第三章 怪談『雨に誘う朱い傘』
ハナちゃんの無事を確認すると、今までどうしていたのかを聞きました。
すると彼女は他の生徒さんたちが黒い霧に呑み込まれていく中、自分には霧が襲ってこなかったと言います。
彼女が一歩動けば、霧が一歩下がるといったように……。
まるで自分を避けているように思えたと彼女は続けます。
そして、「コレのおかげかな」とふわっと笑って差し出したのは、縫い目がずれた不格好な小袋。
「これは、香り袋……」
両手で包み込んだそれを「お守りなの」と言うハナちゃんに、私は先輩方の言葉を思い出します。
「そうです……! 香り袋は魔除け、厄除けの御守り! ハナちゃん! 私、やってみたいことがあります!」
妖怪は妖力の塊。
妖力は想いが源。
大丈夫かと不安そうに見つめるハナちゃんに、今度は私が笑いかけます。
「……大丈夫、貴女の御守りは藤の力が宿ったとびっきりのものです」
それにその御守りは貴女にしか力がない。
出会って僅かにも関わらず、どんな噂が流れようとも変わらず想い続けてくれる貴女にしか。
「藤は古より魔除けの花といわれているんです。それに、この御守りに使っている藤は中庭の藤棚のものですよ。絶対に貴女を助けます!」
言い切れば、ハナちゃんの瞳から不安の色が消えていきます。
もうそれだけで、彼女がどんなにあの子を大切に思ってくれているのかが窺えますね。
「ハナちゃん、この御守りにここから出たいと強く願ってください」
ハナちゃんが静かに目を閉じます。
「そして、想像して……。黒い霧は淀み。降る雨が淀みを流していくんです。雨が上がれば、お天道様が顔を出し、この場は清らかな空気に満ちているのだと」
だんだんと妖力が湧いてきます。
「本当にいい子ですね。貴女だけは絶対に助けてみせます」
もうあの頃と同じではない。
ただ見ていることしかできない、一人ぼっちの自分ではない。
今の私には気遣ってくれる先輩がいる。
大切に想ってくれる友人がいる。
大切な友人くらい守れる力が今はある。
――パチン――
ありったけの妖力を込めて妖術を使うと、何もない空間から勢いよく藤の枝葉が伸びていきます。
伸びたところから藤の花が咲き、ほの暗い空間が淡い紫色に染まっていくのにあわせて、ハナちゃんの合わせられた手に収まった香り袋から光が漏れます。
光は次第に大きくなり、瞬く間に辺りを包み込んでいきました。
「っ!」
あまりの眩さに目を閉じれば、しとしと……と穏やかな雨音が耳に届きます。
すると彼女は他の生徒さんたちが黒い霧に呑み込まれていく中、自分には霧が襲ってこなかったと言います。
彼女が一歩動けば、霧が一歩下がるといったように……。
まるで自分を避けているように思えたと彼女は続けます。
そして、「コレのおかげかな」とふわっと笑って差し出したのは、縫い目がずれた不格好な小袋。
「これは、香り袋……」
両手で包み込んだそれを「お守りなの」と言うハナちゃんに、私は先輩方の言葉を思い出します。
「そうです……! 香り袋は魔除け、厄除けの御守り! ハナちゃん! 私、やってみたいことがあります!」
妖怪は妖力の塊。
妖力は想いが源。
大丈夫かと不安そうに見つめるハナちゃんに、今度は私が笑いかけます。
「……大丈夫、貴女の御守りは藤の力が宿ったとびっきりのものです」
それにその御守りは貴女にしか力がない。
出会って僅かにも関わらず、どんな噂が流れようとも変わらず想い続けてくれる貴女にしか。
「藤は古より魔除けの花といわれているんです。それに、この御守りに使っている藤は中庭の藤棚のものですよ。絶対に貴女を助けます!」
言い切れば、ハナちゃんの瞳から不安の色が消えていきます。
もうそれだけで、彼女がどんなにあの子を大切に思ってくれているのかが窺えますね。
「ハナちゃん、この御守りにここから出たいと強く願ってください」
ハナちゃんが静かに目を閉じます。
「そして、想像して……。黒い霧は淀み。降る雨が淀みを流していくんです。雨が上がれば、お天道様が顔を出し、この場は清らかな空気に満ちているのだと」
だんだんと妖力が湧いてきます。
「本当にいい子ですね。貴女だけは絶対に助けてみせます」
もうあの頃と同じではない。
ただ見ていることしかできない、一人ぼっちの自分ではない。
今の私には気遣ってくれる先輩がいる。
大切に想ってくれる友人がいる。
大切な友人くらい守れる力が今はある。
――パチン――
ありったけの妖力を込めて妖術を使うと、何もない空間から勢いよく藤の枝葉が伸びていきます。
伸びたところから藤の花が咲き、ほの暗い空間が淡い紫色に染まっていくのにあわせて、ハナちゃんの合わせられた手に収まった香り袋から光が漏れます。
光は次第に大きくなり、瞬く間に辺りを包み込んでいきました。
「っ!」
あまりの眩さに目を閉じれば、しとしと……と穏やかな雨音が耳に届きます。