うっかり呪われた我が強めの一般人の話(呪術)
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10月16日
俺の人生は普通だった。
特に極めて悪いこともなく、極めて良いこともなく。程々の悪いことと、程々に良いことでできた人生だった。
人とはごく普通の恋をし、ごく普通に友情を培い、ごく普通の別れを味わった。
程々の大学に進学し、程々の会社に就職。
趣味も特技もない、進学しても就職しても代わり映えのない決まりきった繰り返しの日々。
――が、俺は好きだ。
いや、大大大好きだ。
つまらない? 刺激がない? 上等!
刺激がなかろうがつまらなかろうが、そんなことはどうっでもいいね! やはり安定に勝るものはない!
そもそも俺の心はか弱いウサギちゃんなのだ。
刺激なんて、落ちているゴミをゴミ箱に捨てるとか、落とし物を届けるとか、妊婦さんやご老人に座席を譲るとか、そんな小さな善行で十二分に感じられる。
突然の覚醒とか会社が爆発するとか、そういうのは創作上の物語だからいいんだ。
もしそんなことが起きてしまえば俺の心臓は止まる。だってウサギちゃんなんだもん。
やっぱり平穏が一番だ!
通勤中そう思いながら、会社に向かった。
自動販売機の前に放置されていた空のペットボトルをゴミ箱に入れ、少し上機嫌に扉を開けた。
「はよーございます。」
挨拶の代わりに返ってきたのは、懐疑な視線だった。
・
夜も更けた頃、俺はカプセルホテルに居た。
わざわざ自宅から三駅離れ、スマホでチェックインができるカプセルホテルだ。
会社に行ったと思っただろ?あれは本当 だ。実際会社行った。
ただ、そこに俺の席はなかった。
いや物理的にはちゃんとあった、しっかり俺の名札のついたヤツが。
けれど、会社の人達の中に俺の席はなかった。上司も同期も後輩も、どういうわけか俺に対しての記憶だけがすっぽり抜けていたのだ。
訳の分からないことに直面してしまい、社員証片手に涙目で訴える俺に、直属の上司は資料を引っ張り出して「上の方に掛け合ってみるから」と話してくれた。
俺はこんな話を信じてくれた上司に涙を流しながら、社員証のコピーと電話番号を書いた紙を渡して帰路に着いた。
そう、帰路に着いた。家に帰ったのである。
しかし今俺はカプセルホテルに居る。
何故か分かるか? 分かんないだろうなぁ~。俺だったら想像すらできないもん。
まさか家の前に黒づくめの奴らが居るなんて。
俺の家は団地近くの小さなアパートだったから、遠くでも良く見えた。
ひょろひょろした黒スーツのメガネ男と、何かヤバそうなものを持った黒服のメガネ女。何度見直してもそいつらは俺の家の前に居た。
我が家の前で何かを待っているかのようなそいつらは、言うまでもなく俺が帰ってくるのを待っているのだろう。何たって俺は一人暮らしなんだから。
どうしよう! 変な人居る! こ、こういう時警察でいいんだっけ!?
あまりの恐怖に裏道に隠れ、大慌てでスマホを取り出し、――ふと思い出す。
今朝、会社で起きていた謎の集団記憶喪失。
もしかしなくても、アイツら関わってるでしょ、と。
気づいてしまえば恐怖しかない。
ナンデ!? 黒づくめナンデ!? スゴイ・アヤシイ!!
何たって黒づくめは怖いって週刊サンデーで何度も言っていた。怖い。とても怖い。
あーあーどうしよう、俺何も悪いことしてないよね? 筈だよね?
なら何でこんな――
――……よし、逃げよう。
斯くして、俺は現在カプセルホテルに居るわけだ。
どうだ、想像できなかっただろう。少なくとも俺は想像できなかった。陰謀論とかオカルト話とか全然興味なかったから。
正直なところ、何も分からない。何がどうしてこうなったのか。何故俺がこんな怖い目に合っているのか。
『夜逃げ 方法』やら『逃走 コツ』なんかを検索した画面を、何やってんだろと暗転させた。
10月16日 23:42
表示された現在時刻を眺め、ぼんやりと考える。
そもそもこんな絵空事のようなことが本当に起きていたのだろうか?
もしかしたら、ちょっと長めの夢なんじゃないか? 集団記憶喪失なんてそう簡単に起こることじゃないだろう。
例え夢ではなかったとしても、俺の家の前に居た黒づくめの人達が悪い人だという確証はない。……怪しかったけど。
もしかしたら俺を助けようと駆けつけてきてくれた人達なのかもしれない。……凄い怪しかったし知り合いでもなかったけど。
…………いや、夢だ! うん、夢。絶対夢!
