第一話≪よろしく≫
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第一話≪よろしく≫
▽「ナツ、村を食う」のあらすじ(見なくても良い)
【鉄の森】の邪悪な企てを阻止しゼレフ書の悪魔【呪歌】の暴走をも止めたナツ達は、マスター マカロフと共にギルドに戻ろうとする。
しかしハッピーの鼻に従い入ったのはクローバー大峡谷の奥。何も知らず迷いこんだそこは大自然の迷宮!?
容赦なく襲ってくる空腹に耐えながらもナツ達は歩き……
アカネビーチや楽園の塔でのあれそれを越えようやく帰って来れたギルドは、改築を終え色々な意味で凄いことになっていた。グッズショップやオープンカフェができてたり、酒場の奥にはプールまである!
それでも流石と言うか、最後の方にはいつも通りぐちゃぐちゃになってたけど……。
「嬢ちゃん、危ねぇぞー!」
「だいじょーぶー!」
石畳が敷かれた道の端をいつものように歩く。夕日のオレンジ色が川の水面を照らしきらきらと輝いていた。
川沿いに建てられた家々の中、しばらく先に見えるのは愛しい我が家。立地や部屋の良さのわりに家賃七万Jの超優良物件だ。部屋においてアタシはアタシを何度でも誉められると思う。
……誰かさん達がいっつも不法侵入してくるおかげで帰る度に警戒しなくちゃいけないけどね。
「家と言えば……、あれからどうしたんだろ。」
思い出すのは、蜘蛛の巣谷で遭遇したある男の事。
・
◯
・
闇ギルド【鉄の森】並びにゼレフ書の悪魔【呪歌】との戦いが終わり、一同はクローバーの町からマグノリアへと帰路を急ぎ、
――――遭難していた。
「腹減ったなぁ……。」
「一々言うんじゃねえ……余計に腹が減る。」
彼達が迷いこんだのはクローバー大峡谷の奥にある蜘蛛の巣谷。ハンターギルドの熟練ですら一度迷うと出られない、自然が作った恐ろしい迷宮だ。
熟練のハンターでもない彼達も例に漏れず、それはもうしっかりと迷い、正しい道を探して早くも二日が経過していた。
しかし、帰り道は全くと言っていいほど見つからず、逆にどんどんと霧深い森へと入ってしまう始末。空腹を感じながらも、とりあえずルーシーはハッピーの道案内を信じるのは止めようと決意した。
ぐぅ~
もはや誰のものとも分からない腹の音が森の中に木霊する。霧がかかったこの空間は、うすら寒い妖しさに満ちていた。
「……ねぇ、何か肌寒くない?気味も悪いし…。」
「何かオバケとか出てきそうだよね!」
「止めなさいって!!」
オバケの真似をするハッピーにルーシーは思わず想像してしまい、背筋を震わせる。ほっぺをつねるルーシーと悪びれないハッピーのやりとりを意にも介さず、ナツがひくりと鼻をならす。そして勢い良く顔をあげた。
「うおっ、何だぁ?」
「………にく。」
「にく…?まさか!」
「肉の匂いだァアアアア!!!」
空腹はどこへ行ったのか全速力で走るナツ。それに躊躇や疑いなどの思考は一切無く、ただ食欲という本能だけで行動していることは口から垂れた涎が物語っていた。
勿論ナツ以外の者達も例外ではなく、我先にと後を追っていく。
「ちょ、ちょっと!罠とか魔獣が居たらどうすんのよ!」
「とか言う割にはダッシュだよね。」
「お前もな!」
「とにかく!ナツの嗅覚は信用できる。食糧があるなら向かう価値はあるだろう。」
「まずはダッシュじゃあガキども!!」
「ぷ、あっはははは!!その手前で右に曲がりゃあ村があったんだが…ふはっ、そりゃ災難だったなぁ!」
蜘蛛の巣谷の奥深く。木の葉の隙間からほのかに日が射し込む場所で、大きな鍋を囲みながらナツ達と一人の男が一同に会していた。
「村!?こんな所に?」
「ああ。元闇ギルドの村だが…今は改心して良い村になってんだ。っくく、オレに出会えて運が良かったぜ?アンタら。」
