第二章 怪談調査
七霧学園の正門を潜り、昇降口へ息も絶え絶えに飛び込んだ。
「メ、メリィ、大丈夫か?」
「な、何とか……」
降ってくると思っていたとは言え、まさかこんな急に強くなるとは思いもしなかった。
しかもこの雨、妙な気配を感じる。
この気配は何だろうかと外を見るが、細かい雨によって白む景色のように、その正体は掴めない。
「ウタシロ! メリィ!」
「!」
「良かった! 戻ってきてて!」
「……ったく、戻ってくるならさっさと戻ってこい」
「おかえり。このお狐さまったら、心配で心配で気が気じゃなかったんだよ。全くツンデレだよねぇ」
「こんの蛇野郎! 余計な事を言うんじゃねぇ!」
ああ、戻ってきたのか。
昇降口正面の階段から現れたお人好しな妖怪たちに、張っていた肩の力が抜ける。
「ん? #フジヒメ#は一緒じゃねーのか?」
「そういえば彼女の姿がないね」
「ああ、ここにいるよ」
僕は羽織っていたカーディガンのポケットから丸まった#フジヒメ#を取り出した。
帰る途中で姿が保てなくなった彼女。
妖力がまだまだ弱いことを忘れて、無理をさせてしまったのは僕の不注意だ。
「随分と妖力を消耗しているね。オレの妖力を分けてあげようか。これでもオレは水を司る蛇だから、樹木に宿る#フジヒメ#とは相性がいいと思うんだ」
イリヤが#フジヒメ#の小さなからだに手を乗せ、妖力を優しく流し込んでいく。
「変化できるかい?」と彼の声に答えるかのようにポンッと軽い破裂音がした。
そして僕の手から今まで感じていた重みがなくなり、かわりに爽やかな藤の香りが鼻を擽る。
「ありがとうございます、イリヤさん!」
鼓膜を震わせたのは元気な後輩の声だ。
「ウタシロさんもメリィくんもありがとうございます!」
「元気になって良かったです……!」
「……僕に礼なんて要らないよ」
「いいえ、ウタシロさん。変化できないほど妖力を使ったのは私のせいです。だから、連れて帰って来てくれてありがとうございます!」
穏やかに笑う#フジヒメ#に胸がスッと軽くなるのを感じる。
「三人とも無事で良かった。積もる話はあるだろうけど、もうすぐ下校の時間だ」
ハナヲの声に壁に掛けられた時計を見ると、あと数分で鐘が鳴る時刻を指していた。
今日の調査はもう終わりだ。
残っている生徒たちが居なくなるまで図書室でゆっくりしておこうかと歩き出した時、一人の女子生徒が昇降口にやって来る。
「ハナちゃんです!」
嬉々とした#フジヒメ#の声に、全員が視線を女子生徒に向けた。
「メ、メリィ、大丈夫か?」
「な、何とか……」
降ってくると思っていたとは言え、まさかこんな急に強くなるとは思いもしなかった。
しかもこの雨、妙な気配を感じる。
この気配は何だろうかと外を見るが、細かい雨によって白む景色のように、その正体は掴めない。
「ウタシロ! メリィ!」
「!」
「良かった! 戻ってきてて!」
「……ったく、戻ってくるならさっさと戻ってこい」
「おかえり。このお狐さまったら、心配で心配で気が気じゃなかったんだよ。全くツンデレだよねぇ」
「こんの蛇野郎! 余計な事を言うんじゃねぇ!」
ああ、戻ってきたのか。
昇降口正面の階段から現れたお人好しな妖怪たちに、張っていた肩の力が抜ける。
「ん? #フジヒメ#は一緒じゃねーのか?」
「そういえば彼女の姿がないね」
「ああ、ここにいるよ」
僕は羽織っていたカーディガンのポケットから丸まった#フジヒメ#を取り出した。
帰る途中で姿が保てなくなった彼女。
妖力がまだまだ弱いことを忘れて、無理をさせてしまったのは僕の不注意だ。
「随分と妖力を消耗しているね。オレの妖力を分けてあげようか。これでもオレは水を司る蛇だから、樹木に宿る#フジヒメ#とは相性がいいと思うんだ」
イリヤが#フジヒメ#の小さなからだに手を乗せ、妖力を優しく流し込んでいく。
「変化できるかい?」と彼の声に答えるかのようにポンッと軽い破裂音がした。
そして僕の手から今まで感じていた重みがなくなり、かわりに爽やかな藤の香りが鼻を擽る。
「ありがとうございます、イリヤさん!」
鼓膜を震わせたのは元気な後輩の声だ。
「ウタシロさんもメリィくんもありがとうございます!」
「元気になって良かったです……!」
「……僕に礼なんて要らないよ」
「いいえ、ウタシロさん。変化できないほど妖力を使ったのは私のせいです。だから、連れて帰って来てくれてありがとうございます!」
穏やかに笑う#フジヒメ#に胸がスッと軽くなるのを感じる。
「三人とも無事で良かった。積もる話はあるだろうけど、もうすぐ下校の時間だ」
ハナヲの声に壁に掛けられた時計を見ると、あと数分で鐘が鳴る時刻を指していた。
今日の調査はもう終わりだ。
残っている生徒たちが居なくなるまで図書室でゆっくりしておこうかと歩き出した時、一人の女子生徒が昇降口にやって来る。
「ハナちゃんです!」
嬉々とした#フジヒメ#の声に、全員が視線を女子生徒に向けた。