初めての感情
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その日、久々に一也の練習を見に行く事にした奏。
シニアチームになってから見に行くのは初めてで、親友である悠里が投げるというのであれば是非とも見なくてはと思ったのだ。
『…1年でレギュラーは凄いや……』
目に映るのは生き生きとした一也。
苦笑いに近い笑みが零れた。
『…どんだけキャッチャー好きなのよ。』
「奏!見に来てくれたの?」
『悠里……うん、今日は予定無いしね。』
「ふふん!じゃあ私の勇姿をとくとご覧あれ!」
『勇姿って…(笑)今日は練習でしょ?』
「良いの、奏が見に来てくれるの珍しいんだからさ。」
そう言って、へへっと笑う悠里に奏も笑い返す。
そこへ2人に気付いた一也が駆け寄ってきた。
「いつ来たの?」
『さっきだよ。』
「声掛けてくれれば良かったのに。」
『…私がそんな事出来ないって解ってて言ってるよね。』
「そういえば、私も奏が大声出すの聞いた事ないや。」
「俺も。」
『…恥ずかしいから嫌。』
ひとしきり話した後、一也と悠里は練習に戻っていく。
2人の背中を見て、寂しい様な羨ましい様な感情が胸を過ぎった。
『(…私もあんな風に何か出来たら良いな。)』
ボーッとグラウンドを眺める。
流石に1人で見るのは寂しい、こんな事なら浩輔と志穂も連れて来れば良かった。
だが、残念な事に弟妹は遊びに行ってしまっていた。
『あ…』
悠里が投げ、その球を一也が受ける。
時折、一也の“馬鹿!”って声が聞こえた。
それに対し悠里は言い返す。
普段と変わらない光景に自然と微笑んだ。
『(もう少し違う場所から見たいな。)』
その考えがいけなかったのか。
2人の顔が良く見える位置に移動した奏は、その近くでキャッチボールをしてる選手に気が付かなかった。
「あーあ、俺ら1年にレギュラー取られてんじゃん。」
「腹立つよな。1年のくせに生意気。」
「絶対、葛西より俺の方が良い球投げんのによ。」
「そういや、お前の球って結構スピード出てきたよな。」
「おう!試して良い??名付けて爆裂ストレート!」
「…ネーミングセンスは無いな(笑)良いよ、本気で投げろ。」
「よっしゃぁ!!」
彼は友人に向かってボールを投げた。
それはしっかり腕も振り抜けてて良いボールであるが、悲しい事に彼自身のコントロールが悪すぎたのだ。
「あ!!」
「どこ向けて投げてんだよ!本当にコントロールない……って!!」
友人の横を通り過ぎたボールは真っ直ぐ奏の所へ向かっていく。
顔を青くして叫ぶ彼等に気付き奏が横を見れば、自身に向かってくるボールがあった。
グラウンドからは恐らく一也の声だろう。
余所見なんて出来ないが避けようにも体が動かない。
唯一出来たのはしゃがみ込むこと。
しかし、それすら予想していたかの様にボールは軌道を変えた。
絶望的になった奏はギュッと目を瞑って、これから来る痛みを待った。
大きな音が響いた。
『…?』
予想していた痛みは無く、代わりに自分の体は温もりを感じそっと目を開ける。
『…え……?』
一也が自分を抱き締め、ボールを受け止めていたのだ。
『…か……ずや……』
「大丈夫か?」
名前を呼べば、少し顔を見下ろす感じで必死な表情がそこにはあった。
『(…汗…すごい………)』
元いた一也の位置から良く此処まで走って間に合わせたものだ。と、感心していたが一向に緩まない腕。
いや、寧ろ逆に抱き締める力が強くなっている。
そして普段と違い、見下ろされる真面目な表情に胸が激しく高鳴った。
『(え…?な、何…このドキドキ……顔が熱い………)』
「奏?」
『な、何?』
「どうした?顔赤いけど…」
『何でもない…』
「(…あれ?もしかして??)」
一也の中で1つの仮説が浮かぶ。
『は、早く…離して…』
「(恥ずかしいだけか。)はいはい」
やはりというか、解っていたが残念だとも思う。
そんな気持ちを押し込めて、グラウンドにいる悠里を呼ぶ。
「奏!!」
「コイツの事宜しく。」
「うん、ほら行こう……?!」
悠里に抱き付いてきた奏に抱き付かれた本人は目を丸くし言葉を失う。
当たり前だ。
自分に抱き付いている親友が顔は赤いが泣きそうな表情なのだから。
「…とりあえず行こう?」
小さく頷く。
悠里に手を引かれながら先程の温もりと一也の表情が頭から離れなかった。