お玉を片手にけらけらと笑うのは、モッズコートのフードを目深に被った男だ。
鼻から下以外の露出が一切ない不審な格好ではあるが、なだれ込んできたナツ達にすぐ料理をもてなしたように、悪人でないことは明らかだった。
「すごい笑うねこの人…。」
「ちょっとハッピー!」
「あっはっは!すまんすまん、アンタらにとっちゃ笑い事じゃねえんだもんなぁ。」
ナツが肉の匂いを辿り数分。一番最初に到着したナツが見たのは、食欲をそそる匂いをたてながら男が肉やら鍋やらを準備する姿だった。
『にくぅー!』
『誰だテメェ、って勝手に手ェ出すんじゃねぇ!!』
もっともナツ以外が見たのは、ナツに拳骨を食らわす男の姿だったが。
数十分が経った今、大量に焼いてもらった筈の肉は綺麗に骨だけが残り、スープに満ち満ちていた大鍋は空っぽ。極限の空腹から解放された彼らは少し食べ過ぎたのか、わずかに苦しそうにしながらも幸せそうな表情で満腹感を楽しんでいる。
「「ごちそうさまでした!」」
「お粗末さんでした。いい食べっぷりだったぜ、アンタら!」
魔法道具だったのであろう、大鍋や器をしゅぽしゅぽとラクリマへ仕舞いながら男が笑う。
〝いい食べっぷり〟と評されたことが恥ずかしいのか、ルーシーはアハハ…、と乾いた笑いを溢していた。
「本当に助かりました、見ず知らずの私達にここまで……」
「おまえホントいい奴だなー!」「あい!」
「〝おまえ〟じゃないでしょナツ!本当、ごちそうさまでした。凄く美味しかったです!」
「……。」
「我々を代表して礼を言わせてくれんか。しかし、何か礼でも出来たらいいんじゃがのぉ……。」
「そんな気にすることじゃねぇって!大したことなんざしてねぇし、ここであったのも何かの縁ってやつだ!堅苦しい話し方もやめてくれ!」
快活に笑う男に「やっぱいい奴だー!!」とナツとハッピーが絡みに行き、空間が楽しげな空気に包まれる。不審者のごとき格好は男であることしか特徴を語らなかったが、飯をくれた際に男の懐の広さは分かりきっていた。その上少し喋ってみれば気のいい奴だと言うことも分かり、親しくなるまでに時間はかからなかった。
「?グレイ、どうかした?」
「……いや、何でもねぇ。」
こっそりと、小声でルーシーが声をかける。
……一人だけ。グレイの沈黙は男に届く前に、穏やかな喧騒にかき消される。マスターは今は静観するつもりなのか、静かに各々のやり取りを眺めていた。
「そういや、何でこんな所にいるんだ?」
「もしかして実はオバケとか!?」
「ふ……だったらどうする?」
「おまえオバケなのかーっ!?」
「うそぉーーっ!?」
「あはははっ!!冗談だよじょーだん!」
ナツの疑問にハッピーがちゃちゃを入れ、それに男が乗る。どうやら男はノリも良いようだった。
「墓参りだよ、墓参り。ぶっ潰れちまった村のな。」
ここ通ると近道なんでな、これから行く予定だったんだよ。
男は肩を竦め何でもないことのように軽く言うが、聞いた側からすればそうもいかない。エルザは素早くナツとハッピーに拳を入れ悶絶する二人と共に頭を下げた。(下げさせたとも言う。)
「すまない!不躾な質問だった、この二人にはよく言っておく。」
「いやいや、いいっていいって!」
後ろでルーシーがやっぱこの人ヤバい……と静かに震えていたが、何かに気づき更に震え出す。
「も、もしかして私達が食べたのって……その人達用の……お供え物?」
「んー……まあな。つっても、四分の一はオレ用だけどよ。」
まさかの事実を肯定されたことで巻き起こった謝罪の嵐は、男が「ホントにいーんだって。オレも村の奴らと居るみてぇで楽しかったし。」と返すまで続いた。
「んー……じゃあ、どうしても礼がしてぇっつうならよ、一つ聞きてぇことがあンだけど…いいか?」
「何だ?私達が答えられることなら力になろう。何でも言ってみろ。」
「街の事なんだけどよ、アンタら都会の人だろ?