きっと疲れがたまってたのだろう。
疲労が原因なら、カプセルホテルまでの道中見た化け物も幻覚と頷ける。あんな訳の分からないものが闊歩する世界などある筈がないのだから!
随分リアルな夢だったが、それももう終わりだ。現実で目が覚めれば、愛しい繰り返しの日々が迎え入れてくれることだろう。
「……何で?」
カプセルホテルで目覚め、開口一番に出た言葉はそれだった。
10月17日 05:43
スマホを見れば、月日が確実に進んでいることが分かる。
手が震える。背筋が水を浴びたように冷えていく。
もしかして、夢じゃない?
「…………大丈夫、まだあわわわ慌てる時じゃない」
カプセルホテルなので小声で呟き、チェックアウトを済ませ足早に駅へと向かう。
息が上がる。
小走りで移動しているからか、はたまた昨日、暫定夢の中で見た化け物の幻覚が消えていないからか。
一旦、一旦家に帰ろう。
電車の中で、ビジネスリュックを抱えて逡巡する。
そうだ、一度家に帰って、落ち着こう。落ち着いたら会社からの電話を待って、そうしたらきっと大丈夫。幻覚に関しては、病院に行けばいい。
大丈夫、大丈夫。
ばあちゃんだって言ってたもん。「お前が善いことをすれば必ずお前に返ってくる。」って。
俺はそんなドデカいことしてきた訳じゃないけど、それでもちゃんとやってきたし、悪事に手を染めたことなんてない。だから大丈夫だ。
きっと悪いことにはならない。あの黒づくめの人達も優しい人達かもしれないし、そもそもアレらも幻覚なのかもしれない。きっと大丈夫だ。
だから帰ろう。一旦、家に。
到着した電車が、決意を固めた俺を出迎えるようにドアを開けた。
・
次回予告
謎の出来事に戦慄しながらも、愛しの我が家へ帰ることを決意した瑞雄!
家に帰りさえすれば、元通りの生活がきっと返ってくる筈!
頑張れ瑞雄! 負けるな瑞雄!
次回、「なんかパンダ居る」
お楽しみに!
俺の人生は普通だった。
特に極めて悪いこともなく、極めて良いこともなく。程々の悪いことと、程々に良いことでできた人生だった。
人とはごく普通の恋をし、ごく普通に友情を培い、ごく普通の別れを味わった。
程々の大学に進学し、程々の会社に就職。
趣味も特技もない、進学しても就職しても代わり映えのない決まりきった繰り返しの日々。
――が、俺は好きだ。
いや、大大大好きだ。
つまらない? 刺激がない? 上等!
刺激がなかろうがつまらなかろうが、そんなことはどうっでもいいね! やはり安定に勝るものはない!
そもそも俺の心はか弱いウサギちゃんなのだ。
刺激なんて、落ちているゴミをゴミ箱に捨てるとか、落とし物を届けるとか、妊婦さんやご老人に座席を譲るとか、そんな小さな善行で十二分に感じられる。
突然の覚醒とか会社が爆発するとか、そういうのは創作上の物語だからいいんだ。
もしそんなことが起きてしまえば俺の心臓は止まる。だってウサギちゃんなんだもん。
やっぱり平穏が一番だ!
通勤中そう思いながら、会社に向かった。
自動販売機の前に放置されていた空のペットボトルをゴミ箱に入れ、少し上機嫌に扉を開けた。
「はよーございます。」
挨拶の代わりに返ってきたのは、懐疑な視線だった。
・
夜も更けた頃、俺はカプセルホテルに居た。
わざわざ自宅から三駅離れ、スマホでチェックインができるカプセルホテルだ。
会社に行ったと思っただろ?あれは
ただ、そこに俺の席はなかった。
いや物理的にはちゃんとあった、しっかり俺の名札のついたヤツが。
けれど、会社の人達の中に俺の席はなかった。上司も同期も後輩も、どういうわけか俺に対しての記憶だけがすっぽり抜けていたのだ。
訳の分からないことに直面してしまい、社員証片手に涙目で訴える俺に、直属の上司は資料を引っ張り出して「上の方に掛け合ってみるから」と話してくれた。
俺はこんな話を信じてくれた上司に涙を流しながら、社員証のコピーと電話番号を書いた紙を渡して帰路に着いた。
そう、帰路に着いた。家に帰ったのである。
しかし今俺はカプセルホテルに居る。
何故か分かるか? 分かんないだろうなぁ~。俺だったら想像すらできないもん。
まさか家の前に黒づくめの奴らが居るなんて。
俺の家は団地近くの小さなアパートだったから、遠くでも良く見えた。
ひょろひょろした黒スーツのメガネ男と、何かヤバそうなものを持った黒服のメガネ女。何度見直してもそいつらは俺の家の前に居た。
我が家の前で何かを待っているかのようなそいつらは、言うまでもなく俺が帰ってくるのを待っているのだろう。何たって俺は一人暮らしなんだから。
どうしよう! 変な人居る! こ、こういう時警察でいいんだっけ!?