next
シニアチームになってから見に行くのは初めてで、親友である悠里が投げるというのであれば是非とも見なくてはと思ったのだ。
『…1年でレギュラーは凄いや……』
目に映るのは生き生きとした一也。
苦笑いに近い笑みが零れた。
『…どんだけキャッチャー好きなのよ。』
「奏!見に来てくれたの?」
『悠里……うん、今日は予定無いしね。』
「ふふん!じゃあ私の勇姿をとくとご覧あれ!」
『勇姿って…(笑)今日は練習でしょ?』
「良いの、奏が見に来てくれるの珍しいんだからさ。」
そう言って、へへっと笑う悠里に奏も笑い返す。
そこへ2人に気付いた一也が駆け寄ってきた。
「いつ来たの?」
『さっきだよ。』
「声掛けてくれれば良かったのに。」
『…私がそんな事出来ないって解ってて言ってるよね。』
「そういえば、私も奏が大声出すの聞いた事ないや。」
「俺も。」
『…恥ずかしいから嫌。』
ひとしきり話した後、一也と悠里は練習に戻っていく。
2人の背中を見て、寂しい様な羨ましい様な感情が胸を過ぎった。
『(…私もあんな風に何か出来たら良いな。)』
ボーッとグラウンドを眺める。
流石に1人で見るのは寂しい、こんな事なら浩輔と志穂も連れて来れば良かった。
だが、残念な事に弟妹は遊びに行ってしまっていた。
『あ…』
悠里が投げ、その球を一也が受ける。
時折、一也の“馬鹿!”って声が聞こえた。
それに対し悠里は言い返す。
普段と変わらない光景に自然と微笑んだ。
『(もう少し違う場所から見たいな。)』
その考えがいけなかったのか。
2人の顔が良く見える位置に移動した奏は、その近くでキャッチボールをしてる選手に気が付かなかった。
「あーあ、俺ら1年にレギュラー取られてんじゃん。」
「腹立つよな。1年のくせに生意気。」
「絶対、葛西より俺の方が良い球投げんのによ。」
「そういや、お前の球って結構スピード出てきたよな。」
「おう!試して良い??名付けて爆裂ストレート!」
「…ネーミングセンスは無いな(笑)良いよ、本気で投げろ。」
「よっしゃぁ!!」
彼は友人に向かってボールを投げた。
それはしっかり腕も振り抜けてて良いボールであるが、悲しい事に彼自身のコントロールが悪すぎたのだ。
「あ!!」
「どこ向けて投げてんだよ!本当にコントロールない……って!!」
友人の横を通り過ぎたボールは真っ直ぐ奏の所へ向かっていく。
顔を青くして叫ぶ彼等に気付き奏が横を見れば、自身に向かってくるボールがあった。
グラウンドからは恐らく一也の声だろう。
余所見なんて出来ないが避けようにも体が動かない。
唯一出来たのはしゃがみ込むこと。
しかし、それすら予想していたかの様にボールは軌道を変えた。
絶望的になった奏はギュッと目を瞑って、これから来る痛みを待った。
大きな音が響いた。
『…?』
予想していた痛みは無く、代わりに自分の体は温もりを感じそっと目を開ける。
『…え……?』
一也が自分を抱き締め、ボールを受け止めていたのだ。
『…か……ずや……』
「大丈夫か?」
名前を呼べば、少し顔を見下ろす感じで必死な表情がそこにはあった。
『(…汗…すごい………)』
元いた一也の位置から良く此処まで走って間に合わせたものだ。と、感心していたが一向に緩まない腕。
いや、寧ろ逆に抱き締める力が強くなっている。
そして普段と違い、見下ろされる真面目な表情に胸が激しく高鳴った。
『(え…?な、何…このドキドキ……顔が熱い………)』
「奏?」
『な、何?』
「どうした?顔赤いけど…」
『何でもない…』
「(…あれ?もしかして??)」
一也の中で1つの仮説が浮かぶ。
『は、早く…離して…』
「(恥ずかしいだけか。)はいはい」
やはりというか、解っていたが残念だとも思う。
そんな気持ちを押し込めて、グラウンドにいる悠里を呼ぶ。
「奏!!」
「コイツの事宜しく。」
「うん、ほら行こう……?!」
悠里に抱き付いてきた奏に抱き付かれた本人は目を丸くし言葉を失う。
当たり前だ。
自分に抱き付いている親友が顔は赤いが泣きそうな表情なのだから。
「…とりあえず行こう?」
小さく頷く。
悠里に手を引かれながら先程の温もりと一也の表情が頭から離れなかった。
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