アーサー・カークランド(英)
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朝のロンドンは、今日もどこか薄暗かった。
カーテンの隙間から差し込む光を眺めながら、少女はゆっくりと目を覚ます。
「……寒い」
冬のイギリスはとても寒い。朝なら尚更である。ナマエはあまりの寒さに何度目かの二度寝を決め込むことにした。
そのまま布団から出る気配はまったくない。しばらくして、廊下から足音が聞こえてきた。
「おい。いつまで寝てるつもりだ?」
扉が少しだけ開く。顔を覗かせたのは、この家の主であるアーサーだった。
「朝だぞ。……って、お前まだ寝てんのか」
「あと五分……」
「その『五分』を三回くらい聞いてる気がするんだが?」
呆れた声が返ってくる。少女は布団にくるまったまま、もぞもぞと動いた。
「今日は寒いから」
「イギリスの冬なんだから当たり前だろ」
「じゃあ、アーサーさんが布団を温めてください」
「意味が分からねえよ!」
即答だった。けれど、怒っているように見えて、その声にはいつものような本気の苛立ちはない。
「……とにかく、朝飯できてるからな」
そう言って、彼は扉を閉めた。しばらくすると、廊下から再び声がする。
「紅茶も淹れてあるぞ!」
「ありがとうー」
「……冷める前に来いよ」
「はーい」
朝食があるなら致し方ない、ナマエはようやくぬくぬくの布団から這い出し、リビングへと向かう。朝食の席につくと、テーブルにはトーストと卵、それから湯気の立つ紅茶が置かれていた。
「いただきます」
「……ちゃんと食えよ」
「うん」
少女がトーストをかじる横で、アーサーは新聞を広げている。特別な会話があるわけではない。ニュースについて少し話したり、今日の予定を確認したり。少女がジャムの瓶を倒しかければ、アーサーが無言で支えたり。
「……今日、雨降るかな」
「たぶんな」
「傘持っていったほうがいい?」
「持ってけ。ロンドンの天気を信用するな」
「アーサーはイギリスなのに?」
「だからだよ」
少女が笑う。アーサーは少しだけ眉をひそめた。その顔にはあからさまな訝しみが現れている。
「何笑ってんだ」
「なんとなく」
「変なやつだな」
そう言いながら、彼もほんの少し口元を緩める。朝食が終わるころには、窓の外から雨音が聞こえ始めていた。
「あ、本当に降ってきた」
「だから言っただろ」
大仰にため息を付きながら片目を閉じるアーサー。これは彼なりのドヤ顔みたいなものだ。呆れ半分、ドヤ顔半分といったところか。
「傘……」
「玄関に置いといた」
「ありがとう」
そう返すとナマエは席を立つ。アーサーは再び新聞に目を落とす。照れ隠しのように。
「忘れるなよ」
「分かってるって」
少女が玄関へ向かう。その背中を見送りながら、アーサーははふと思い出したように声をかけた。
「あー、それと」
「?」
「帰ってきたら、いつもの紅茶の葉を買ってきてくれ」
「了解」
「あとスコーンも」
「自分で買えばいいのに」
「うるせえ。居候なんだから少しくらい働け」
「はいはい……。ま、アーサーに作られるよりマシか」
玄関の扉が閉まる。静かになった家の中で、アーサーは小さく息を吐いた。
「……まったく」
そう呟きながら、さっきまで二人で使っていた食卓を見る。いつもの朝。いつもの紅茶。いつものやり取り。特別なことなんて何もない。
それでも、彼にとっては――こういう何気ない一日こそ、案外悪くないものだった。
カーテンの隙間から差し込む光を眺めながら、少女はゆっくりと目を覚ます。
「……寒い」
冬のイギリスはとても寒い。朝なら尚更である。ナマエはあまりの寒さに何度目かの二度寝を決め込むことにした。
そのまま布団から出る気配はまったくない。しばらくして、廊下から足音が聞こえてきた。
「おい。いつまで寝てるつもりだ?」
扉が少しだけ開く。顔を覗かせたのは、この家の主であるアーサーだった。
「朝だぞ。……って、お前まだ寝てんのか」
「あと五分……」
「その『五分』を三回くらい聞いてる気がするんだが?」
呆れた声が返ってくる。少女は布団にくるまったまま、もぞもぞと動いた。
「今日は寒いから」
「イギリスの冬なんだから当たり前だろ」
「じゃあ、アーサーさんが布団を温めてください」
「意味が分からねえよ!」
即答だった。けれど、怒っているように見えて、その声にはいつものような本気の苛立ちはない。
「……とにかく、朝飯できてるからな」
そう言って、彼は扉を閉めた。しばらくすると、廊下から再び声がする。
「紅茶も淹れてあるぞ!」
「ありがとうー」
「……冷める前に来いよ」
「はーい」
朝食があるなら致し方ない、ナマエはようやくぬくぬくの布団から這い出し、リビングへと向かう。朝食の席につくと、テーブルにはトーストと卵、それから湯気の立つ紅茶が置かれていた。
「いただきます」
「……ちゃんと食えよ」
「うん」
少女がトーストをかじる横で、アーサーは新聞を広げている。特別な会話があるわけではない。ニュースについて少し話したり、今日の予定を確認したり。少女がジャムの瓶を倒しかければ、アーサーが無言で支えたり。
「……今日、雨降るかな」
「たぶんな」
「傘持っていったほうがいい?」
「持ってけ。ロンドンの天気を信用するな」
「アーサーはイギリスなのに?」
「だからだよ」
少女が笑う。アーサーは少しだけ眉をひそめた。その顔にはあからさまな訝しみが現れている。
「何笑ってんだ」
「なんとなく」
「変なやつだな」
そう言いながら、彼もほんの少し口元を緩める。朝食が終わるころには、窓の外から雨音が聞こえ始めていた。
「あ、本当に降ってきた」
「だから言っただろ」
大仰にため息を付きながら片目を閉じるアーサー。これは彼なりのドヤ顔みたいなものだ。呆れ半分、ドヤ顔半分といったところか。
「傘……」
「玄関に置いといた」
「ありがとう」
そう返すとナマエは席を立つ。アーサーは再び新聞に目を落とす。照れ隠しのように。
「忘れるなよ」
「分かってるって」
少女が玄関へ向かう。その背中を見送りながら、アーサーははふと思い出したように声をかけた。
「あー、それと」
「?」
「帰ってきたら、いつもの紅茶の葉を買ってきてくれ」
「了解」
「あとスコーンも」
「自分で買えばいいのに」
「うるせえ。居候なんだから少しくらい働け」
「はいはい……。ま、アーサーに作られるよりマシか」
玄関の扉が閉まる。静かになった家の中で、アーサーは小さく息を吐いた。
「……まったく」
そう呟きながら、さっきまで二人で使っていた食卓を見る。いつもの朝。いつもの紅茶。いつものやり取り。特別なことなんて何もない。
それでも、彼にとっては――こういう何気ない一日こそ、案外悪くないものだった。
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