第三章 怪談『雨に誘う朱い傘』
「あっぶねー……!」
トネリさんの目の前をシグレさんの蹴りが掠めていきます。
――パチン――
「トネリ、大丈夫か!」
「助かったぜ、ヒフミ!」
昇降口から体育館へと場所を移したわたしたちは、遮蔽物も無くなり幾分か戦い易くはなったものの、体術も使いこなすシグレさんに苦戦を強いられていました。
――パチン――
「金縛りはどうだい?」
イリヤさんの妖術がシグレさんの動きを止めます。
しかし彼は今、学園で最も噂される怪談。
「っ! なかなか力が強いね……。どれだけの人間の想いを受けているのやら。想像したくないな……」
「イリヤさん、コレで閉じ込められるかな……!?」
「アラハギ?」
――パチン――
アラハギさんが妖術で浮かせていたのは、片付け忘れられていたボールカゴでした。
キャスター付きでスチール製のカゴ。
中にはバスケットボールがたくさん入っています。
どうやらアラハギさんはボールカゴを逆さまにしてシグレさんを閉じ込めようと考えているようです。
ついでにカゴをトネリさんの鎖で縛り付ければより強固になるだろうと。
それは、さすがに無慈悲なのではないでしょうか?
バスケットボールって結構大きいですし、重さもありそうです。
それが幾つも自分の上に落ちてくる。
なんて想像するとわたしなら泣きそうです……。
ハナヲさんたちも同じ事を考えたのか、慌てた様子でアラハギさんを止めにはいります。
「猫くん、さすがに止め――」
「そーれっ!」
しかし制止の声も空しく、カゴはバスケットボールを降らせながらシグレさんの上に落ちていきます。
わたしは思わず目を閉じました。
――パチン――
無数のバスケットボールが床に跳ねて、大きな音を立てます。
――ガシャーンッ!
金物の音が一際大きく響きました。
しばらくして音の余韻が消えた頃、目を開けると床一面にバスケットボールが転がっていました。
「片付けるの大変そうですね……」
隣で足下に転がってきたボールを取り上げた#フジヒメ#さんが呟きます。
確かに。
「そうですね――」
「#フジヒメ#! それを離せっ!」
ザクロさんの焦りを帯びた声が届くのと同時に、#フジヒメ#さんの持っていたボールの輪郭が歪んでいきます。
「あっ、#フジヒメ#さん……!」
ボールはシグレさんの姿へと変わり、伸ばされた彼の手が#フジヒメ#さんの腕を掴むと――
――なぁ、傘に入るか?
静かに問う声は#フジヒメ#さんの答えを聞かないまま、彼女を連れ去ってしまいました。
トネリさんの目の前をシグレさんの蹴りが掠めていきます。
――パチン――
「トネリ、大丈夫か!」
「助かったぜ、ヒフミ!」
昇降口から体育館へと場所を移したわたしたちは、遮蔽物も無くなり幾分か戦い易くはなったものの、体術も使いこなすシグレさんに苦戦を強いられていました。
――パチン――
「金縛りはどうだい?」
イリヤさんの妖術がシグレさんの動きを止めます。
しかし彼は今、学園で最も噂される怪談。
「っ! なかなか力が強いね……。どれだけの人間の想いを受けているのやら。想像したくないな……」
「イリヤさん、コレで閉じ込められるかな……!?」
「アラハギ?」
――パチン――
アラハギさんが妖術で浮かせていたのは、片付け忘れられていたボールカゴでした。
キャスター付きでスチール製のカゴ。
中にはバスケットボールがたくさん入っています。
どうやらアラハギさんはボールカゴを逆さまにしてシグレさんを閉じ込めようと考えているようです。
ついでにカゴをトネリさんの鎖で縛り付ければより強固になるだろうと。
それは、さすがに無慈悲なのではないでしょうか?
バスケットボールって結構大きいですし、重さもありそうです。
それが幾つも自分の上に落ちてくる。
なんて想像するとわたしなら泣きそうです……。
ハナヲさんたちも同じ事を考えたのか、慌てた様子でアラハギさんを止めにはいります。
「猫くん、さすがに止め――」
「そーれっ!」
しかし制止の声も空しく、カゴはバスケットボールを降らせながらシグレさんの上に落ちていきます。
わたしは思わず目を閉じました。
――パチン――
無数のバスケットボールが床に跳ねて、大きな音を立てます。
――ガシャーンッ!
金物の音が一際大きく響きました。
しばらくして音の余韻が消えた頃、目を開けると床一面にバスケットボールが転がっていました。
「片付けるの大変そうですね……」
隣で足下に転がってきたボールを取り上げた#フジヒメ#さんが呟きます。
確かに。
「そうですね――」
「#フジヒメ#! それを離せっ!」
ザクロさんの焦りを帯びた声が届くのと同時に、#フジヒメ#さんの持っていたボールの輪郭が歪んでいきます。
「あっ、#フジヒメ#さん……!」
ボールはシグレさんの姿へと変わり、伸ばされた彼の手が#フジヒメ#さんの腕を掴むと――
――なぁ、傘に入るか?
静かに問う声は#フジヒメ#さんの答えを聞かないまま、彼女を連れ去ってしまいました。