第二章 怪談調査

昇降口に現れたのは、クラスメイトのハナちゃんでした。
彼女は私の依り代である中庭の藤を気に入ってくれている人間の女の子です。


「ハナちゃん?」


そわそわと落ち着かない様子のハナちゃん。
チラチラと彼女が動かす視線を辿れば、納得いきました。


「先輩方」
「ん? どうかした?」
「先輩方がいらっしゃると、ハナちゃんが緊張してしまうそうです」
「ふっ、俺のオーラが眩しいみたいだな。仕方ない。ここは大人しく退場――」
「はいはい、ハナヲさん。いいから行きましょう!」
「バカ猫が猫被って――るっ!?」
「空気を読んでんの! このバカ犬……! ほら、さっさと行くよ!」


「また後でね」とアラハギさんに押されながら階段の上へと消えていく先輩たちに手を振って見送ります。

「お騒がせして、ごめんなさい」と言えば、ハナちゃんは、学園一の不良と呼ばれる先輩と一緒にいて大丈夫なのかと声を震わせました。

ハナヲさん……。
ハナちゃんが緊張したのは、ザクロさんの方みたいです……。


「ザクロさんは確かに言動は荒いですが、優しい先輩ですよ」


私の答えに彼女は目を丸くしましたが、すぐに理解をして口元を綻ばせます。

過ぎたこととは言え、停学を言われたり、食堂の券売機を蹴ったりしてたら怖いと思われても仕方ないのですよね……。


「ハナちゃん、これから帰られるんですか? 外は雨が随分と降っていますよ。それに傘は……――」


ふと校門の方を見ると、傘を指した方がこちらに向かって手を振っていました。


「誰でしょう?」


この雨のせいでお顔がよく見えません。

すると、ハナちゃんが親かもしれないと手を振り返します。

聞けば、数分前に「迎えに行く」との連絡があったようです。

お迎えなら良かった。
怪談のことで少し敏感になっているのかもしれません。


「そうです。渡しそびれてしまってたんですが、これをどうぞ。中庭の藤の花を入れて作った香り袋です」


少し歪な形になってしまったそれをハナちゃんは笑顔で受け取ってくれました。

「また明日ね」と手を振って昇降口を飛び出した彼女の背が遠くなっていきます。


「ふふ、仲がよろしいですね」


一つの傘に二つ並んだ背中を見送り、私は先輩たちの待つ図書室へと向かいました。


「おかえり、#フジヒメ#ちゃん」
「香り袋は渡せたかい?」
「はい!」


この時、私は気づくべきだったんです。
後から来た彼女の本当の親御さんに。
校門にいた方の傘の色が赤色だったことに。


6/13ページ
スキ