9章
名前変更
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なぜこうなった。
風のように現れた"彼"は、風のように私をどこかへ連れていく。
ぬら「風を感じたかい?」
『感じるどころか速すぎて……』
––––––––––
風呂上がりに夜風にあたりたくて庭に出た。
『あー涼しー』
「お前が…苗字名前か?」
『ん?』
「上だ」
『あ……』
木に何かいる–––––!?
夜に猫の目が光っているように、木から光る双眼が私を見ていた。
『どちら様です…かっ……え…?』
木から降りたと思えば浮遊感が私を襲う。
速さに目が追いつかず、いつの間にやら私を横抱きにして家々をひとっ飛びしている。
風のように現れ、私を風のように連れ去ったのは–––––
『––––––奴良組の方でしたか……』
ぬら「こやつは遠野の妖怪じゃよ」
イタク「鎌鼬のイタク。リクオに言われてお前をここに連れてきた」
ぬら「正確に言えば、ワシがリクオに頼んだんじゃ」
『じゃあ、私に何か用があるってことですね!』
そうじゃ、と言って箪笥の引き出しからゴソゴソと何かを探る。
私自身もぬらりひょんさんに用があったのでちょうどよかった。
ぬら「守護神に鎌鼬がおるようじゃな」
『ええ。何かわかったんですか?』
ぬら「鎌鼬自身についてならわかるんじゃがな」
『それなら私も知ってますよー』
急に風が吹いたと思ったら、服が破けていたり手に切り傷があると鎌鼬の仕業とか。
鎌鼬の薬は万能だったりと言われがある。
次の守護神が鎌鼬の可能性があることと、箱が二つ開きかけていることを伝えた。
ぬら「なんと…」
ふむ、と言って箪笥から取り出したキセルを吹かす。
『守護神候補の人には会ってるんですけど、開かないんです』
ぬら「その守護神は別の守護神なのか」
『また会って話してみます!』
ぬら「……おっと、迎えが来たようじゃな」
バサッと音を立て、月明かりがそれを綺麗に照らした。
『テツくん!』
黒子「夜も遅いので迎えに来ました」
『今度用があるときは明るい時間にお願いしますね』
ぬら「妖怪は夜が活動時間じゃよ?」
『ふふ、そうでしたね』
次第に奴良家が小さくなっていく。
風が優しく頬や髪を撫でる。
黒子「名前さん、いい匂いがしますね」
『あぁ、風呂上がりだったからかな』
黒子「この匂い、落ち着きます」
『そう?』
黒子「はい。…あ、もうすぐ着きます」
下には見慣れた自分の家が徐々に近づいてきた。
そこには、お母さんと誰かがいた。
『み、緑間くん?』
「あら、噂をすればなんとやらね」
どうやら私に用があるようだ。
しかし、視線はテツくんに向いていた。
緑間「黒子…なのか?」
黒子「はい」
『テツくんも守護神だよ』
緑間「そ、そうか」
これはチャンスなのかもしれない。
私は2人と一緒に蔵へ行った。
箱は開きかけのまま。
『どちらかが緑間くんを守護神にする引き金だよ』
黒子「緑間くん自身に開けてもらうんですか?」
『開かないから開けてもらうしかないと思うの』
緑間「じゃあ、そうするのだよ」
迷いなく緑色の箱に手を触れる。
ガタッ!!