オレ職業柄転々とすることが多いんだけどよォ、金も貯まったし、どっか家買ってみたくってな。
そこで聞きてぇんだが、アンタらのオススメの街ってあるか?」
数名が家を買うとあっさり言ってのけた男に愕然していたが、今は関係ないので置いておく。
――――少しの議論の結果、白熱したものの、最終的にはやはりマグノリアの街となった。
自己紹介すらしていない関係だと言うのにここまで盛り上がれるのは、いっそ男の才能なのだろう。ルーシーははしゃぐナツやハッピーと一緒に盛り上がる男を眺め、まるでギルドに居るみたいと錯覚していた。
「よっし!アンタらのオススメを信頼してマグノリアにすらァ。色々教えてくれてありがとよ!」
「おう!ぜってぇ遊びに来いよ!!」
「そのときはオイラのお魚分けてあげるね!」
「引っ越すまで多少時間はかかっちまうだろうけど、そン時はよろしく!あー、【妖精の尻尾】 で合ってるよな?」
男が確認するように慣れていない発音でギルド名を唱えた。
「おう!合ってる合ってる!」
「…あれ、オイラ達ギルドの事話してたっけ?」
「いんや?ただ、ギルドマークで分かっからよ。」
「……てか、アンタ達教えてないのに〝遊びに来い〟って言ってたんだ……。」
ルーシーの突っ込みにナツとハッピーは「忘れてたーっ!」と口をあんぐり開けていた。気づいていなかったのだろうその様子に、男はまた豪快に笑った。
「気が合うのはいいが、そろそろ移動した方がいいだろう。準備はいいな」
「……よぅしガキども!ギルドに帰るぞー!!」
エルザとマスター マカロフの言葉に皆元気よく返事をし、各々男に別れの言葉をかける。
男は別れの返事はせず、代わりに首をこてんと傾けて言った。
「アンタら帰り道分かんのか?」
「「忘れてたーっ!!!」」
・
◯
・
多分、あの時が一番息が合ってたと思う。
あの後結局出口まで案内してもらい、私達はどうにか帰ることができた。正直、もし出会えてなかったら一生出られなかった気がする……。
「結局、本当に家買ったのかしら……。」
そもそもあんなにさらっと家を買おうとするなんて一体何の仕事を……。指を顎に添えてうーん、と考えてみるけど、考えたところで分かる事じゃない。
でもこうやって、どうなったんだろう、と思う位にはいい人だったし、一緒にいて楽しい人だった。
「……」
ふと寂しさを感じて足が止まる。
「もし来てるなら、また会いたいなぁ……。」
「?誰か知んねぇけど、会えたらいいな!」
「うん……って、居るぅーーっ!!?」
よ、と紙袋片手に笑う姿は、何度見てもあの時と同じだ。あまりのタイミングの良さに幻覚かと思った。
「う、うそ…本物…?」
「本物も何も俺は一人しかいねぇよ。しっかし、まさか引っ越し初日で会えるとは思わなかったぜ!」
「え!?引っ越しって、」
「おう、ちょっと時間はかかっちまったけどな!」
にひひ、と笑みを浮かべるその様はまさにいたずらっ子そのもので、胸の中にあった寂しさは綺麗に消えてしまった。
「アンタらに礼を言いたかったんだよ。ここはアンタらが教えてくれた通りすっげえいい街だったからよ!ちょっと歩いただけで分かるくれぇだ。」
「ふふ、でしょ?すっごくいい街なんだから!」
「おう!ご近所どうし、これからよろしくな!」
「うんっ!よろしく!皆聞いたら喜ぶよ、特にグレイとか!」
マグノリアに来るとグレイが喜ぶ。
今までの話では疑問が浮かぶかもしれないけど、それは何故かを説明するためにも、先ほどまでの回想の続きをもう少しだけ思い出してみよう。
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▽「ナツ、村を食う」のあらすじ(見なくても良い)
【鉄の森】の邪悪な企てを阻止しゼレフ書の悪魔【呪歌】の暴走をも止めたナツ達は、マスター マカロフと共にギルドに戻ろうとする。
しかしハッピーの鼻に従い入ったのはクローバー大峡谷の奥。何も知らず迷いこんだそこは大自然の迷宮!?
