第四章 怪談『雨に誘う朱い傘』看破

目を開けると、真っ青に晴れ渡った空が広がっていました。
晴れているのに細かく優しい雨が降っているため、空には大きな虹がかかっています。

こんなに綺麗な空を見たのは、いつぶりでしょう。


「#フジヒメ#!」


振り返れば、こちらに駆け寄る先輩たちの姿がありました。
もちろん女子生徒さんの無事な姿も。
シグレさんはトネリさんに背負われた状態でした。


「良かった、#フジヒメ#! 無事だったんだね!」
「マジでビビったぜ! いきなりシグレは倒れるし、イリヤたちは歪んだ気配が消えたとか言うし」
「途切れていたオマエの妖力の気配がしたから辿って来たんだけど」
「この方たちは、連れ去られた生徒さんたちですね……。皆さん、眠っているだけのようです……」


下駄箱へもたれ掛かるように目を閉じているのは、怪談に連れ去られた生徒たち。
その中にはハナちゃんの姿もあり、規則正しく聞こえてくる微かな呼吸音に、詰まっていた息が吐き出されます。


「よく頑張ったね、#フジヒメ#」


頭を優しく撫でるウタシロさんの声に、抑えていたものが溢れてきます。


「うぅ、ウタシロさん……!」
「#フジヒメ#、お疲れさま」
「イリヤさん……!」


――ポンッ

「おっと……って、#フジヒメ#! 君、全然妖力が残っていないじゃないか! あの姿を保っていたのが不思議なくらいだぞ!?」
「ウタシロ、オレが妖力を分けるよ」
「頼んだよ、イリヤ」


もう限界です! くたくたです!
迫ってくる黒い霧は怖かったし、先輩たちは誰もいない……!
ハナちゃんは守らないといけないのに、力が全然足りない……!
こんな自分が嫌なのに、こんな自分しかいなくって。


「このくらいでいいかな。あんまり分け過ぎてもよくないだろうし……」


溢れ出すものを静めるように、火照った体を冷やすように、ひんやりと冷たい妖力が心地好く中を巡っていきます。


「オレは生徒たちの怪談に関する記憶を消してくるよ」
「ありがとう、イリヤ。……あぁ、もう。……本当によく頑張った。凄いじゃないか」


「僕たちの自慢の後輩だよ」と呟かれた声を最後に、私は意識を離しました。





「やーっと、最後のヤツが帰ったな……。あ、ウタシロ。#フジヒメ#の様子はどうだ?」
「今さっき泣き疲れて寝たところだよ」
「泣き疲れて? うわぁ、本当だ。綿菓子が萎んでるみてぇ……。妖術で乾かしておくか。つむじ風」

――パチン――

「寝てるから起こさないように乾かしてくれ」
「相変わらず器用だね、君は」

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