
「例の怪談に拐われたのか?」
「それが分からないんです。クラスの子に頼んで連絡してもらったのですが出なくて……」
「事情を聞いたわたしも連絡を試みたのですが……」
「ダメだったんだね」
「ハナヲ、これは……」
「うん。メリィくんのスマホでも繋がらないなら、怪談の仕業と考えていいだろうね」


よりによって#フジヒメ#が気に入っている人間が拐われた。
タイミングとしてオレたちや#フジヒメ#と別れた後だろう。

なまじ昨日顔を会わせたばかりにやるせなさがオレたちを襲う。

空気が重たく感じられた。

それがどのくらい経った頃だろうか。
重たく感じる空気を割いて、甘くも爽やかな花の香りが鼻を擽った。
そして絡まった糸が解けていくように頭が軽くなっていく。


「……#フジヒメ#?」
「ごめんなさい。皆さんが一緒にハナちゃんのことを考えてくれているのが嬉しくて」


「不謹慎ですね」と言うも香りはいっそう強まる。

あぁ、めちゃくちゃ可愛い。

思わず抱きしめた後輩はオレよりも小さくて妖力もか弱い。
そんな小さな存在にオレをはじめ学園の妖怪たちが癒されているのだから、オレたちの後輩はスゴい。

頭を撫でると#フジヒメ#の顔がりんごあめのように真っ赤になった。


「この香りは本当に気持ちを落ち着かせてくれるねぇ」
「おれ、この香りで#フジヒメ#がどこにいるかとかすぐにわかんだぜ! ……ん?」
「え?」


トネリの言葉であることに気付いたオレたちの声が重なる。


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