別人の記憶があるヴィンスモーク・ヨンジの話(op)
書庫にて、
ヴィンスモーク家の息子として、そして兵器としておれ達には毎日訓練が課せられていた。
身体能力向上訓練や戦闘訓練は勿論、歴史や戦術、果ては哲学等の座学もだ。毎日忙しくはあるが、一応おれ達にも自由な時間があった。
で、そういう時おれはいつも書庫に籠っていた。奴の記憶の中で気になることがあったから――と言うのもあるが、何よりおれは情報を脳に詰め込むのが好きだった。実際、得ていて損はない。
おれが書庫に入り浸り始めた最初の頃はじめじめしてるし暗いし埃っぽいしで良い環境ではなかったのだが、使っている内にイチジ達が用意してくれたり父が整えるよう命令してくれたりで、より良い環境へと変わっていった。
今じゃソファやローテーブル、ランプも完備だ。素晴らしいことこの上ない。
「ヨンジ。」
少し興奮してしまったので話を戻そう。
先ほどイチジ達が用意してくれたと言ったように、イチジやら兄弟は結構遊びに来る。
あんまり来ないのはサンジと勉強嫌いのニジ。良く来るのはレイジュと、意外なことにイチジだ。
「ヨンジ、聞いてるのか?」
こんな風にちょくちょく来る。
「うん、聞いてるよー?イチジ。」
「……」
しかも、字を辿りながら適当に返事をすると無言で睨んでくるような面倒くさいタイプだ。
と言っても、用があれば無視してそのまま喋りだすし、そうじゃない時は野次馬の居ない空間を求めているだけなので、放っておけばいい。その点だけで言えば、ニジよりもイチジの方が楽でいい。
「相変わらず本ばかり読んでいるようだな。」
「うん、これとか結構有用だよ。」
「どれだ。」
短く声を発したかと思えば、ソファーにドカッと座って身を寄せてくる。暗に見せろと言っているのだろう。(記憶の中にある〝オレ様〟とやらは、きっとイチジみたいな奴の事なんだと最近思う。)
「人体科学か。」
「そうそう、この本急所とか色々分かりやすくってさぁ。気になるの?」
「……。」
「どっちでも良いけどおれが読み終わってからにしてよ?」
「……。」
「はいはい、おやすみイチジ。」
こんなときイチジは大体目を閉じて眠りだす。
タイミングは急だし、もたれ掛かられたり枕にされるのはおれだから動けないしで結構大変だ。何気に頻度も高くなっているし。
ちなみに、安定した枕 を求めてかは知らないが、ソファを持って来たのはイチジだ。
もう二時間はたったが、熟睡しているイチジのおかげでおれは次の本は読めないし動けないしで散々だ。
直に就寝時間になってしまうし、いっそこの部屋に置いていこうと毎回思うのだが…根に持たれても面倒なこともあり毎回イチジの部屋まで送ることになる。
「イチジ、イチジー?イーチージー?」
「……。」
「あ、起きた。イチジ、もうすぐ就寝時間だよ?早く部屋に戻んないと怒られるよ?」
ぺしぺし叩きながら呼べばゆっくりともたれ掛かっていた体を起こす。
「はい行くよーイチジぃ。」
今日は楽に動いて良かったなー、なんてどうでも良いことを考えながら、イチジの手を握って先を歩いた。あの時間帯にああなるといつもこうなるから、もう慣れたことだ。
「……ヨンジ。」
「んー?なぁに?」
眠気の混じった声。イチジのこう言うところが見れるのは一日でもきっとこの時間だけだろう。
「読書って〝楽しい〟か。」
「……んー、〝楽しい〟と思うよ、多分ね。」
「……。」
「気になるならイチジもやってみたら?ほら、趣味ってやつ。」
「……。」
「あ、着いたよ。それじゃあおやすみ?イチジ。」
イチジを開けた扉に押し込めてさっさと踵を返す。やっぱりイチジも中々面倒だ。
「オススメはあるか?」
「…昨日のこと覚えてたんだ。いいよ。どんな奴が良い?よくあるのはフィクションの物語だけど。」
「作り話を聞いて何になるんだ?」
「言うと思った。」