容赦なく襲ってくる空腹に耐えながらもナツ達は歩き……
アカネビーチや楽園の塔でのあれそれを越えようやく帰って来れたギルドは、改築を終え色々な意味で凄いことになっていた。グッズショップやオープンカフェができてたり、酒場の奥にはプールまである!
それでも流石と言うか、最後の方にはいつも通りぐちゃぐちゃになってたけど……。
「嬢ちゃん、危ねぇぞー!」
「だいじょーぶー!」
石畳が敷かれた道の端をいつものように歩く。夕日のオレンジ色が川の水面を照らしきらきらと輝いていた。
川沿いに建てられた家々の中、しばらく先に見えるのは愛しい我が家。立地や部屋の良さのわりに家賃七万Jの超優良物件だ。部屋においてアタシはアタシを何度でも誉められると思う。
……誰かさん達がいっつも不法侵入してくるおかげで帰る度に警戒しなくちゃいけないけどね。
「家と言えば……、あれからどうしたんだろ。」
思い出すのは、蜘蛛の巣谷で遭遇したある男の事。
・
◯
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闇ギルド【鉄の森】並びにゼレフ書の悪魔【呪歌】との戦いが終わり、一同はクローバーの町からマグノリアへと帰路を急ぎ、
――――遭難していた。
「腹減ったなぁ……。」
「一々言うんじゃねえ……余計に腹が減る。」
彼達が迷いこんだのはクローバー大峡谷の奥にある蜘蛛の巣谷。ハンターギルドの熟練ですら一度迷うと出られない、自然が作った恐ろしい迷宮だ。
熟練のハンターでもない彼達も例に漏れず、それはもうしっかりと迷い、正しい道を探して早くも二日が経過していた。
しかし、帰り道は全くと言っていいほど見つからず、逆にどんどんと霧深い森へと入ってしまう始末。空腹を感じながらも、とりあえずルーシーはハッピーの道案内を信じるのは止めようと決意した。
ぐぅ~
もはや誰のものとも分からない腹の音が森の中に木霊する。霧がかかったこの空間は、うすら寒い妖しさに満ちていた。
「……ねぇ、何か肌寒くない?気味も悪いし…。」
「何かオバケとか出てきそうだよね!」
「止めなさいって!!」
オバケの真似をするハッピーにルーシーは思わず想像してしまい、背筋を震わせる。ほっぺをつねるルーシーと悪びれないハッピーのやりとりを意にも介さず、ナツがひくりと鼻をならす。そして勢い良く顔をあげた。
「うおっ、何だぁ?」
「………にく。」
「にく…?まさか!」
「肉の匂いだァアアアア!!!」
空腹はどこへ行ったのか全速力で走るナツ。それに躊躇や疑いなどの思考は一切無く、ただ食欲という本能だけで行動していることは口から垂れた涎が物語っていた。
勿論ナツ以外の者達も例外ではなく、我先にと後を追っていく。
「ちょ、ちょっと!罠とか魔獣が居たらどうすんのよ!」
「とか言う割にはダッシュだよね。」
「お前もな!」
「とにかく!ナツの嗅覚は信用できる。食糧があるなら向かう価値はあるだろう。」
「まずはダッシュじゃあガキども!!」
「ぷ、あっはははは!!その手前で右に曲がりゃあ村があったんだが…ふはっ、そりゃ災難だったなぁ!」
蜘蛛の巣谷の奥深く。木の葉の隙間からほのかに日が射し込む場所で、大きな鍋を囲みながらナツ達と一人の男が一同に会していた。
「村!?こんな所に?」
「ああ。元闇ギルドの村だが…今は改心して良い村になってんだ。っくく、オレに出会えて運が良かったぜ?アンタら。」
お玉を片手にけらけらと笑うのは、モッズコートのフードを目深に被った男だ。
鼻から下以外の露出が一切ない不審な格好ではあるが、なだれ込んできたナツ達にすぐ料理をもてなしたように、悪人でないことは明らかだった。
