第四章 怪談『雨に誘う朱い傘』看破

朝の七霧学園。
今日も生徒たちは学園の門を潜ります。
大あくびをかいたり、友人との会話を楽しんだり、一人のんびりしたりとその様子は様々。


「おはようございます。――ハナちゃん! おはようございますっ! 今日も体調はいかがですか?」


元気な姿で登校してきた彼女は、あの日の事を覚えていません。

あの日、シグレさんの領域にいた生徒たちはイリヤさんによって記憶を消されています。
目を覚ました生徒たちには、この長雨で体調を崩していたのだと言い、「まだ万全ではなかったから家で休んで」と見送りました。
それは、ハナちゃんも例外ではありません。
イリヤさんは最後まで「どうする?」と私を気にかけてくださいました。


「ふふ、絶好調なんですね。良かったです! では、また教室で! ――あ!」


彼女の記憶を消したことが私にとって良いのか、悪いのかはまだわかりません。
彼女の記憶が残っていたのなら、私は今以上に妖力が安定するでしょう。
今の“友人”という関係にも少し変化があったかもしれません。
でも私は、この選択に後悔はありません。


「おはようございます! そのお姿は?」
「おはよぅ……。今日からオレも通うことにした。彼奴ももう大丈夫そうだしな」


彼が目をやった先には、ハナちゃんの後を追いかけるあの女子生徒の姿がありました。
二人は青い葉の桜並木の下で肩を並べ、こちらに一度手を振ると、楽しそうに昇降口へと歩いていきます。
どうやら、二人はあの日をきっかけに仲良くなったようです。


「……」
「彼奴の一番は俺だ。ハナにやるつもりは毛頭ない」
「ハナちゃんに何かしたら許しませんよ。それより! 学園に通われるなら、クラスはお決まりですか! 使われるお名前は!!」
「!? 急に何だよ……!」
「あ、すみません! 嬉しくって、つい」
「……ったく。クラスは決まってる。一年だ。彼奴と同じクラス。名前は昔っから使っている苗字をそのまま使うつもりだ」
「同じ一年生なんですか! 嬉しいです! 終わったら、先輩方へ報告に行かなければ!」
「お前、あの人たち――ザクロさんたちとは、どういう関係なんだ?」
「七霧学園に通う先輩と後輩です」


他に一体何があるのでしょう?


「もちろんシグレくんも! 私の後輩です!」
「……いや、俺の方が先輩だぞ」
「どうしてですか!?」


――キーンコーンカーンコーン


「予鈴だ。じゃ、後で」
「シグレくん!」


青く晴れた空の下。
また賑やかな日常が始まります。

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