第二章 怪談調査

外は相変わらず重そうな雲が空を覆っていた。

調査二日目。
昨日はアラハギたちが、怪談の噂はとある一年生の失踪から始まったのだと突き止めた。
今日はその続きで、失踪した一年生が誰なのかを調べていく。


「と言っても、メリィくんと私のクラスは全員の安否が確認できましたし……」
「あと二つの教室の内、一つはもぬけの殻だったし……」
「残りはここだけど――」


――あんたのせいで……!


「っ!」
「大丈夫か? 中のヤツ、結構気が立ってんな。トネリ、どうする?」
「#フジヒメ#とヒフミは後ろにいろよ。こーいうのは、おれ、慣れてっからさ!」


ビビる#フジヒメ#を背に、戸の前に立つ。

閉ざされた戸越しにも聞こえる怒気を帯びた大きな声。
良くも悪くも声が大きいのは、それだけ感情や想いが強いってことだ。
とくに怒気や恨み辛みなどの負の感情は想いが込められやすい。
昔からそうだ。

他人を呪う負の感情から生まれたおれには馴染みがある。

震えながらおれの名前を呼ぶ#フジヒメ#の声がした。


「ん?」
「……いいえ! これは私が学ぶための調査です! 私が行きます!」
「へ?」


凛と響く声に、おれの間の抜けた声が続く。


「あ、待てっ!」
「ちょっとお話し中失礼いたします!」


おれを押し退けて、ヒフミの制止も聞かず、#フジヒメ#はガラッと勢いよく教室の戸を開ける。

――パシーン!――

同時に、何かを叩く乾いた音が響いた。

見れば、女子生徒が相手の女子生徒の頬を叩いたの
だろう。
叩かれた生徒の顔は見えないが、叩いた生徒のその顔は烈火の如き怒りで歪んでいる。

場はまさに修羅場。
さてどうしたものかと悩む間もなく#フジヒメ#が動いた。


「大丈夫ですか?」


凛としながらも優しい声音で叩かれた女子生徒へ呼び掛ける。


「頬が赤いです。冷やさないと。保健室に行きましょう」
「……一人で行ける」
「本当に?」


女子生徒は#フジヒメ#の言葉に頷くと教室を出て行った。


「さて、お聞きしたいことがあるのですが……」


――パチン――

#フジヒメ#の妖術によって、教室が花の香りに包まれる。


「まずは気持ちを落ち着けないといけませんね」


有無を言わせない笑みを見せる後輩に、仲間を思い出したおれとヒフミは互いに顔を見ると、頬を緩めた。


「皆に話そーぜ」
「だな」


きっと何人かは、自分も見たかったと羨ましがるだろう。
頼もしい小さな背に事を任せ、見守る。


「トネリさん、ヒフミさん。最初に居なくなった生徒さんがわかりましたよ!」
「マジで!」
「よくやったな!」
「えへへ」


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