第一章 七不思議の後輩ちゃん

「雨の日に生徒を連れ去る怪談……」
「なあ、それって……」
「御守りの香り袋ってことだね」
「へ……? 何言っ――」
「バカ犬は黙ってて!」


「香り袋って御守りなんですか……? てっきり、サシェやポプリの事なのかと……」
「させ……? ぷりん……?」
「香り袋は魔除け、厄除けの御守りとして使われていたんだ」
「御守りとして広まったのは随分と昔だけどね。今も御守りとして持つこともあるようだけど、ほとんどはメリィくんが知ってるサシェやポプリと同じように、香りを楽しむためのアイテムの一つとして使われてるんじゃないかな。トイレの芳香剤と一緒だね」
「芳香剤と一緒にすんじゃねぇ!」


「好きな匂いを嗅ぐとテンション上がる時あるよな!」
「わかるぜ! オレもスイーツの甘い匂いがするとテンション上がる!」
「落ち着く時もあるよね。#フジヒメ#の藤の匂いはまさにそう! 藤棚の下で眠ると気持ちが良いんだ!」
「言われてみればそうだな。僕も藤棚の下は落ち着くよ。藤の爽やかな香りで頭がスッキリして体が軽く感じるんだ」


「この香り袋も中庭の藤棚と同じ匂いがするな」
「確かに。#フジヒメ#が作った香り袋だから、藤棚の匂いがするんだね!」
「しかも、妖力を宿したのか……。正真正銘の御守りって訳だな」
「きっと、ハナちゃんも喜ぶだろうね」
「そうですね……! きっと喜ばれます……!」
「何、驚いた顔してんだよ、#フジヒメ#?」
「ふっふっふっ! 先輩は後輩の事なんて何でもお見通しだよ!」
「それでなくても、最近、君の口からはその人間の名前ばかりが出るからね……」
「ウタシロ、焼きもち焼いてんのか?」
「! う、うるさい! 僕は心配してるだけだ! #フジヒメ#を信じてない訳じゃないけど、……人間は変わりやすいからね」


「どんな理由であれ、後輩を心配するのも先輩の役目だ。大切な後輩が悲しむ事は絶対にさせないよ」
「キミを不安にさせた事を反省させなきゃ!」
「あと、必要以上に人間を怖がらせないって事も教えねぇと!」
「この怪談のせいで部活もやってらんねーからな!」
「ったく、人様に迷惑をかけるヤツなんざ、灸を据えてやる」
「お狐さまもこう言ってるし、オレも力を貸すからね」
「……#フジヒメ#さん? 顔色がよろしくないような……――ハッ! もしかして、恐かったですか……?」
「君は優しいね。……安心しなよ。先輩として、ちょっと注意するだけだから」

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