第一章 七不思議の後輩ちゃん

「こんの蛇野郎、余計な世話すんじゃねぇ! オマエだってそんなに変わらねぇだろ!」


ザクロの荒げた声に周りが静まり返る。

誰も彼もが彼を見つめて、声を荒げた原因を探した。
その行動がさらに素直じゃない彼を追い詰めていることに、人間たちは気づいていない。


「ザクロさーん!」


そんな凍りついた空気を溶かすように発せられたのは明るく優しく響き渡るあの子の声だ。


「あ、おはようございます! イリヤさん、ヒフミさん!」


僕たちの後輩である#フジヒメ#。
彼女は場の空気を物ともせず、渦中であるザクロの手を掴むと、動けずにいる彼を引っ張った。


「ザクロさん、こっちに来てください! 木の上にトネ……子犬がいて、降りられなくなっているんです!」


よく通る声は、「どうして子犬が木の上に?」という疑問を全員に与える。

しかし、「助けてください」と大切な後輩から頼まれれば拒むことはできず、困惑の色見せながらもザクロは小さな手に簡単に引っ張られていった。


「おっはよう、皆!」


ザクロを見送った後に響いたのは場の空気を壊す声だ。


「ハナヲ!」
「ハナヲさん!」
「君まで来たのか……」
「何々、俺が来たらダメだったの? 鴉くんと蛇くんはいいのに?」


茶目っ気たっぷりに首を傾げた彼を見て、助かったのか助けてほしいのか……。
痛んでくる頭を僕は押さえた。


「あれ? 狐くんは? ちょっと頼みごとがあったんだけど……」
「頼みごと? ザクロなら、#フジヒメ#に引っ張られていったぜ。なんか、子犬が木の上から降りれなくなったとかで」


ヒフミが話すとハナヲは「あー……さすが#フジヒメ#ちゃん!」と手を叩く。

その様子がどこか怪しい。


「まさか、君の頼みごとも子犬関係なのか?」
「あはは……実は小さくなって狗くんと遊んでたんだけど、木の上に引っ掛けちゃって……」
「え!? じゃあ、#フジヒメ#の言ってた子犬って……」
「あ、一応俺も助けようとしたんだよ! だけど、生徒会の子たちが集まっちゃって……!」
「ハナヲさん……」
「彼が君を苦手とする理由がわかるよ…」


そうして言い合っているうちにさっきまでの空気は消えて、人集りは散り散りになっていた。


「ハナヲ! あんな所に置いていくなよなっ! ザクロが助けてくれなかったら朝練に出られなくなるところだぜ!」


人間の姿で戻ってきたトネリがハナヲにご立腹だったのは火を見るよりも明らかで、二、三言文句を言うとグラウンドの方へと走り去っていった。

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