あまりの恐怖に裏道に隠れ、大慌てでスマホを取り出し、――ふと思い出す。
今朝、会社で起きていた謎の集団記憶喪失。
もしかしなくても、アイツら関わってるでしょ、と。
気づいてしまえば恐怖しかない。
ナンデ!? 黒づくめナンデ!? スゴイ・アヤシイ!!
何たって黒づくめは怖いって週刊サンデーで何度も言っていた。怖い。とても怖い。
あーあーどうしよう、俺何も悪いことしてないよね? 筈だよね?
なら何でこんな――
――……よし、逃げよう。
斯くして、俺は現在カプセルホテルに居るわけだ。
どうだ、想像できなかっただろう。少なくとも俺は想像できなかった。陰謀論とかオカルト話とか全然興味なかったから。
正直なところ、何も分からない。何がどうしてこうなったのか。何故俺がこんな怖い目に合っているのか。
『夜逃げ 方法』やら『逃走 コツ』なんかを検索した画面を、何やってんだろと暗転させた。
10月16日 23:42
表示された現在時刻を眺め、ぼんやりと考える。
そもそもこんな絵空事のようなことが本当に起きていたのだろうか?
もしかしたら、ちょっと長めの夢なんじゃないか? 集団記憶喪失なんてそう簡単に起こることじゃないだろう。
例え夢ではなかったとしても、俺の家の前に居た黒づくめの人達が悪い人だという確証はない。……怪しかったけど。
もしかしたら俺を助けようと駆けつけてきてくれた人達なのかもしれない。……凄い怪しかったし知り合いでもなかったけど。
…………いや、夢だ! うん、夢。絶対夢!
きっと疲れがたまってたのだろう。
疲労が原因なら、カプセルホテルまでの道中見た化け物も幻覚と頷ける。あんな訳の分からないものが闊歩する世界などある筈がないのだから!
随分リアルな夢だったが、それももう終わりだ。現実で目が覚めれば、愛しい繰り返しの日々が迎え入れてくれることだろう。
「……何で?」
カプセルホテルで目覚め、開口一番に出た言葉はそれだった。
10月17日 05:43
スマホを見れば、月日が確実に進んでいることが分かる。
手が震える。背筋が水を浴びたように冷えていく。
もしかして、夢じゃない?
「…………大丈夫、まだあわわわ慌てる時じゃない」
カプセルホテルなので小声で呟き、チェックアウトを済ませ足早に駅へと向かう。
息が上がる。
小走りで移動しているからか、はたまた昨日、暫定夢の中で見た化け物の幻覚が消えていないからか。
一旦、一旦家に帰ろう。
電車の中で、ビジネスリュックを抱えて逡巡する。
そうだ、一度家に帰って、落ち着こう。落ち着いたら会社からの電話を待って、そうしたらきっと大丈夫。幻覚に関しては、病院に行けばいい。
大丈夫、大丈夫。
ばあちゃんだって言ってたもん。「お前が善いことをすれば必ずお前に返ってくる。」って。
俺はそんなドデカいことしてきた訳じゃないけど、それでもちゃんとやってきたし、悪事に手を染めたことなんてない。だから大丈夫だ。
きっと悪いことにはならない。あの黒づくめの人達も優しい人達かもしれないし、そもそもアレらも幻覚なのかもしれない。きっと大丈夫だ。
だから帰ろう。一旦、家に。
到着した電車が、決意を固めた俺を出迎えるようにドアを開けた。
・
次回予告
謎の出来事に戦慄しながらも、愛しの我が家へ帰ることを決意した瑞雄!
家に帰りさえすれば、元通りの生活がきっと返ってくる筈!
頑張れ瑞雄! 負けるな瑞雄!
次回、「なんかパンダ居る」
お楽しみに!
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