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俺達が入学してから暫く経った頃、それは起きた。
『「正捕手争い?」』
「コイツ、クリス先輩としたいんだってよ。」
『何でまた?』
「奏と城崎は知ってるだろ?シニアの時。」
「んー、確かにシニアの時は全く勝ててなかったよね。」
『…野球詳しくないから何とも言えないよ。』
最近の昼は俺と奏、倉持に城崎の4人で集まるのが当たり前になっている。
「それに、クリス先輩が御幸君に負けるわけないじゃん(笑)」
『あれ?優兄って呼んでなかった?』
「…もう高校生だから、流石にそうは呼べないよ。」
「は?城崎とクリス先輩は知り合いなのか?」
「幼馴染みらしいぜ?」
「だから、あんな仲良く話してんのか。」
ちょくちょく見かける城崎とクリス先輩。
周りも物珍しそうに見ている。
「藤堂も今度、練習見にくるか?」
『んー……邪魔にならない?』
「お前、昔から変わんねぇよな。その考え。」
『だって、野球部やけに人気なんだもの。』
「私と行こうよ!大人しくしてれば彼女達も何もしてこないし。」
『…ファンクラブでもあるの?』
「…あるんだよね。」
少し顔を顰めて溜め息を零す奏。
俺は観に来てくれるならそれはそれで嬉しい。
『…久々に一也が野球してるとこ見たいから行こうかな。』
「じゃあ、今日早速行こうよ。」
『ん。』
「奏が来るなら頑張んねぇとな。」
「ヒャハッ、先輩に厳しく扱かれろ。」
「…現実になりそうだから止めてくんない?」
『倉持君も頑張ってね。』
「おう!」
いつも通り、放課後の練習。
周りの女子はキャーキャー騒いで、奏と城崎は静かに見ているだけ。
ホント、あの2人のああいう所助かるよな。
「おい、御幸。」
「なんすか?」
「藤堂やけにクリス見てねぇか?」
先輩に言われてみると、確かに目でクリス先輩を追っている。
その顔は少し厳しめだ。
ふと、奏が目を見開いたと同時に辺りは違う意味で騒がしくなった。
「クリス!」
「クリス先輩!?」
クリス先輩が膝をついていた。
それはいつかの光景にそっくりで、俺も城崎ですらも動けなかった。
なのに、アイツは…奏だけが動いた。
『動かさないで下さい!』
「は!?何言って…」
『クリス先輩!肩を痛めてますね?』
「「!?」」
『…病院へ行きますよ。』
「な、なら私が車を…「大丈夫です。」え?」
太田部長を止めるクリス先輩。
どこが大丈夫なんだよ…!
ハッと奏を見れば真剣な眼差しでクリス先輩を見据えている。
『…クリス先輩、一生野球が出来なくても良いと仰ってるんですか?そんな事じゃ貴方のお父さんだけでなく莉愛まで悲しみます。ちゃんと病院行って診察してもらいましょう?このまま放置するよりリハビリをして復帰出来る様にしましょう。…野球が好きならそうすべきです。』
凛とした姿で言い放つ奏はまるで別人に見えた。
携帯を取り出し、どこかへ連絡する。
『…はい、お願いします。…父の知り合いが医者なので此方に来て頂ける事になりました。』
「…クリスを座らせろ。」
『…部外者が口を出して申し訳ありません。』
「いや良い。おかげでクリスを大人しく病院へ連れて行けるから助かった。」
一台の車が到着して降りてきたのは、奏の実父である佐伯さんだ。
「せ、先輩!?」
…ん?今、片岡監督何て…?
「あはは、久し振りだね。鉄心。」
…え?
