妖怪主のため、カタカナでの記入をオススメします。
第一章 七霧学園に広がる噂
名前の変更
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昔、地図に載らないほどの小さな村が、ある山間にありました。
村から続く山道を使って登った先には開けた場所があり、村と周辺を見渡せるその場所に私の大元になる藤の樹木があったんです。
藤は人間たちから子孫繁栄にと縁起の良いものらしく、大切にしてもらいました。
それからしばらくして、村人の高齢化が進み、子どもたちの姿は減っていきました。
とても小さな村ですから、子育てするにも、お産するにも十分ではなかったんですね。
そんな時、少しでも村の女性たちの気休めに、心の拠り所にと子孫繁栄、子宝、安産の神社が藤の木のそばに建てられたんです。
山に安産や子宝の神様は居ませんでしたから、藤の木が村人たちの思いや願いを聞いていました。
『どうか腹の子が無事に生まれてきますように』
――無事に生まれてきますように――
『子宝に恵まれますように』
――恵まれますように――
彼らの言葉をこだまさせることしかできなかったけれど、最後、村人たちはみんな安心したような顔で帰っていきました。
結果的に、その村には子どもが生まれ、笑顔に包まれました。
藤の木はそれが嬉しかった。
そうしているうちに、村人たちが言ったんです。
『あの場所には何かいる』
『神様か?』
『神様じゃねぇ。いつも俺たちの言葉を返してる』
『なら、木霊じゃねぇか?』
『そうか、木霊がいるのか』
『木霊がいるならあの藤の木じゃないか』
『そうだ、あの藤には木霊がいるんだ。だから、俺たちの声を返すんだ』
村人たちの『あの藤には木霊がいる』という思いが私を生みました。
私は藤の木とともに村を見守ってきたんです。
あの頃は楽しかった。
村人たちは子どもが生まれる度に神社で宴をしていました。
私たちのおかげだと感謝して。
私も藤の木も嬉しかった。
けれど、それからしばらくして村周辺の地域に大雨が降りました。
川は荒れ狂い、山は大量の水を溜めきれず、あちこちで土砂崩れが起こりました。
小さな村はあっという間に土砂の中に消えました。
近くの町に下りていた村人だけが難を逃れましたが、村に人が戻ることはありませんでした。
人が来なくなった神社は廃れるだけです。
けれど、生き延びた村人たちは語り継いでくれました。
子に、孫に、その次に……。
今も彼らの子孫たちは子どもが生まれると神棚にお供えしているんです。
『フジヒメ様、ありがとうございます』
って。
そんな彼らに“裏切られた”なんて思いませんよ。