第一章 七不思議の後輩ちゃん

午後から振りだした雨は夜には上がったものの、道をずいぶんと濡らしたために真夜中の七霧学園へ人間たちを寄せ付けなかった。

何もすることのない夜は、ハナヲさんが妖術でつくった図書室に集まることが多い。
今夜もそうだ。


「ひまだー……」
「ちょっと、うるさいんだけど」


ボクはこの雨のせいで乱れた毛並みを整えるのにとても忙しい。
なのに隣で「ひまだ」とは、ずいぶんと腹が立つ。


「だってさー、人間は来ねーし、あいつも遊ばねーし……」


そう言ってトネリが視線を送る先には真剣な表情で作業する後輩の姿があった。

つまみ細工にはまっているというクラスメイトの影響を受けてか最近針仕事に彼女は夢中のようだ。


「っ!?」
「#フジヒメ#さん、大丈夫ですか……!? 血は――出てませんね。深くは刺してなくて良かったです……」
「びっくりしました……。メリィくん、ありがとうございます」


今の姿に変化できるようになって日の浅い#フジヒメ#はまだ慣れないことが多い。
とくに指先を使うのは難しいみたいだ。
村の子どもや大人をちゃんと見てきたのに……、と膨れっ面を見せた彼女は可愛かったなぁ。


「できたー!」


#フジヒメ#の嬉しそうな声が聞こえ、七不思議たちがぞろぞろと集まっていく。


「完成したのか?」
「はい! あとはこの袋に、このお香と乾燥させた藤の花を入れれば……完成です!」


じゃーん!
自前の効果音を言いながら出来上がったのは香り袋。
匂い袋とも呼ばれ、昔から人間たちに親しまれてきたものだ。

#フジヒメ#のそれは、縫い目がずれて少し不格好ながらも初めてにしてはよくできていて、彼女は満開した笑みを浮かべた。
しかし、次の瞬間にはその表情を変えて、萎む花のような悲しみが彼女から滲みでる。


「皆さんは知っていますか? 最近、噂になっている怪談を」


急にそう言い出した#フジヒメ#にボクたちは目を丸くした。
どうやら、この香り袋と関係があるようだ。


「怪談『雨に誘う朱い傘』。その名の通り、雨の日に出る怪談だそうです。もうずっと雨が続いていますよね? だからなのか、最近よく耳にするんです」


ボクたちは互いに顔を見合せた。
彼女の言う噂には、ボクも含めて皆、覚えがあったからだ。


「#フジヒメ#ちゃん、何があったのか話してくれるかい?」


ハナヲさんが#フジヒメ#の背に手を添えて話すことを促すと、彼女はポツリ……ポツリ……とその怪談について話し出した。

窓の外ではまた雨が降りだしたようだ。

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