奏も目を真ん丸くして驚いてる。
「あれ?言わなかった??私の後輩が青道で教師してるって。」
『…教師ってだけで…野球部監督とは一言も…。』
「そうだった?まぁ良いか。奏、彼が患者?」
『あ、うん!』
「…ふむ……奏から見てどう思う?」
『…ただ肩を痛めてるだけには思えなくて……どこか損傷してたりするかもしれないって。』
「うん。その見方は正しいね。とりあえず私が連れて行こう。鉄心いいね?」
「お願いします。」
クリス先輩は佐伯さんの車に乗せられて、太田部長がその後を追い掛ける様に車で病院へ向かった。
その夜、俺達はクリス先輩の症状を聞かされる。
「…靱帯…断裂…」
「正捕手は1年の御幸にやってもらう。」
「!?」
…正捕手。
こんな形でなるなんて……。
練習後、俺はこっそり寮を抜け出して奏の家へ向かった。
ピンポーン
『はい、どちらさ「…俺だけど…」一也?』
扉を開けた奏は驚いた顔をしている。
当たり前だ、この時間帯で俺が訪ねて来たんだから。
『ど、どうしたの?こんな時間に……とりあえず入って。』
リビングに通されて椅子に座る。
お茶を出してきた奏に抱き付いた。
『……クリス先輩の事?』
「…靱帯断裂って……俺が正捕手になった。」
『…一也…』
「…正捕手争いしてポジション奪うって…決めてたんだ。」
『…うん。』
「…こんな形で…ポジション奪うなんて望んでねぇよ…」
『……っ。』
「…あん時…奏が言ってた事…真剣に聞いとけばこんな事…」
『…違うよ。』
座っている俺が立っている奏に抱き付いているからか、ちょうど胸の辺りに顔を押し付けられる。
『…あの時に言ってもクリス先輩は隠したと思う。隠して隠して…練習を続けてたよ。』
「……」
『…佐伯さんがね、オーバーワークが原因だろうって。一番悔しくて苦しいのはクリス先輩なんだって。』
「…うん。」
『…一也はどんな形であれ正捕手になったんだから、受け止めなくちゃ。』
「…奏…。」
『…野球詳しくない私だけど、これだけは言えるよ。これから一也は青道の扇の要として活躍するんだよ。』
こんな弱いとこを見せても受け止めてくれる奏を俺は離せない。
離したら確実に立ち直れない。
そんくらい俺は奏に依存してるんだ。
「…こんな遅くにごめんな。」
『ふふ、大丈夫だよ。ほら、早く帰らないとバレちゃうよ?』
「…あぁ。」
帰ろうと背を向ければ、呼び止められて振り向く。
『一也。』
「なん……!?」
『頑張れ。』
今までで1番といっても良いほどの綺麗な笑顔。
俺は顔が熱くなるのが分かった。
……やるしかないんだよな。
奏が背中を押してくれたんだ、やってやるよ。
どんな投手であろうと俺がリードしてやる。
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『「正捕手争い?」』
「コイツ、クリス先輩としたいんだってよ。」
『何でまた?』
「奏と城崎は知ってるだろ?シニアの時。」
「んー、確かにシニアの時は全く勝ててなかったよね。」
『…野球詳しくないから何とも言えないよ。』
最近の昼は俺と奏、倉持に城崎の4人で集まるのが当たり前になっている。
「それに、クリス先輩が御幸君に負けるわけないじゃん(笑)」
『あれ?優兄って呼んでなかった?』
「…もう高校生だから、流石にそうは呼べないよ。」
「は?城崎とクリス先輩は知り合いなのか?」
「幼馴染みらしいぜ?」
「だから、あんな仲良く話してんのか。」
ちょくちょく見かける城崎とクリス先輩。
周りも物珍しそうに見ている。
「藤堂も今度、練習見にくるか?」
『んー……邪魔にならない?』
「お前、昔から変わんねぇよな。その考え。」
『だって、野球部やけに人気なんだもの。』
「私と行こうよ!大人しくしてれば彼女達も何もしてこないし。」
『…ファンクラブでもあるの?』
「…あるんだよね。」
少し顔を顰めて溜め息を零す奏。
俺は観に来てくれるならそれはそれで嬉しい。
『…久々に一也が野球してるとこ見たいから行こうかな。』
「じゃあ、今日早速行こうよ。」
『ん。』
「奏が来るなら頑張んねぇとな。」
「ヒャハッ、先輩に厳しく扱かれろ。」
「…現実になりそうだから止めてくんない?」
『倉持君も頑張ってね。』
「おう!」
いつも通り、放課後の練習。
周りの女子はキャーキャー騒いで、奏と城崎は静かに見ているだけ。
ホント、あの2人のああいう所助かるよな。
「おい、御幸。」
「なんすか?」
「藤堂やけにクリス見てねぇか?」
先輩に言われてみると、確かに目でクリス先輩を追っている。
その顔は少し厳しめだ。
ふと、奏が目を見開いたと同時に辺りは違う意味で騒がしくなった。
「クリス!」
「クリス先輩!?」
クリス先輩が膝をついていた。
それはいつかの光景にそっくりで、俺も城崎ですらも動けなかった。
なのに、アイツは…奏だけが動いた。
『動かさないで下さい!』
「は!?何言って…」
『クリス先輩!肩を痛めてますね?』
「「!?」」
『…病院へ行きますよ。』
「な、なら私が車を…「大丈夫です。」え?」
太田部長を止めるクリス先輩。
どこが大丈夫なんだよ…!