『え?緑間くん?!』
箱に触れた途端開いたと思えば緑間くん本人が消えた。
黒子「箱を間違えたんでしょうか?」
緑間「オレはここにいるのだよ」
箱からひょっこりと何かが顔を出した。
よく見たらメガネをかけている。
『緑間くん?』
黒子「イタチですか?」
緑間「鎌鼬なのだよ」
『わーかわいい』
イタチ姿の緑間くんを捕まえた。
緑間「おい、離すのだよ」
黒子「姿は変わっても、中身は緑間くんですね」
緑間「つつくな!」
『ねーねーテツくん、尻尾もふもふしてるよ!』
黒子「ホントですね」
緑間「オレで遊ぶな!」
器用に私の手からするりと抜け出して箱の中に逃げた。
『あ……ごめんね』
黒子「それで、箱の中身はなんだったんですか?」
緑間「黒子ぉ…………まぁいいのだよ。壺が入っているのだよ」
ただの空壺のように見える。
鎌鼬の万能薬を入れる壺にしては小さいかな。
黒子「壺から薬の匂いがしますね」
『やっぱり薬壺なんだね』
緑間「薬は作れないのだよ」
薬と言えばあの人だ。
明日、その人の屋敷に行って相談してみよう。
黒子「ところで緑間くん。いつまでその姿なんですか?」
緑間「も、戻れないのだよ……」
『えぇっ』
次の日になっても緑間くんは元に戻らなかった。
朝になれば元に戻っていると思っていたのが甘かった。
緑間「このままでは、学校に行けないのだよ」
私の肩を左右に行ったり来たり落ち着きがなかった。
『そ、そうだよね…』
八咫烏に訊きたいけれど、昨日から高天原に行って不在。
黒子「困りましたね」
『書斎にある文献を読むしかないかな』
黒子「たくさんありますよね」
緑間「この姿で探すのは無理なのだよ」
せめて八咫烏がいてくれればと思った。
早く帰ってこないかな。
八咫烏〈お困りのようだな〉
私とテツくんが立っている場所が暗くなったかと思えば、屋根から八咫烏の影が差していた。
緑間「あれが八咫烏なのか?」
八咫烏〈なんだ、今回は小さい守護神だな〉
『元に戻れないだけなの』
八咫烏〈元に戻れない?〉
黒子「元はボクと同じ人間です」
緑間「元に戻る方法を知っているのなら教えてほしいのだよ」
屋根から降りて無言のまま境内に入った。
私達は八咫烏の後をついて行く。
八咫烏〈ここの御神木はこの桜だったか?〉
『うん』
一枚を綺麗に千切って、私の肩に乗っている緑間くんの頭に置いた。
緑間「何も起こらんぞ」
八咫烏〈願え〉
地に降りて桜の葉を手に取った。
再び頭に乗せると、見事に元に戻ることができた。
御神木は神の依代のようなもの。
守護神の願いに応えてくれたのだ。
八咫烏〈その葉を肌身離さず持っておくんだな〉
『じゃあ、お守り作ってあげる!』
黒子「よかったですね。ラッキーアイテムと一緒に持ってると効果抜群かもしれませんよ」
緑間「黒子」
黒子「なんですか?」
緑間「今日のおは朝を見てないのだよ」
イタチの姿になった緑間くんは元に戻ることができずに私の家に泊まった。
しかし、次の日になっても元に戻ることはなく忙しくしていたのでテレビどころではなかった。
『おは朝ならお母さんがよく見てるよ』
結果を訊くべく立ち上がりお母さんを探しに行った。
黒子「さすがおは朝信者ですね」
『昨日はブタの貯金箱持ってたな』
スパンッ
障子が勢いよく開けられた。
そこには息を切らしている緑間くんの姿。
緑間「お守りなのだよ!」
『え?』
緑間「だから、今日のラッキーアイテムはお守りなのだよ!」
『今作ってるよ』
緑間「早く作るのだよ!」
ラッキーアイテムがないと死ぬというような物言いで急かす。
いやいや、なぜ急かす。
『丹精込めて作ってるんです!』
黒子「そうですよ。罰が当たりますよ」
『そーだそーだ』
緑間「喋ってる暇があるなら手を動かすのだよ」
『あーうんうん、はいはい。もーすぐできますよっと』
めんどくさいので軽く返事をしてやった。
緑間くんは何も言わず静かになった。
最初からそうして下さい。
『はい、できたよー』
緑間「助かるのだよ」
八咫烏〈1つ忠告だ鎌鼬よ〉
帰ろうとしたところを八咫烏は止める。
珍しく高天原に戻ることなく地上にいた。
八咫烏〈鎌鼬だけは夜間しか行動できない。昼間はイタチになるから油断するな〉
緑間「フン、オレにはラッキーアイテムとお守りがあるのだよ」
去る時はまるで風のよう。
吹く風は刃の如く。
薬を持って風を吹かそう––––
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