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別人の記憶があるヴィンスモーク・ヨンジの話(op)

廊下にて、




夜。
時計の針が既に就寝時間を越えた頃、おれは明かりも持たずこっそりと廊下を歩いていた。抜き足差し足。物語上だけだと思っていたことをやるとは思わなかったが、ともかく人に見つかるわけにはいかないのだ。

「何をしているヨンジ。」
「げっ、」
「実の父にげとは何だ。」
「えへへ……。」

父さんの言及には触れず、笑顔で話をそらす。
眉を下げ反省しているような雰囲気を作り、慣れたことのように語った。

「えっと、実はね、眠れなくって…、父さんが昨日くれた本も読み終わっちゃったから…書庫に行こうと思って…」

ちなみに、真っ赤な嘘である。本を読み終えたのは嘘じゃないけど。

本当は古い研究資料や禁書が納められているという、裏書庫に行きたかったのだ。
存在は大人達の言動が小さくほのめかしてはいるものの、城の構造的に書庫の更に奥にあることは分かっていたのだが、どう行けばつくのかは分からなかった。
ところが昨日、おそらく行き方を記したと思われる暗号化されたメモを見つけ、大興奮で夜通し解いていたのだ。
で、つい先ほど解読が終わり、善は急げと忍び足で向かっていたのである。
ただ目の前に立つ国王からしてみれば、存在を隠している場所に無断で入ろうなど、快・不快以前の問題。バレれば怒られること間違いなしだ。

今回は発見さえされてしまったが、例え今の嘘が暴かれたとしても、裏書庫に行こうとしていたことさえバレなければ……、

「……。」

バレな、ければ……。

「……。」

数秒間の沈黙。後に、父さんは大きなため息を長く長く吐いた。

「……裏書庫か?」

めちゃくちゃバレてた。






立ち話も何だ、と父さんに連れられたのは父さんの執務室だった。応対用のソファに座り、足の長さが足りず宙ぶらりんの足をぶらつかせながら、のんびりと問いかける。

「父さんは、何でおれが裏書庫に行こうとしてるって分かったの?」
「……お前ならやりかねんと思っただけだ。」

そんなおれが問題児みたいな言い方、止めて欲しいよね全く。
ともかく、今のは絶対嘘だ。おれの嘘を見抜いた仕組みが気になっていたのだが、案外父ゆずりという簡単な答えなのかもしれない。

「お前こそ、何故裏書庫に行きたがる。」

父さんの目が鋭くなる。ここで嘘を言えばめちゃくちゃに怒られることは必至だろう。
おれは聞くまでのことかなぁコレと首を傾げながらも質問に答える。


「だって、イチジが王様になるんでしょ?」


父さんが目を見開く。目付きが無言で先を促していて、こう言うところはイチジそっくりだなぁなんて関係ないことを考えてながら。

「それで次男のニジが補佐になるとしたら、おれが研究員になるのがちょうどいい。父さんもそう思うでしょ?今のラボの人員も老齢化が進んでるしね!」
「……。」
「それにおれ、裏書庫に行って知りたいんだぁ。」

父さんの目をしっかりと見据える。薄く張り付いた笑みは無自覚だった。


「おれ達が受けた遺伝子改造、その詳細について!」








「遺伝子工学とかのバイオテクノロジー全部はまだだけど、塩基配列とかアミノ酸配列の遺伝子情報記述領域辺りだけならもう覚えてるから、きっと少しは理解できると思うんだぁ。」
「……ダメだ。」
「え!?何で!?」
「ダメなものはダメだ。」


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