「すごい笑うねこの人…。」
「ちょっとハッピー!」
「あっはっは!すまんすまん、アンタらにとっちゃ笑い事じゃねえんだもんなぁ。」
ナツが肉の匂いを辿り数分。一番最初に到着したナツが見たのは、食欲をそそる匂いをたてながら男が肉やら鍋やらを準備する姿だった。
『にくぅー!』
『誰だテメェ、って勝手に手ェ出すんじゃねぇ!!』
もっともナツ以外が見たのは、ナツに拳骨を食らわす男の姿だったが。
数十分が経った今、大量に焼いてもらった筈の肉は綺麗に骨だけが残り、スープに満ち満ちていた大鍋は空っぽ。極限の空腹から解放された彼らは少し食べ過ぎたのか、わずかに苦しそうにしながらも幸せそうな表情で満腹感を楽しんでいる。
「「ごちそうさまでした!」」
「お粗末さんでした。いい食べっぷりだったぜ、アンタら!」
魔法道具だったのであろう、大鍋や器をしゅぽしゅぽとラクリマへ仕舞いながら男が笑う。
〝いい食べっぷり〟と評されたことが恥ずかしいのか、ルーシーはアハハ…、と乾いた笑いを溢していた。
「本当に助かりました、見ず知らずの私達にここまで……」
「おまえホントいい奴だなー!」「あい!」
「〝おまえ〟じゃないでしょナツ!本当、ごちそうさまでした。凄く美味しかったです!」
「……。」
「我々を代表して礼を言わせてくれんか。しかし、何か礼でも出来たらいいんじゃがのぉ……。」
「そんな気にすることじゃねぇって!大したことなんざしてねぇし、ここであったのも何かの縁ってやつだ!堅苦しい話し方もやめてくれ!」
快活に笑う男に「やっぱいい奴だー!!」とナツとハッピーが絡みに行き、空間が楽しげな空気に包まれる。不審者のごとき格好は男であることしか特徴を語らなかったが、飯をくれた際に男の懐の広さは分かりきっていた。その上少し喋ってみれば気のいい奴だと言うことも分かり、親しくなるまでに時間はかからなかった。
「?グレイ、どうかした?」
「……いや、何でもねぇ。」
こっそりと、小声でルーシーが声をかける。
……一人だけ。グレイの沈黙は男に届く前に、穏やかな喧騒にかき消される。マスターは今は静観するつもりなのか、静かに各々のやり取りを眺めていた。
「そういや、何でこんな所にいるんだ?」
「もしかして実はオバケとか!?」
「ふ……だったらどうする?」
「おまえオバケなのかーっ!?」
「うそぉーーっ!?」
「あはははっ!!冗談だよじょーだん!」
ナツの疑問にハッピーがちゃちゃを入れ、それに男が乗る。どうやら男はノリも良いようだった。
「墓参りだよ、墓参り。ぶっ潰れちまった村のな。」
ここ通ると近道なんでな、これから行く予定だったんだよ。
男は肩を竦め何でもないことのように軽く言うが、聞いた側からすればそうもいかない。エルザは素早くナツとハッピーに拳を入れ悶絶する二人と共に頭を下げた。(下げさせたとも言う。)
「すまない!不躾な質問だった、この二人にはよく言っておく。」
「いやいや、いいっていいって!」
後ろでルーシーがやっぱこの人ヤバい……と静かに震えていたが、何かに気づき更に震え出す。
「も、もしかして私達が食べたのって……その人達用の……お供え物?」
「んー……まあな。つっても、四分の一はオレ用だけどよ。」
まさかの事実を肯定されたことで巻き起こった謝罪の嵐は、男が「ホントにいーんだって。オレも村の奴らと居るみてぇで楽しかったし。」と返すまで続いた。
「んー……じゃあ、どうしても礼がしてぇっつうならよ、一つ聞きてぇことがあンだけど…いいか?」
「何だ?私達が答えられることなら力になろう。何でも言ってみろ。」
「街の事なんだけどよ、アンタら都会の人だろ?
