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自分を肯定できない聖母系ドフラミンゴの話(op)

ドフラミンゴの思考




人はそれを〝産まれる〟と言うが、私にとってその感覚は〝目覚める〟に等しかった。
定まらない視界に濁った音。
輪郭の滲んだ母を見上げ、私は理解した。


違う、と。


少し漠然としすぎているかもしれない。だが、そうとしか言いようがないのだ。
違うのだ、全てが。

家族も家も世界も、自身のこの体さえも、違う。

言うなれば、私の精神がこの肉体を、この世界を否定していた。そしてこの世界も私を否定していた。
自分がここに居てはいけない存在のように思えた。


その感覚は弟ができた時も、父から奴隷友人を貰った時も、人間となった今も変わることはなく、いっそ大きくなっていた。
腐り果てた心臓が、じくじくと身体を腐敗させていく。燻り、腐臭をたてたそれは誰にも言ったことはない。
――言うことはない。

いつまでも満たされない心と、言い様のない孤独感。
それを満たすためか、はたまた逃げるためか、私は家族や仲間と言った存在に執着するようになった。
時には大切に思うが故に手放すこともあったが、根底の醜い執着の部分は何も変わらない。
傍で大切にしたい。幸せに笑って欲しい。離れないで欲しい。


誰かに身勝手に傷つけられる事など、許せる訳がない。








炎が、揺れている。

「………。」

一つ足を踏み出せば、ぴちゃりと血が波打った。
もう一つ行けば、ぐしゃりと肉塊を踏んだ。

「………。」

私達を磔にした、天竜人に憎悪を抱く者達の成れの果て。滅茶苦茶だった。どれも人と判別することすらできない程だ。
私がやった。私が全員殺した。
ふふ、と無意識に笑みが浮かぶ。
体から出た糸は、まるで昔からそうだったかのように動いた。吊るされたこの身を解放し、殺して、殺して、細切れにした。
初めての殺しに躊躇は無かった。

「ひっ!!」
「………。」

ゆらりと踏み出した一歩に、最後の一人が悲鳴を上げた。
どんな偶然か、私達に苦しさを、悲しさを、辛さを知っているかと叫んだ男だった。



知ってるよ。

ずっと前から、産まれたときから知っているよそんなもの。
自分が分からない苦しさも、一人ぼっちの悲しさも、大切な人を奪われる辛さも。
知っているよ。
お前達こそ知らないだろう、私が毎夜悪夢を見ることを。家族や友を手に掛ける悪夢を。愛する弟に向けて引き金を引く悪夢を。


「 Do you know 知っているか  」



彼らは磔にされた俺達に憎悪をぶつけてきた。子供の、妻の、祖国の恨みと。
それを実際にしたのが俺達でなくとも関係はなく、俺達が天竜人だから、それだけだ。

理解できる思考だ。
彼らは天竜人の被害者であり、天竜人は加害者だ。私が彼らならきっと同じことをする。

だが、その結果として父が死んだ。降ろした頃には手遅れだった。
許さない。許せるわけがない。
先に憎悪をぶつけてきたのは彼らだ 。なら、私が彼らに憎しみをぶつけても、父に彼らの肉塊を手向けても良いじゃないか。
死体の隠蔽などもはやどうでもいい。
ただただ許せなかった。ただただ報いを受けさせたかった。父の痛みを分からせたかった。無意味なことだとは分かっている。それでも、この怒りはどうしようもない。


「ば、化け物……!!」


化け物。化け物。化け物。


「……そうだな。俺はきっと、どうしようもない化け物なんだ。」








背負ったロシーの体は、泣いているからかいつもよりも暖かかった。
ぐ、と体に力が入る。

もう一人になってしまった。けれど、必ず、お前だけは。


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