・
ヴィンスモーク家の息子として、そして兵器としておれ達には毎日訓練が課せられていた。
身体能力向上訓練や戦闘訓練は勿論、歴史や戦術、果ては哲学等の座学もだ。毎日忙しくはあるが、一応おれ達にも自由な時間があった。
で、そういう時おれはいつも書庫に籠っていた。奴の記憶の中で気になることがあったから――と言うのもあるが、何よりおれは情報を脳に詰め込むのが好きだった。実際、得ていて損はない。
おれが書庫に入り浸り始めた最初の頃はじめじめしてるし暗いし埃っぽいしで良い環境ではなかったのだが、使っている内にイチジ達が用意してくれたり父が整えるよう命令してくれたりで、より良い環境へと変わっていった。
今じゃソファやローテーブル、ランプも完備だ。素晴らしいことこの上ない。
「ヨンジ。」
少し興奮してしまったので話を戻そう。
先ほどイチジ達が用意してくれたと言ったように、イチジやら兄弟は結構遊びに来る。
あんまり来ないのはサンジと勉強嫌いのニジ。良く来るのはレイジュと、意外なことにイチジだ。
「ヨンジ、聞いてるのか?」
こんな風にちょくちょく来る。
「うん、聞いてるよー?イチジ。」
「……」
しかも、字を辿りながら適当に返事をすると無言で睨んでくるような面倒くさいタイプだ。
と言っても、用があれば無視してそのまま喋りだすし、そうじゃない時は野次馬の居ない空間を求めているだけなので、放っておけばいい。その点だけで言えば、ニジよりもイチジの方が楽でいい。
「相変わらず本ばかり読んでいるようだな。」
「うん、これとか結構有用だよ。」
「どれだ。」
短く声を発したかと思えば、ソファーにドカッと座って身を寄せてくる。暗に見せろと言っているのだろう。(記憶の中にある〝オレ様〟とやらは、きっとイチジみたいな奴の事なんだと最近思う。)
「人体科学か。」
「そうそう、この本急所とか色々分かりやすくってさぁ。気になるの?」
「……。」
「どっちでも良いけどおれが読み終わってからにしてよ?」
「……。」
「はいはい、おやすみイチジ。」
こんなときイチジは大体目を閉じて眠りだす。
タイミングは急だし、もたれ掛かられたり枕にされるのはおれだから動けないしで結構大変だ。何気に頻度も高くなっているし。
ちなみに、安定した
もう二時間はたったが、熟睡しているイチジのおかげでおれは次の本は読めないし動けないしで散々だ。
直に就寝時間になってしまうし、いっそこの部屋に置いていこうと毎回思うのだが…根に持たれても面倒なこともあり毎回イチジの部屋まで送ることになる。
「イチジ、イチジー?イーチージー?」
「……。」
「あ、起きた。イチジ、もうすぐ就寝時間だよ?早く部屋に戻んないと怒られるよ?」
ぺしぺし叩きながら呼べばゆっくりともたれ掛かっていた体を起こす。
「はい行くよーイチジぃ。」
今日は楽に動いて良かったなー、なんてどうでも良いことを考えながら、イチジの手を握って先を歩いた。あの時間帯にああなるといつもこうなるから、もう慣れたことだ。
「……ヨンジ。」
「んー?なぁに?」
眠気の混じった声。イチジのこう言うところが見れるのは一日でもきっとこの時間だけだろう。
「読書って〝楽しい〟か。」
「……んー、〝楽しい〟と思うよ、多分ね。」
「……。」
「気になるならイチジもやってみたら?ほら、趣味ってやつ。」
「……。」
「あ、着いたよ。それじゃあおやすみ?イチジ。」
イチジを開けた扉に押し込めてさっさと踵を返す。やっぱりイチジも中々面倒だ。
「オススメはあるか?」
「…昨日のこと覚えてたんだ。いいよ。どんな奴が良い?よくあるのはフィクションの物語だけど。」
「作り話を聞いて何になるんだ?」
「言うと思った。」
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