ハッと奏を見れば真剣な眼差しでクリス先輩を見据えている。
『…クリス先輩、一生野球が出来なくても良いと仰ってるんですか?そんな事じゃ貴方のお父さんだけでなく莉愛まで悲しみます。ちゃんと病院行って診察してもらいましょう?このまま放置するよりリハビリをして復帰出来る様にしましょう。…野球が好きならそうすべきです。』
凛とした姿で言い放つ奏はまるで別人に見えた。
携帯を取り出し、どこかへ連絡する。
『…はい、お願いします。…父の知り合いが医者なので此方に来て頂ける事になりました。』
「…クリスを座らせろ。」
『…部外者が口を出して申し訳ありません。』
「いや良い。おかげでクリスを大人しく病院へ連れて行けるから助かった。」
一台の車が到着して降りてきたのは、奏の実父である佐伯さんだ。
「せ、先輩!?」
…ん?今、片岡監督何て…?
「あはは、久し振りだね。鉄心。」
…え?
奏も目を真ん丸くして驚いてる。
「あれ?言わなかった??私の後輩が青道で教師してるって。」
『…教師ってだけで…野球部監督とは一言も…。』
「そうだった?まぁ良いか。奏、彼が患者?」
『あ、うん!』
「…ふむ……奏から見てどう思う?」
『…ただ肩を痛めてるだけには思えなくて……どこか損傷してたりするかもしれないって。』
「うん。その見方は正しいね。とりあえず私が連れて行こう。鉄心いいね?」
「お願いします。」
クリス先輩は佐伯さんの車に乗せられて、太田部長がその後を追い掛ける様に車で病院へ向かった。
その夜、俺達はクリス先輩の症状を聞かされる。
「…靱帯…断裂…」
「正捕手は1年の御幸にやってもらう。」
「!?」
…正捕手。
こんな形でなるなんて……。
練習後、俺はこっそり寮を抜け出して奏の家へ向かった。
ピンポーン
『はい、どちらさ「…俺だけど…」一也?』
扉を開けた奏は驚いた顔をしている。
当たり前だ、この時間帯で俺が訪ねて来たんだから。
『ど、どうしたの?こんな時間に……とりあえず入って。』
リビングに通されて椅子に座る。
お茶を出してきた奏に抱き付いた。
『……クリス先輩の事?』
「…靱帯断裂って……俺が正捕手になった。」
『…一也…』
「…正捕手争いしてポジション奪うって…決めてたんだ。」
『…うん。』
「…こんな形で…ポジション奪うなんて望んでねぇよ…」
『……っ。』
「…あん時…奏が言ってた事…真剣に聞いとけばこんな事…」
『…違うよ。』
座っている俺が立っている奏に抱き付いているからか、ちょうど胸の辺りに顔を押し付けられる。
『…あの時に言ってもクリス先輩は隠したと思う。隠して隠して…練習を続けてたよ。』
「……」
『…佐伯さんがね、オーバーワークが原因だろうって。一番悔しくて苦しいのはクリス先輩なんだって。』
「…うん。」
『…一也はどんな形であれ正捕手になったんだから、受け止めなくちゃ。』
「…奏…。」
『…野球詳しくない私だけど、これだけは言えるよ。これから一也は青道の扇の要として活躍するんだよ。』
こんな弱いとこを見せても受け止めてくれる奏を俺は離せない。
離したら確実に立ち直れない。
そんくらい俺は奏に依存してるんだ。
「…こんな遅くにごめんな。」
『ふふ、大丈夫だよ。ほら、早く帰らないとバレちゃうよ?』
「…あぁ。」
帰ろうと背を向ければ、呼び止められて振り向く。
『一也。』
「なん……!?」
『頑張れ。』
今までで1番といっても良いほどの綺麗な笑顔。
俺は顔が熱くなるのが分かった。
……やるしかないんだよな。
奏が背中を押してくれたんだ、やってやるよ。
どんな投手であろうと俺がリードしてやる。
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