【完結】冷たい地獄の底ならば(鬼滅)
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【if?】童磨が生き延び、原作通りに殺された√
男主を喰ったものの生き延びてしまい、男主に関する記憶を丸々消した童磨の地獄での話。
「とっととくたばれ糞野郎」
かろん、かろん、
冷たく暗い地獄の底で、下駄の鳴る音が響く。
歩くのは黒髪の、つり上がった目付きの男。
男は、頭から血を被ったような髪をした鬼の首を抱えていた。
「ねぇ、いい加減君の名前を教えてよ。ずっと何もないところを進むばかりなんて、つまらないじゃないか」
かろん、かろん、
鬼は何度目かの質問を投げ掛けるが、男は未だ口を開くことはなく、ただ歩みを進めている。
「もしかして口が利けないのかな? だとしたら可哀想に、生きるのは辛かっただろう」
かろん、――
男の足が止まる。
鬼はどうしたのだろうかと目だけで上を見るが、鬼は首しかないので男の顔を見ることはできなかった。
「……そうだな」
「わぁ! やっと返事をしてくれたね。いいよ、何か辛いことがあったなら俺に言うといい。俺は聞くのが上手だから」
「……」
――かろん、かろん、
また歩き始めた男に、鬼は何かを間違えたのかな、と脳内で首を捻った。
しかしそんな鬼の予想とは裏腹に、男は下駄を鳴らしながらポツリと呟いた。
「……クソみたいな人生だったよ」
「へぇ、そんなに酷かったの?」
「あぁ、仕事は多いし、雇い主の頭はイカれてるし。
命捨ててまで殺そうとしたってのに殺せてねぇし、ソイツは自分だけ記憶消してやがるし。クソ以外の何でもねぇ」
吐き捨てるように、拗ねた子供のように男は言った。
男は案外怒りっぽいのだろうか。鬼はどこまでも冷静に思考して、流れるように薄っぺらい寄り添いの言葉を吐いた。
「――君がそんなに言うほどだなんて……、余程酷かったんだろう、辛かったね……」
「……ふはっ、そうだな。」
鬼は男の漏れ出たような吐息で、男が今笑ったのだと理解した。首だけの鬼に男の笑顔は見えなかった。
かろん、かろん、
「アンタ、恋をしたんだって?」
わずかな沈黙の後、男は鬼に質問を投げ掛けた。
男から話題を振るのは初めてだった。知っての通り、今まではずっと鬼ばかりが話しかけて、男はずっと口をつぐむばかりで。
「よく知ってるね」
「どうだった? 初めての恋は」
「凄かったよ。不思議と楽しくて、無い筈の心臓が脈打つ気さえするんだ」
「ほぉ、そりゃすげぇ」
鬼の首の上で、男がクスクスと吐息を漏らす。
男にとってこの話は驚くほど面白いようで、鬼はこの男がずっと黙りを決め込んでいた先の男とは思えなかった。
ただその笑いが、鬼にとっては童を見る親のような余裕を感じて、むぅとして逆に問いかける。
「そういう君は恋を知ってるの?」
歩調も、呼吸も変わりなかったと言うのに、鬼は男が驚いたように感じた。
されど鬼が「あれ?」と思う頃には既にそれは鳴りを潜めていて、男は薄く息を吐いて笑った。
「ふ、そんなもん、とっくの昔に知ってるよ」
「……、……へえ、そうなんだ。無愛想でも恋はできるんだね」
「落としてやろうか?」
かろん、かろん、
冷たく暗い地獄の底で、今日もまた下駄の鳴る音が響いている。
・
童磨って、地獄に落ちてもきっかけが無ければ人間に戻れなさそうですよね。
きっかけさえあれば、五体満足の人間に戻って、ナマエの顔をしっかり見て、一緒に地獄巡りできると思うんですけど。記憶消してる分ちょっと時間かかりそうですかね。
男主を喰ったものの生き延びてしまい、男主に関する記憶を丸々消した童磨の地獄での話。
「とっととくたばれ糞野郎」
かろん、かろん、
冷たく暗い地獄の底で、下駄の鳴る音が響く。
歩くのは黒髪の、つり上がった目付きの男。
男は、頭から血を被ったような髪をした鬼の首を抱えていた。
「ねぇ、いい加減君の名前を教えてよ。ずっと何もないところを進むばかりなんて、つまらないじゃないか」
かろん、かろん、
鬼は何度目かの質問を投げ掛けるが、男は未だ口を開くことはなく、ただ歩みを進めている。
「もしかして口が利けないのかな? だとしたら可哀想に、生きるのは辛かっただろう」
かろん、――
男の足が止まる。
鬼はどうしたのだろうかと目だけで上を見るが、鬼は首しかないので男の顔を見ることはできなかった。
「……そうだな」
「わぁ! やっと返事をしてくれたね。いいよ、何か辛いことがあったなら俺に言うといい。俺は聞くのが上手だから」
「……」
――かろん、かろん、
また歩き始めた男に、鬼は何かを間違えたのかな、と脳内で首を捻った。
しかしそんな鬼の予想とは裏腹に、男は下駄を鳴らしながらポツリと呟いた。
「……クソみたいな人生だったよ」
「へぇ、そんなに酷かったの?」
「あぁ、仕事は多いし、雇い主の頭はイカれてるし。
命捨ててまで殺そうとしたってのに殺せてねぇし、ソイツは自分だけ記憶消してやがるし。クソ以外の何でもねぇ」
吐き捨てるように、拗ねた子供のように男は言った。
男は案外怒りっぽいのだろうか。鬼はどこまでも冷静に思考して、流れるように薄っぺらい寄り添いの言葉を吐いた。
「――君がそんなに言うほどだなんて……、余程酷かったんだろう、辛かったね……」
「……ふはっ、そうだな。」
鬼は男の漏れ出たような吐息で、男が今笑ったのだと理解した。首だけの鬼に男の笑顔は見えなかった。
かろん、かろん、
「アンタ、恋をしたんだって?」
わずかな沈黙の後、男は鬼に質問を投げ掛けた。
男から話題を振るのは初めてだった。知っての通り、今まではずっと鬼ばかりが話しかけて、男はずっと口をつぐむばかりで。
「よく知ってるね」
「どうだった? 初めての恋は」
「凄かったよ。不思議と楽しくて、無い筈の心臓が脈打つ気さえするんだ」
「ほぉ、そりゃすげぇ」
鬼の首の上で、男がクスクスと吐息を漏らす。
男にとってこの話は驚くほど面白いようで、鬼はこの男がずっと黙りを決め込んでいた先の男とは思えなかった。
ただその笑いが、鬼にとっては童を見る親のような余裕を感じて、むぅとして逆に問いかける。
「そういう君は恋を知ってるの?」
歩調も、呼吸も変わりなかったと言うのに、鬼は男が驚いたように感じた。
されど鬼が「あれ?」と思う頃には既にそれは鳴りを潜めていて、男は薄く息を吐いて笑った。
「ふ、そんなもん、とっくの昔に知ってるよ」
「……、……へえ、そうなんだ。無愛想でも恋はできるんだね」
「落としてやろうか?」
かろん、かろん、
冷たく暗い地獄の底で、今日もまた下駄の鳴る音が響いている。
・
童磨って、地獄に落ちてもきっかけが無ければ人間に戻れなさそうですよね。
きっかけさえあれば、五体満足の人間に戻って、ナマエの顔をしっかり見て、一緒に地獄巡りできると思うんですけど。記憶消してる分ちょっと時間かかりそうですかね。
4/4ページ