オレ職業柄転々とすることが多いんだけどよォ、金も貯まったし、どっか家買ってみたくってな。
そこで聞きてぇんだが、アンタらのオススメの街ってあるか?」
数名が家を買うとあっさり言ってのけた男に愕然していたが、今は関係ないので置いておく。
――――少しの議論の結果、白熱したものの、最終的にはやはりマグノリアの街となった。
自己紹介すらしていない関係だと言うのにここまで盛り上がれるのは、いっそ男の才能なのだろう。ルーシーははしゃぐナツやハッピーと一緒に盛り上がる男を眺め、まるでギルドに居るみたいと錯覚していた。
「よっし!アンタらのオススメを信頼してマグノリアにすらァ。色々教えてくれてありがとよ!」
「おう!ぜってぇ遊びに来いよ!!」
「そのときはオイラのお魚分けてあげるね!」
「引っ越すまで多少時間はかかっちまうだろうけど、そン時はよろしく!あー、
男が確認するように慣れていない発音でギルド名を唱えた。
「おう!合ってる合ってる!」
「…あれ、オイラ達ギルドの事話してたっけ?」
「いんや?ただ、ギルドマークで分かっからよ。」
「……てか、アンタ達教えてないのに〝遊びに来い〟って言ってたんだ……。」
ルーシーの突っ込みにナツとハッピーは「忘れてたーっ!」と口をあんぐり開けていた。気づいていなかったのだろうその様子に、男はまた豪快に笑った。
「気が合うのはいいが、そろそろ移動した方がいいだろう。準備はいいな」
「……よぅしガキども!ギルドに帰るぞー!!」
エルザとマスター マカロフの言葉に皆元気よく返事をし、各々男に別れの言葉をかける。
男は別れの返事はせず、代わりに首をこてんと傾けて言った。
「アンタら帰り道分かんのか?」
「「忘れてたーっ!!!」」
・
◯
・
多分、あの時が一番息が合ってたと思う。
あの後結局出口まで案内してもらい、私達はどうにか帰ることができた。正直、もし出会えてなかったら一生出られなかった気がする……。
「結局、本当に家買ったのかしら……。」
そもそもあんなにさらっと家を買おうとするなんて一体何の仕事を……。指を顎に添えてうーん、と考えてみるけど、考えたところで分かる事じゃない。
でもこうやって、どうなったんだろう、と思う位にはいい人だったし、一緒にいて楽しい人だった。
「……」
ふと寂しさを感じて足が止まる。
「もし来てるなら、また会いたいなぁ……。」
「?誰か知んねぇけど、会えたらいいな!」
「うん……って、居るぅーーっ!!?」
よ、と紙袋片手に笑う姿は、何度見てもあの時と同じだ。あまりのタイミングの良さに幻覚かと思った。
「う、うそ…本物…?」
「本物も何も俺は一人しかいねぇよ。しっかし、まさか引っ越し初日で会えるとは思わなかったぜ!」
「え!?引っ越しって、」
「おう、ちょっと時間はかかっちまったけどな!」
にひひ、と笑みを浮かべるその様はまさにいたずらっ子そのもので、胸の中にあった寂しさは綺麗に消えてしまった。
「アンタらに礼を言いたかったんだよ。ここはアンタらが教えてくれた通りすっげえいい街だったからよ!ちょっと歩いただけで分かるくれぇだ。」
「ふふ、でしょ?すっごくいい街なんだから!」
「おう!ご近所どうし、これからよろしくな!」
「うんっ!よろしく!皆聞いたら喜ぶよ、特にグレイとか!」
マグノリアに来るとグレイが喜ぶ。
今までの話では疑問が浮かぶかもしれないけど、それは何故かを説明するためにも、先ほどまでの回想の続きをもう少しだけ思い出してみよう。
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