第四章 怪談『雨に誘う朱い傘』看破

ねぇねぇ、こんな噂、知っていますか?
七霧学園を脅かす怪談『雨に誘う朱い傘』のお話を――

雨降りの放課後、生徒たちが朱い傘に誘われて姿を消していく。
そんな噂が流行っていた頃は、何人もの生徒たちが学園に姿を見せませんでした。

しかし、久しぶりに顔を見せた生徒が理由を教えてくれたんです。
この長雨に体調を崩していただけだ、と。

休んでいた生徒たちが再び登校し、雨の季節が過ぎると、もう誰もこの噂を口にしなくなりました。


「はぁ……、やっと面倒なあいさつ運動が終わったか……」
「長かったような、あっという間だったような……。まぁ、終わった今ではどうでもいいけどね」
「そーいや、シグレって学園に通い始めたんだっけ?」
「あー……。確か、取り憑いている女子のクラスにいるって#フジヒメ#が言ってたな」


こうして、七霧学園を脅かした怪談『雨に誘う朱い傘』は幕を閉じたのでした。


「そうだ。狸くんが噂になっているのを皆は知ってる? “言動の荒い一年生が現れた。あの停学を受けていた三年生の後輩じゃないか”って」
「それなら、ボクも知ってる! “でも、授業はサボらないし、態度も真面目。質問してもちゃんと答えるから、先生が戸惑っている”って!」
「その三年生ってキミのことだよねぇ、ザクロ」
「いるわけねぇだろう……! 誰だっ!? そんなくだらねぇ噂を流したヤツはっ! ……ん?」


しかし、消えたわけではありません。


「てめぇ、逃げんじゃねぇっ!」
「い、嫌です! 逃げないと怒るじゃないですか!」
「あたりめぇだろ! こんな事されたら!」


一人だけでいいんです。


「先輩方、助けてください!」
「#フジヒメ#!? どうしたんだ!?」
「シグレくんが追いかけてくるんです!」
「おい! 先輩方の後ろに隠れんじゃねぇ!」
「シグレ。追いかけるなんて何が……って、何で頭に花のせてるんだ?」
「#フジヒメ#の妖術のせいっすよ!」
「だって皆がシグレくんのことを怖いって言うから、可愛くしたら怖がらないかなぁと……」
「ありがた迷惑だ! それにメリィにもしただろう! 彼奴、目立つもんだから恥ずかしがって放送室に閉じ籠ってんだぞっ!」


ただ一人、想ってくれる人がいるだけで、私たち妖怪は存在できるのですから。


「ふふっ。これは噂されても仕方ないなぁ。ねぇ、お狐さま」
「……面白がってんじゃねぇよ、蛇野郎」


怒りの声は聞こえぬ振りと空を見上げれば、澄み渡る青色に色鮮やかな七色の帯が添えられていました。


~Fin.~

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